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空の宇珠 海の渦 第六話 その二十一






嵐と前鬼が畏れていたことが現実となった。

 


後鬼が十二単を着ている。

 


残念ながら美しい鈴鹿御前よりも、後鬼の方が盗賊の頭らしい。




「我ながら美しいではないか…」

 


後鬼はご機嫌であったが、見ている方は辛い。

 


鈴鹿御前は後鬼の着物を借りている。

 


これで完全に入れ替わった訳だ。

 



挿絵(By みてみん)




「ほに、うちの若い頃にそっくりじゃなぁ」 



「う~ん、これほどだったか?」 



後鬼は鈴鹿御前をそう評したが、前鬼は納得していない。 



しかも、その言葉の中には鈴鹿御前に対する讃辞が含まれている。

 



「なにか文句でもあるんかいな!」



後鬼が前鬼を睨んでいる。

 



「いえ、滅相もございません…」



その眼力に前鬼が冷や汗をかいている。

 



「えらい違いじゃなぁ…」



嵐は鈴鹿御前に見とれていた。

 



美しい者は何を着ても美しい。

 



嵐はそう感じていた。

 


決して後鬼と比べているわけではない。

 


だが、皆の口から出る言葉が後鬼の心を逆撫でしている。

 



「嵐、お主までいうか…」



後鬼の怒りの波動が皆を黙らせる。

 



「問題はこれからだ…」



真魚が本題に入る。

 



「鈴鹿御前と凪と颯太は子供達を連れてこのまま海に向かう」




「海だと…」


鈴鹿御前が眉を顰める



「目立ち過ぎないか?」



「このまま山の中を行く方が安全のような気がするが…」




「見つかってもいい…」



「そなたが鈴鹿御前であることは誰も知らない」



真魚が笑っている。

 



「そうか…」



偽の鈴鹿御前はここにいる。




知らない者にとっては、それが真実の鈴鹿御前なのだ。

 


それを聞いた鈴鹿御前が目を伏せている。

 



「すまない…」



鈴鹿御前が未来を見ている。

 


それは真魚達への感謝の言葉でもあった。

 




「それで、この美しい鈴鹿御前は何をすればいいのじゃ!」



後鬼が雰囲気を変えるためにわざと声を張り上げた。

 



「美しいじゃと?」



先ほどあれだけ怒らせたにもかかわらず嵐が余計な一言を放つ。

 



「若き頃の姿を見てみたいものじゃ!」



嵐はそう言って目をそらした。

 



「後鬼はただ暴れるだけだ」



「だが、倭の兵は殺すな…」



真魚の意図は後鬼は理解している。

 


「殺さずに暴れろとは無茶な注文じゃな!」



だが、多少は文句を言っておかねば気が済まない。



「殺すなと言っただけだぞ…」


真魚が念を押した。

 


「お主…」



嵐が気がついた。

 


「無傷では希代の悪女の名が泣くではないか…」



真魚がそう言った。

 


「希代の悪女だと…」



前鬼が真魚の意図を汲み取っている。

 


「仕立て上げるのか…」



後鬼が笑みを浮かべている。

 



「征夷大将軍、坂上田村麻呂が…」



「希代の悪女、女盗賊の鈴鹿御前を退治するのだ…」



真魚の言葉は千年後には現実となっている。

 



ははははっ

 



笑っている。

 


鈴鹿御前であった。

 


「面白い…お主は本当に面白い奴だ!」



「私も…その話に乗る!」



そう言って真魚を見ている。

 


「やれ、やれ…」



前鬼が呆れている。

 


「似たもの同士か…?」



嵐はそう感じている。

 



「希代の悪女ではなく、鬼女ではないのか?」



後鬼は少しだけ不満である。




その不満も千年後には解消されている。


 


「その間に、出来るだけ海に向かって逃げろ」

 


「心配するな…飛炎と疾風の命は俺が預かる」



真魚がそう言って鈴鹿御前を見つめる。

 



「飛炎と疾風の事を頼む…」



鈴鹿御前は皆に向かって頭を下げた。



その顔は一人の少女のようであった。




挿絵(By みてみん)




続く…





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