空の宇珠 海の渦 外伝 祈りの傷痕 その三十
祈りの波動が上がっている。
彩音の身体が更に輝いている。
光の中に神がいた。
鉄斎は、刀が完成した時のことを思い出していた。
姿ははっきり見えなかった。
だが、確かにいた。
我夢の輝く姿はその神のようであった。
「これが真魚殿の仕掛け…」
二人が共鳴している。
「まさか、恭栄はあの時…」
五歳の子供二人を生かした理由。
「殺すつもりはなかったのか…」
鉄斎の心に一つの疑問が浮かぶ。
「こうなることを望んでいたのか…」
彩音と我夢。
二人の光を見て鉄斎はそう思った。
「あの光の向こうに、全てがある…」
そこには全ての想いが存在する。
鉄斎はそう確信していた。
『切り札か…面白いではないか…』
美しい声が真魚の心に届く。
『だが、気をつけよ、何かが違う…』
美しい声が真魚に忠告をする。
真魚はその何かに既に気づいていた。
闇が黒い霧のまま形をとどめない。
朱雀と嵐がそれと戦っている。
朱雀の炎が燃やしている。
だが、そのまま黒い霧が広がっていく。
巨大な黒い霧が、我夢を飲み込もうとしている。
真魚の棒が青く輝く。
「青龍!」
棒から出た青い雷が龍となり頭上を旋回する。
「龍じゃ!」
鉄斎は真魚が出した龍を見て、腰を抜かすほど驚いている。
「征け!」
真魚が叫ぶと真っ直ぐに黒い霧に向かった。
霧が止まった。
白と黒。
光と闇。
陽と陰。
この世は二極。
その間を揺らぐ波動。
二つの力が対峙している。
「いくぞ!」
我夢が夢幻刀を振り下ろす。
かちぃぃぃん!
恭栄がそれを受ける。
かちぃぃぃん!
かちぃぃぃん!
刀で受ける音が響く。
輝く夢幻刀。
龍牙がそれを受ける。
光が闇に吸い込まれる。
何度も、何度もそれは続く。
かちぃぃぃん!
かちぃぃん!
かちん
かちぃぃぃん!
かぃぃん
「やるでは…ないか…」
恭栄は我夢の剣の速さに驚いている。
体力では我夢の方が上だ。
明らかに恭栄に疲労が見て取れる。
受けることだけに徹している。
「だが、その剣術では俺は倒せん!」
恭栄が我夢に言った。
「やってみなければ分からぬ…」
我夢は攻撃を止めることはしない。
かちん
かちぃん
「そうだ…それでいい…」
鉄斎は既に気づいている。
それは鉄斎の仕掛けだからだ。
彩音の祈りの波動が、闇を抑えている。
共鳴し、我夢に力を与えている。
その後ろで嵐たちが戦っている。
だが、形を取らぬ敵を嵐は気に入らない。
「本当の狙いは何だ…」
嵐は心の中で対話する。
「そうか…」
「さすが兄者…」
嵐の中の青嵐が答えを出した。
真魚は我夢を見ている。
「ぼちぼちか…」
その時は近い。
真魚はそう考えている。
気は抜けない。
「真魚よ、奴らの狙いが分かったぞ」
嵐が飛んできた。
闇は青龍と朱雀が囲んでいる。
「それで、彩音を守りに来たのか?」
真魚が嵐に言った。
「奴らは全ての絶望を食らうつもりだ!」
嵐は真魚に、青嵐の考えを伝えた。
続く…