空の宇珠 海の渦 第六話 その二十
空は晴れていた。
だが、田村麻呂にとってはどうでもいいことであった。
一日があっという間に過ぎた。
田村麻呂は戦の鎧を着けて馬上にいた。
案の定、昨日は何の成果も上がらなかった。
「この方がそれらしくていい…」
田村麻呂はそう考えていた。
田村麻呂が峠の頂上に差し掛かった時、入り口らしき山道が見つかったと報告が入った。
昨日、丸一日探しても見つからなかったものがあっさり見つかったのだ。
「俺に合わせて動いているのか…」
田村麻呂の動きは見られている。
これは明らかな事実だ。
今回は騙す側に田村麻呂もいる。
一人の傍観者に過ぎない。
だが、全てを見届ける傍観者である必要がある。
「全兵を集めろ!」
見つかったと言うことは行けと言うことなのだ。
田村麻呂はそう判断した。
そして、その場所から攻め入る段取りに入った。
兵が集まるまでには、まだ時間が必要であった。
鈴鹿御前の屋敷。
子供達がいる東対の反対側に西対があった。
凪や颯太が普段暮らしている場所だ。
だが、凪と颯太は子供達の世話や畑仕事で、ここに来ることはほとんど無かった。
睡眠も食事も子供達とほとんど一緒であった。
だが、飛炎と疾風は違った。
ほとんどの仕事をしているのはこの二人であった。
「疾風お主はどうするのだ…」
飛炎が考え込んでいる。
「あの真魚とか言う男、信用できるのか?」
飛炎は疑り深い。
「俺は御前様の目を信用している」
疾風は真魚ではなく鈴鹿御前を信頼している。
「お主は昔からそうだな…」
飛炎はそう言って笑った。
「だが、お主の言うことが正しい、俺も同じ考えだ…」
飛炎も鈴鹿御前を信頼している。
その鈴鹿御前が真魚を信用するならば、それに従うのみだ。
「惚れているなら今のうちに言っておいたらどうだ…」
飛炎が疾風を冷やかしている。
「そのつもりはない」
疾風が飛炎に答えた。
飛炎の問いは否定しない。
「お主ならたいていの女は手に入れられる…」
「それがよりにもよって御前様とは…」
飛炎はその事実が不思議でならない。
だが、縁とはそう言うものかもしれない。
飛炎はつくづくそう感じている。
その飛炎も鈴鹿御前に信頼を寄せている。
「俺たちに出来る事は守り抜くことだ…」
飛炎が疾風の目を見る。
「もともと命は預けている…」
疾風の心も決まっている。
「はははっ!お互い見届けるまでは死ねぬな…」
飛炎はそう言って笑った。
「!」
その時、飛炎が剣を抜いた。
疾風が既に刃を投げていた。
その刃が何事もなく疾風の元に戻ってきた。
「誰だ!」
「俺だ…」
柱の影から真魚が姿を見せた。
「お主達のその腕を見込んで頼みがある…」
真魚が二人にそう言った。
「頼みだと…」
飛炎はまだ真魚を信用していない。
「そうだ、お主らにしか出来ない事だ…」
真魚は二人にそう言った。
続く…