空の宇珠 海の渦 第六話 その三
はぁはぁはぁ…
息が切れている。
「ここまで来れば…」
颯太は膝に手をついて一息入れた。
その時…
「!」
颯太の横を突風が抜けて行った。
「なんだ!」
颯太は廻りを見渡した。
だが、何もない。
今までに感じた事のない不安。
それが心を覆っていく。
自分より速いものが横を抜けた。
見えたわけではないが、その存在を感じた。
「まさか…」
颯太はその考えを否定した。
だが、心に渦巻き始めた不安は勢いを増していく。
「くそぉ!」
颯太はその不安を打ち消すかのようにまた走り始めた。
「見つかってはいないぞ…」
嵐が笑っていた。
「俺を欺いた借りは返しておく…」
嵐は空の上から颯太を見ていた。
颯太はしばらく峠の道を走っていた。
だが、ある地点で止まった。
廻りをきょろきょろ見ている。
側に沢が流れていた。
どうやらこの辺りが隠れ家の入り口らしい。
颯太はその沢の水で喉を潤した。
そうしながら気配を伺っている。
そして、立ち上がり沢を伝って森に入った。
森の木で一瞬、颯太の姿が見えなくなった。
嵐はすぐに動いた。
森に入り、先回りして確認しようとした。
だが、颯太の姿はなかった。
「まさか!」
その仕組みを嵐が分からないはずがない。
だが、遅かった。
気づいたときには颯太は消えていた。
「真魚の奴…気づいておったな…」
真魚は『面白い…』と言った。
その言葉の意味が他にも存在した。
颯太のこと以外にもあったのだ。
「仕方ない…」
嵐は深追いはしなかった。
真魚にその事実を告げに飛んだ。
森の影から 二つの影が嵐の姿を見ていた。
「何だ…あれは」
「この馬鹿颯太が!」
「あのような物に跡を付けられるとは、この瓢箪ただの物ではないぞ!」
「だが、姉貴、それしか持って無かったんだ」
いい訳をしているのは颯太だ。
その側に山にはふさわしくない女がいた。
『姉貴』、その女を颯太はそう呼んだ。
彫りが深く鼻筋が通っている。
そのあでやかな姿は男の心を引き込むであろう。
「あとで御前様にこっぴどく叱られるよ!覚悟しとき!」
その女はそう言うと、持っていた扇子で颯太の頭をこづいた。
「俺は悪くないよ…」
颯太が頭を掻いている。
「これを持って来た事が危険なのさ!」
その女は瓢箪を颯太の目の前に突きつけた。
女はこの瓢箪がどういう物か感じている。
「悪いの悪くないのは後回しだ!」
「行くよ!」
女がそう言って森の奥に向かう。
颯太はとぼとぼとその後をついて行った。
続く…