表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
125/494

空の宇珠 海の渦 外伝 祈りの傷痕 その三十一






挿絵(By みてみん)



「仕上げだ!」

 


真魚が地面に棒を立て、片膝をついた。

 


手刀印を組む。

 


七つの輪が出現し、輝き始める。

 



輪が回っていく。

 



その速度が上がるにつれ光が強くなっていく。

 


棒が輝く。

 


その光で棒が見えない。

 


その光が棒を中心にして広がった。

 



光の波紋が広がっていく。

 



その波紋が我夢に伝わる。

 


夢幻刀が振動する。



そして輝く。



まばゆき光が刀を隠す。

 



夢幻刀。

 



祈りの光で幻のごとく消える。

 


その光の中に刃が存在する。




我夢はそれをたたき込む。

 


かちん!



「ん!」

 


恭栄がそれを防げるのは、身体が動きを覚えているからだ。



反射的に反応している。



見えているからではない。



闇に心を奪われている恭栄に、その刃はもう見えない。

 


かん!

 

かち!

 


音が変わった。

 


「今だ!我夢!」

 


鉄斎が叫んだ。

 



うおおおおっ!

 


我夢はその一振りに全てを込めた。

 


かっ!

 


音がした。

 



刀が当たる音。

 


だが、完全に受けた音ではない。

 



我夢の足下に血が広がっていく。

 



「我夢!」

 


鉄斎は動こうとした。

 


「待て!」

 


真魚に抑えられた。 



「き、恭栄…」

 


鉄斎が見たものは、膝をつく恭栄の姿であった。

 



膝の前に腕が落ちている。

 


刀を持った恭栄の右手だ。

 


その刀が折れている。

 


龍牙が中程から無かった。

 



「強くなったな…坊主…」

 


恭栄が我夢を睨んでいる。

 


「とどめを刺さぬのか…」



恭栄が我夢を咎める。

 


「甘いな…」

 


「もう刀は握れまい…」

 


我夢がそう言った。

 



腕がなくなった右肩を、左手で押さえている。 



流れ落ちる血は止まらない。

 


「いい夢を見た…」

 


そう言うと恭栄は立ち上がった。

 


そして、闇に向かって歩き始めた。

 


恭栄が振り返った。

 


笑っていた。



昔の笑顔であった。



それを見た鉄斎の目から涙が落ちた。



その口元が動いた。



鉄斎に向かって何かを言った。



それが、恭栄の最後の言葉であった。

 


闇の霧が恭栄の身体を包むと、その身体は塵になった。

 


残された腕も塵に変わった。



闇は消えた。



折れた龍牙だけが残されていた。






鉄斎には恭栄の最後の言葉が聞こえなかった。



「恭栄…これでよかったのか…」



鉄斎は泣いていた。



終わった。



苦しみが二つ、この世から消えた。



その一つは闇が食らって消えた。


 

「諦めおったか…」

 


嵐がその跡を見ていた。

 

 

ばたん!

 


我夢が倒れた。



意識がない。

 


「我夢!」



皆が慌てて駆け寄った。


 

我夢の腹に、折れた龍牙の切っ先が刺さっている。

 


彩音が我夢の手をにぎる。



「ああ!」


彩音が我夢を呼んだ。

 


「やっと、うちの出番やな!」

 


後鬼が理水を持って現れた。

 



我夢の頭を起こし理水を飲ませた。

 



挿絵(By みてみん)




「傷は深くはないが…」

 


前鬼がその傷を見ている。

 


真魚が龍牙の切っ先を抜いた。

 


彩音の手を掴んでその上に乗せた。

 


「彩音、祈れ」

 


真魚がそう言ってその場に座った。

 


目を瞑る。

 


真魚の光の輪が発動する。

 


彩音にも光の輪が見える。

 


真魚の輪が回転すると、それにつられて回り始めた。

 


真魚の身体が輝きだす。

 


『血で穢れた場だぞ…』

 


美しい声が、真魚を咎める。

 


「力を借りるだけだ」

 


真魚はその声にそう答えた。

 


『お主と言う奴は…』

 


美しい声が呆れている。

 


真魚が回路を繋ぐ。

 


その生命(エネルギー)を今度は彩音が受け取る。

 


彩音の手から生命(エネルギー)が我夢に流れる。

 


「なんか、めんどくさくないか?」

 


嵐はそう感じている。

 


「お主には、真魚殿の考えは理解出来ぬであろうな…」

 


前鬼がじんわりと嵐をいたぶっている。

 


「何が違うのだ…」

 

嵐が考え込んでいる。

 


「彩音が鍵なのだ…」

 


前鬼の答えを聞いても、嵐には分からなかった。

 


「我夢は大丈夫なのか?」

 

鉄斎が前鬼に聞いた。



「見ていればわかる…」



前鬼が心配している鉄斎の肩をたたいた。





続く…






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ