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空の宇珠 海の渦 第六話 その四





嵐は子犬の姿に戻っていた。

 


「結界か?」

 

真魚は既に気づいていたようだ。

 


「お主は最初からわかっておったな!」

 

嵐は少し不機嫌だった。

 



挿絵(By みてみん)




「あのような所を、子供が一人で歩いていたのだ…」


「何かあると思うのが普通であろう」

 


後から考えれば真魚の言うこともわかる。

 



「だが、お主が撒かれるとはな…」

 


その事実が真魚には意外であった。

 


この世で嵐より速いものはない。

 


その嵐が撒かれるとは真魚でも思わない。

 


「俺が気を抜いたからだ…」

 

さすがの嵐も落ち込んでいる。

 


見つかるなと言われたが、まさか見失うとは思っていなかった。



結界が張られている事などは考えもつかない。

 


「お主はいつ分かったのだ」

 


「結界のことか?」

 


嵐はその答えが知りたい。

 


「もう気にするな…」

 

真魚が言った。

 


その言葉が嵐に突き刺さる。

 


まるで想定内だと言われているようだ。

 


嵐は気づいていないが、既に姿も見られている。

 


「入り口さえ分かればいい…」


真魚がそう言った。

 


「入り口…」


嵐はその言葉に引っ掛かった。

 


「磁力が強ければ退け合う力も強い」



「そういうものか…」


真魚の言葉で嵐が気づいた。

 


「結界の主がそれほどだと言うことだ」


真魚がその事実を嵐に突きつけた。

 


「そう言うことなのか…」

 

嵐は己の霊力で退けられたのだ。

 


だが、それは互いの霊力の証でもある。

 


「分かる者が惑わされるのだ」

 


見えないもの、感じないもの、は無いものと同じだ。

 


認識するから道に迷う。

 


虫などは逃げる際、右の次は左、その次は右と行動が決まっている。

 

迷うことはない。

 

右か左かで運命は決まる。

 


だが人はそうではない。

 


認識し未来を選ぶ。

 


人は未来を自分で掴んでいる。

 


「ああ~~~~~~~~っ!」 


元気のなかった嵐が突然大きな声を出した。

 


「どうした?」

 

真魚は笑っているが、うすうす感じている。

 


「あの瓢箪がないという事は、飯がないということだな!」


嵐が恐ろしい事実に気づいた。

 


「今頃か…」

 

真魚は嵐の言葉に呆れていた。

 


「今鳴ろうとしているこの腹を、何で満たすというのだ!」

 


この問題が…


自分にとって何よりも深刻だという事実に、嵐は今頃気づいた。

  






森の中を細い道が続いている。



道が上に向かっている。

 


二人が目指している場所は、山の上にあるようだ。

 



「なぁ姉貴、この瓢箪はそんなにやばいのか?」

 

颯太が瓢箪を持って見つめている。

 


「そんなにどころではないよ!」


姉貴と呼ばれている女は機嫌が悪かった。

 


「俺、返してこようか?」

 

颯太がその姉貴のご機嫌を伺っている。

 


「この馬鹿颯太が!」

 

「こんなものを持っている者が、見逃してくれると思うか?」


「しかも、あんな化け物まで飼っておる…」



嵐が聞けば機嫌を損ねるに違いない。



「そうなのか…優しそうな男だったけどな…」

 

颯太は真魚の姿を思い出していた。

 


「凪なぎ姉様好みの…」

 

颯太の姉貴は凪と言う名前のようだ

 


「私好みの男か…」

 


凪は一瞬笑みを浮かべた。

 


そして、少し考え込んだ。

 


「だめだ!こんなものを持っている男など信用できん!」


凪はその考えを却下した。

 


「どうせ、たぶらかそうと思ったんだろ?」

 

颯太が挑発する。

 


「私に泣かされる男は幸せなのよ!」

 

幸せとはある意味で、そう言うものかも知れない。

 


「この栓、抜いて見てもいいかな?」


颯太がそう言うなり瓢箪の栓を抜こうとした。

 


「馬鹿!待ちな!」


凪が颯太から瓢箪を奪い取った。

 


「よく見な!颯太!この瓢箪に傷はあるか?」


奪い取った瓢箪を颯太に見せる。

 


「な…ない…傷一つ無い…」

 

颯太は目をまんまると見開いている。

 


「使っていれば傷の一つや二つは付くものさ」  


「けどね、これはそう言うものさ」

 


「どういうこと?」

 

颯太は凪が何を言いたいのか分からない。

 


「簡単に言えば神業かみわざと言うことさ」



「神業?」

 

「だったら高く売れるかもしれない!」

 

颯太は自分が犯した過ちに、まだ気づいていない。



「この馬鹿颯太が!」


「いい颯太!普通の人はこういうものは持たないの!」

 


凪は瓢箪を振りながら説明する。

 


「颯太が見た男は、ただの男ではないと言うことよ!」



「そんな…」


凪にそう言われて、颯太もじわじわと罪の意識に苛まれ始めた。

 


「もう御前様に委ねるしか道はないのよ!」

 

凪はこの出来事をそう判断していた。



「そんな…」

 

颯太に悲壮感が漂う。

 


「叱られなさいな、御前様に…」

 

凪が笑ってそう言う。

 


「そんな…」

 

颯太の救いの道は凪によって閉ざされた。

 


「御前様がどう出るか見物だわ…」

 

颯太のことではない。

 


「どれほどの男か…」 

 

凪の中では既に全てが始まっていた。





挿絵(By みてみん)




続く…





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