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空の宇珠 海の渦 第六話 その十六







前鬼と後鬼が屋根の上で同じ星を見ていた。


鈴鹿御前の館の裏は崖だ。

 

崖で後ろ半分の星が消えている。

 


「なんだか哀しいものだな…」


前鬼が星を見てつぶやいた。

 

「鈴鹿御前のことか?」


後鬼も星を見ている。




挿絵(By みてみん)





「もともとあの男が起こした戦だ…」

 


「その戦で親を亡くした子供達だ…」



「子供達は誰の所為でそうなったのだ…」



前鬼はその事実が心に引っ掛かっていた。

 



「盗みは良くない事だが、そうしないと生きては行けぬ…」



その哀しい事実に後鬼の心が痛んでいる。

 



「鈴鹿御前も同じだ…」



その悲しみに前鬼が揺らいでいる。

 


「そして今度は…」


後鬼に怒りがこみ上げている。

 


ふと庭を見ると鈴鹿御前が石の上に座っていた。

 


同じように星を見ている。

 


その柔らかな波動が伝わって来る。

 


その悲しみが揺れている。

 


「なんて哀しいのだ…」



後鬼が目を瞑ってそれを聞いている。

 



「なんて温かいのだ…」



後鬼の瞳が濡れている。

 


泣きながらその波動を聞いている。

 



「善悪は立場で入れ替わる…」



「真実はそこにはない…」



前鬼が星を見ている。

 



「その涙の中にあるのかも知れぬな…」


前鬼はそう言って立ち上がった。









田村麻呂は見えない所で起こった事実に驚いている。



「知らぬとは言え…神とはな…」



だが、蝦夷との戦であれを見たのだ。

 


何が起こっても不思議ではないと感じていた。

 



「鈴鹿御前も蝦夷との戦で親を失っている…」



「何だと…」



「しかも、その事にお主も関わっている…」

 


「では…その戦に…」


田村麻呂は記憶をたどってみたが、その中に鈴鹿御前の姿はなかった。 

 



「鈴鹿御前はお主の姿を見ているのだ…」



「そういうことなのか…」

 

蝦夷との戦いには何度も出兵している。



帝の命令に従ったとは言え、戦では多くの者を殺めてきた。

 



恨まれても仕方が無い。




だが、そこで何が起こっていても不思議ではないのだ。

 


負ければ何も残らない。

 


戦とはそう言うものだ。

 


田村麻呂が見てきたものはそうであった。

 



だが、蝦夷であれを見た。

 


圧倒的な力の前に、人は無力であった。

 


それが良いか悪いかなど関係が無い。  



破壊のみが事実で、そこに善悪など存在しなかった。

 


生き残った者達は命の力を失い、立ち上がることすら出来なかった。

 




田村麻呂はそれまでの自分の行いを恥じた。

 


小さき自分を思い知らされた。

 



だが、その力から全てを守った男がいる。

 



ここにいる佐伯真魚だ。

 



「それで…今度は何を企んでおる…」

 


真魚に考えがないなら、ここに来ない。

 


「乗ってもいい…」

 


田村麻呂から出た言葉は意外であった。

 


お上の命令に背くこともあり得る。

 


その可能性はかなり高い。

 


「面白ければな…」



田村麻呂はその言葉だけでけりをつけようとしている。

 


善悪などではない、面白いか面白くないかだ。

 


「変わったな…お主も…」



真魚の口元に笑みが浮かんでいる。




「あんな物を見せられてはな…変わるしかない」



田村麻呂が笑っている。

 


「闇のことか…」



真魚の笑みは変わらない。

 



「見せてやりたいものだ…腰を抜かすぞ」

 


誰にとは言わない。



そう言って田村麻呂は笑っている。

 


「それはまたの機会だ…」


真魚の口から恐ろしい言葉が生まれていた。



「はははっ!面白い…」



「どうだお主も一杯やらぬか?」



田村麻呂は機嫌がいい。



「つまらん命令に従うよりは面白くなってきたわ!」



田村麻呂のその言葉を聞いている者は誰もいなかった。




挿絵(By みてみん)





続く…





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