表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
140/494

空の宇珠 海の渦 第六話 その十四





前鬼は人が降りられぬ崖を難なく降りた。

 

降りたというよりは、飛び降りたと言う方が近い。


そこは丁度、子供達がいる東対の裏側であった。

 


「なんと…」

 

沢山の命が存在する。


前鬼はその波動を感じ取っていた。

 

「これが、この館の訳ですな…」


その横に後鬼が現れた。




挿絵(By みてみん)




姿は見ていないが、それが子供であることもうすうす感じている。

 

その時であった。

 


「媼さん、気をつけろ!」



殺意を込めた波動。



「誰にものを言っておるのじゃ!」



 

一つ、二つ…

 


三つ…

 


「三人か…」

 


前鬼はその波動を数えた。

 

おおよその場所は分かる。

 



「!」



何かが跳んできた。

 

鋭い刃が回転しながら大気を切り裂いた。

 

前鬼と後鬼は難なく避けた。

 

そして、持ち主がいる場所に戻っていった。

 


「人ではないな…」

 

その場所から声がした。

 


女の声であった。

 


その声、その波動。

 


それだけでその美しさが分かる。

 


「鈴鹿御前だな…」


前鬼が言った。

 


その声の主が姿を見せた。


その横に二人の男が立っていた。

 


鈴鹿御前を守っている。

 

明らかにそれが感じ取れる。



「私を知っているのか?」 



鈴鹿御前は二人の不審者に疑問を抱いた。



「お主ら、何者だ…」

 


自分の事を知っている。

 


それでいて生きている者はただ一人。



しかも、二人の波動に敵意はない。

 



「真魚の知り合いか…」


鈴鹿御前は直ぐに答えにたどり着いた。

 


「そうだ、儂らは前鬼と後鬼」

 

「真魚殿の手伝いをしている」

 


真魚にそのような話は聞いていない。

 


だが、鈴鹿御前は二人の波動から情報を読み取っている。



嘘ではない。

 


「真魚殿に頼まれて来たのだ」



「真魚に…」



前鬼の言葉に鈴鹿御前が目を伏せた。

 


「危険が迫っているのか…」


その使いの訳を鈴鹿御前はそう捉えた。

 


「さすがは鈴鹿御前、話が早い」

 

前鬼が感心している。

 


この少ない情報の中で、自分が置かれている状況を把握している。

 


「都から兵が出る」


前鬼はその事実を伝えた。

 


「そうか…」


鈴鹿御前は驚くこともなく、その事実を受け入れた。

 


「もう向かっている頃だ」


前鬼の言葉は時間が無い事を意味している。

 


「ここは直ぐには見つかるまい…」


鈴鹿御前はその波動を広げている。

 


「お主に伝えたいことがある」


後鬼が鈴鹿御前に言った。

 


「真魚からか…」

 

鈴鹿御前はすでにそれを感じている。

 


「ここにいる命の全てのことだ」


前鬼は真魚と同じものを感じ取っていた。

 


「うちも真魚殿には、ほとほと呆れとる」

 

後鬼が愚痴を言っている。

 


「面白い男だ…」


そういう鈴鹿御前の口元に、自然と笑みが浮かんでいる。

 


「何度も死にそうにな目に遭わされ…」


後鬼がそう言って側にいる二人の男を見つめた。

 


「無茶な仕事を頼まれ…」



「一体何を言いたいのじゃ!」



気の短い前鬼がしびれを切らした。

 



「男はこれだからいかん…」

 

「少しは、なぁ!」

 


そう言って側に立っている二人の男に振った。

 


二人とも愛想笑いをするしか方法はなかった。


その表情に鈴鹿御前が笑っている。

 



「ここでは話づらい…」

 

鈴鹿御前がそう言って二人を誘う。

 


「それもそうじゃな…」


前鬼はちらりと子供のいる東対を見た。



「あちらでお茶でも頂こうか…」


後鬼が珍しく図々しい。


 

「煮え切らぬ男の話でもどうじゃ?」

 

鈴鹿御前にそう話を持ちかけた。



鈴鹿御前は答えなかったが、その口元は笑っている。

 


どうやら恐ろしい女同士は気が合うようだ



その後ろで三人の男がびくついている。

 


この世界で恐ろしい何かが起こっている事実に気づいたらしい。





少し間を開けて前鬼が言った。




「時間は少ないがまだある…」


その言葉は、今置かれている状況の全てを顕していた。




挿絵(By みてみん)




続く…







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ