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空の宇珠 海の渦 第六話 その十一




鈴鹿御前の館を後にした。

 


盗まれた瓢箪から思わぬ事態に発展した。

 


鈴鹿御前の心の奥に秘めた想い。



それが、形になろうとしていた。

 


「おい真魚!あんな安請け合いをしていいのか…?」


嵐が話を切り出した。

 


「子供達の事か…」


子供達の身の振り方を真魚は考えていた。 



「あのままにはしておけぬ…」



「凪や颯太のことか…?」


嵐もそれは感じていた



凪や颯太も同じように戦で親を失った。


小さな子供達は鈴鹿御前が盗賊であることを知らない。



知らぬまま大人になるわけがない。



いずれ知るときが来る。



それを知ったとき凪や颯太と同じ道を選ぶであろう…



だが、こんなことがいつまでも続くわけがない。


それは鈴鹿御前も分かっているはずだ。




「急がねばならぬ…」


大きな力が動き始めている。


真魚は迫りつつある何かを感じていた。

 


「俺も何だか胸騒ぎがするのじゃ…」

 

「子供達に会った瞬間、何かを感じたのだ…」



真魚と嵐が鈴鹿御前に出会った時…


既に賽は振られていた。



その嵐の予感は当たっていたのだった。



「嵐、悪いが飛んでもらえるか?」


真魚が笑っている。



「まさか…!」


嵐の瞳が輝いた。



「そういうことなら、まかせておけ!」



そう言った時には嵐の身体が輝いていた。




挿絵(By みてみん)




田村麻呂が内裏を後に、憂えている。

 


ある貴族の一件で田村麻呂に命令が下った。




伊勢の神に詣る途中、盗賊に襲われたと言うのだ。



命は取られなかったが、神に捧げる供物を奪われた。



そのせいで願いが叶わなかったと言うのだ。



「どうせたわいのない願いを、祈りに行ったのであろう…」



「たかが盗賊、倭が滅ぶわけでもあるまい…」

 


「それを軍を率いてだと…」

 


その行いは馬鹿げている。

 


田村麻呂は呆れていた。

 


「自らの出世ごとき…何だというのだ…」


「奪ったものを奪い返されただけではないか…」

 


田村麻呂は貴族という小さき者達に腹を立てていた。

 


「世界を変えようとする男がいる…」

 

「自分だけを守ろうとする男もいる…」

 


蝦夷での戦以来、田村麻呂は自分の変化を感じている。

 


『権力とは何なのだ!』


 

自分が感じた空しさ。




「人の命は誰のものでもない…」



田村麻呂はそうつぶやいていた。

 

 

あの戦いで感じた空しさが、田村麻呂の心を揺さぶっている。

 


今までの自分の行いは全て帝に従ったものだ。

 


そこに自分の心はない。

 


佐伯真魚。



だが、あの男はどうだ。

 


あれだけの事をしておきながら、自分の為だと言い張る。

 


「全てを奪うことが権力か…」

 


「奪うのではないのだ…」


 

田村麻呂は既に感じていた。

 


「与えるのだ…」

 


田村麻呂がただ一人超えられぬと感じた男。

 


「あの男は与えたのだ…この俺にも…」

 


その事実を田村麻呂は受け入れている。

 


「そして、蝦夷にも…」

 


ものではない。

 

金や品でもない。

 


生きる希望を奴は与えたのだ。

 


人が生きる為に必要なもの。



「人はそれだけで生きられる…」



「余っている金なぞ、くれてやってもよかろう…それを…」




田村麻呂はそんなことを考えている自分が、急におかしくなった。




「はははっ…おかしいのは俺の方か…」




その考え方自体が以前の自分ではなかった。




「鈴鹿峠の女盗賊か…」



田村麻呂の心は重かった。


 

「本当に…」



「帝や奴らが畏れるほどなのか…」



田村麻呂はまだ半信半疑であった。




挿絵(By みてみん)




続く…




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