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空の宇珠 海の渦 外伝 祈りの傷痕 その二十八







闇に選ばれし者。

 


低き波動に身を委ねる者。

 


低き波動を生み出す者。

 


闇は果てしない。

 


地獄。

 


そう表現する者もいる。

 


苦しみや悲しみは生きているから生まれる。

 


五感があるから生まれるのだ。

 


全ては自らが生み出していく。




黒い霧が完全な恐怖へと変わって行く。

 


闇の力が男を動かしている。

 


意識を完全に支配している訳ではない。

 


その男の感情を食らうために、完全には支配しない。



挿絵(By みてみん)




「俺が思っていた状況ではない様だ…」

 


男は我夢にそう言った。

 


我夢は黙っている。

 


気を抜けない。

 


闇の波動が広がっている。

 


「だが、そうで無ければ…生かした意味が無い…」

 


男は覚えていた。

 


我夢と彩音の傷がその証だ。

 


怒りがこみ上げる。

 


我夢の心が乱れる。



波動が揺れる。

 




『我夢…』

 


声が聞こえた。

 


「彩音か…」

 

聞き慣れたその声。

 


だが、名を呼ばれた記憶は遠い。

 


『我夢、私の声を聞いて…』

 


彩音の声。

 


失われた声。

 


それは祈りの波動。

 


そして、それは彩音の心。



我夢は夢幻刀に、その波動を乗せた。

 


びぃぃいぃいん

 


夢幻刀が震えた。

 


光が包んでいく。

 


自らが発した光で輝いていく。




我夢が動いた。

 


かちぃいいん

 


刀がぶつかり合う。

 


かちぃぃぃん

 


かちぃぃぃん



更に激しさを増す。

 


「これほどとはな!」

 


男が驚いている。

 


押されているのは男の方だ。

 


「これは…」

 

それを見ていた鉄斎が驚いている。

 


円の動きから直線へ。

 


その動きから繰り出す剣を見事にかわしている。

 


「俺の棒は、龍牙より長い…」

 


真魚がつぶやいた。

 


「そうか…」

 


鉄斎はそう言いながら、我夢の動きを見ていた。

 


真魚の棒の間は、龍牙を越えている。

 


恭栄の龍牙は、我夢に届かない。

 


だが、我夢はその間から、仕掛ける事が出来る。

 


「無間天昇流を越えたと言うのか…」



その驚きは感動にも似ていた。

 


異なる感情が同時に宿る。

 


「剣術では我夢が上かも知れぬ、だが闇の力は果てしない…」



真魚は自分に言い聞かせる様に言った。

 


油断は出来ない。

 


過去の過ちは繰り返してはいけない。

 


真魚は三輪山での出来事を思い出していた。

 


 

男が押されている。

 


明らかに我夢が押している。

 


だが、お互いにその刃が身体に触れてはいない。

 


「恭栄…見事だ…」

 


鉄斎はその美しさに見とれている。

 


「今のお主なら、儂を倒すことなど造作もないであろう…」



鉄斎は若き頃、修業時代を思い出していた。



恭栄には一度たりとも負けることは無かった。

 


だが、その事実が恭栄を追い込んで行った。

 


その闇を鉄斎は感じていた。

 


だが、手を差し伸べなかった。

 


道は自分で切り開くもの。

 


そう考えていた。

 


恭栄が姿を消してから、鉄斎は知った。 



鉄斎の恋人、華菜(はな)に恭栄が想いを寄せていた事を…

 


その事実が恭栄を苦しめていた事を…

 



そして、ある日この村で事件が起こった。



鉄斎は剣術を捨て、刀鍛冶で生活していた。



やっと納得のいく刀が出来た。



そんな矢先であった。



炭焼き小屋に炭を取りに行き、家に帰った。



何だか様子がおかしい。



荒らされてる。



家の中で鉄斎の妻となった華菜が切られていた。



華菜の亡骸の側には茶碗が転がっていた。



龍牙がなかった。

 


背筋が凍った。

 


予感は的中した。

 

 

華菜を切ったのは恭栄であった。



そして、たくさんの村人命を奪ったのだ。

 


変わり果てた恭栄を鉄斎は哀れんだ。

 



自然と涙が溢れてきた。


 


愛する者を殺されても、それは変わらなかった。

 


鉄斎は悔やんだ。

 


原因を作った自分に責任がある。

 


そう考えていた。

 


だが、その時…



五歳ほどの我夢が、必死に彩音を守る姿が目に入った。



恭栄は幼い命を刀でいたぶっていた。


 

気がついた。



もう人ではない。



守るべきものは確かにある。



そう感じたとき、動いていた。

 


剣を抜き恭栄と戦った。

 


鉄斎は右手に傷を負い、恭栄は左目を失った。

 


そして、恭栄はその姿を消した。




挿絵(By みてみん)




続く…




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