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空の宇珠 海の渦 第六話 その五





「この辺りか…」


嵐が言う前に真魚が話しかけた。

 

おおよその見当はつけていたようだ。


 

「そうだ、その沢が目印だ」


嵐は子犬の姿をしている。

 


「いくぞ!」

 

真魚はそのまま森に入っていった。

 

「いつも思うのだが、お主はどうも無いのか?」

 


「どうもとは?」

 


「結界の中だぞ!」

 

「こう、目が回るとか、頭が痛くなるとか…」

 


「それはどこにいても同じであろう」


真魚がさらりと言った。

 


「ただ、結界は仕組まれたものだ」

 

「それなりの覚悟が必要かも知れぬ…」

 


「そう言うものか…」

 

嵐は安心した。

 


「既に籠の中の鳥だと言うことだ」

 

恐ろしいことをさらりと言う。

 


それは逃げられないと言うことだ。

 


少し開けた場所に出た。

 

一部だけ森がなくなっている。

 

光がその場所に注ぎ込まれている。




挿絵(By みてみん)




「ほう…」

 

真魚は笑みを浮かべた。

 


「何かの罠か…真魚」

 

嵐はこういうことには関心が無い。

 


「この辺りの木が切られている」

 


「それは人がやったと言うことか?」

 

嵐は真魚の言葉をそう捉えた。

 


「その必要があったのであろう」

 

真魚は辺りの様子をうかがっている。

 


「行けば分かる…」

 

「真魚は奴をどう考えているのだ」

 


「あの子供のことか?」

 

真魚は立ち止まった。

 


「ただの物取りではあるまい」

 

「最近、この辺りに盗賊が出るらしいぞ」

 

真魚には心当たりがあるようだ。

 


「盗賊!あの子供が!」

 

嵐は感じなかった。



「あの足の速さはただ者ではないぞ…」

 

真魚の指摘は間違っていない。

 


「だが、盗賊と結界がどう結びつくのだ…」 


その事が嵐にはさっぱり分からない。

 


「坊主が全て善人とは限らぬぞ」

 

真魚はそう言うがまさか坊主ではあるまい。 



「瓢箪が戻れば良いだけの事だ。」

 

真魚が結論を出した。 



ぐ~~~~~っ!

 

嵐の腹が鳴った。

 


「お主が瓢箪の事を言うから思い出したではないか!」

 

それは真魚の責任ではない。

 


「そういえば、朝から何も食べてなかったな…」


真魚のその言葉は嵐に追い打ちをかけている。



「たまら~~~ん!」

 

嵐の限界は近い。

 




その建物からは空が見えた。

 

山の頂上に近い。

 

こんな所にこのような建物があるとは考えにくい。

 

しかも広い。

 

貴族の屋敷のようである。

 

その場所だけすり鉢状に平面になっている。

 


廻りが全て崖になっている。

 

門以外から進入することは難しい。

 


優雅さと防御を兼ね備えた造りになっていた。

 

奥の広間でその女は凪と颯太を前にして座っていた。

 

扇を手に持って話を聞いている。

 

他に二人の男がいる。

 


鈴鹿御前。

 

いつしか人は彼女のことを、こう呼んでいる。

 

だが、自分で名乗った訳ではない。

 

名前は別にある。

 

だが、誰も知らない。



「それは面白いものじゃな…」

 


瓢箪はまだ凪の手にある。

 

見ただけでそれがどういうものか見抜いていた。

 


「凪…」



「何でしょう御前様」

 


「お主、これをわざと颯太に盗らせたのか?」

 


「いえ、この馬鹿颯太が勝手に盗って来たのです」

 


「そうなのか…颯太」

 

御前様は笑っている。

 


「はい…」

 

だが、颯太は震えている。

 


その笑顔の前で震えが止まらない。

 


美しい。

 


吸い込まれていく様な白い肌。

 

妖艶さと、あどけなさが同時に存在する。

 


そのありえない危うさ…



それが、さらに魅力を引き立てる。

 

だが、その奥に存在するもの。

 


受け取る側はそれを『恐怖』と呼ぶかも知れない。

 

『絶望』と捉えるかもしれない。

 


その瞳に一度捉えられれば逃げられない。

 

恐ろしい女であることは間違いなかった。

 


「凪、持ち主を見たか?」

 

鈴鹿御前は凪に目を移した。



その時には瓢箪は御前の手に渡っていた。


凪が渡した訳ではない。



畏れられている理由の一つだろう。

 


「いいえ…でも、颯太が男だって…」

 


「面白い…」

 

鈴鹿御前は瓢箪を見つめている。

 


「えっ?」

 

凪は聞き返した。

 


その言葉が信じられなかったからだ。

 


「この瓢箪から出る波動…」

 

鈴鹿御前が頬ずりしている。

 

「えっ?」

 

凪は初めて見た。

 

颯太が目を見開いている。

 


凪には分かる。

 


これは完全に、獲物を前にした女の目だ。

 


「ただの男ではないぞ…」

 

そう言って二人をにらみつける。




挿絵(By みてみん)




「はい!」

 

二人は完全にひれ伏している。

 

だが、これは予想以上の結果であった。



凪が思った通り、御前様も持ち主の男に興味を持ったのだ。 


凪の考えは間違っていなかった。

 



続く…








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