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空の宇珠 海の渦 外伝 祈りの傷痕 その二十六









我夢が夢幻刀を構えた。

 


「ほう…」

 

男は我夢の構えを見てそう言った。

 


「大分、腕を上げた様だな…」

 


構えだけで我夢の力量を見抜いている。




挿絵(By みてみん)




「だが、今のお主では俺には勝てぬ…」

 


男はそう言った。

 


だが、我夢はその言葉にとらわれない。



意識を刀に集中している。

 


間合いがある。

 


あと二歩は詰めなければ届かない。

 


届いたとしても傷は浅くなる。

 


「我夢とやら、なかなかやるではないか…」



前鬼が感心している。

 


「剣術だけなら互角か…」

 


そう見ている。

 


「だけならな…」

 


真魚はそう言いながら、口元に笑みを浮かべている。

 



鉄斎がようやく真魚達の近くまで来た。

 


無間天昇(むげんてんしよう)流」


 

「一撃必殺の剣術だ…」



鉄斎がそう言った。

 


「なるほどな…」

 


その言葉に、真魚は驚きもしなかった。

 


「あの間は敵を油断させる為の間だ…」

 


「間が消えた瞬間、人は天に還る…」

 


鉄斎がその極意を説明する。

 


「我夢は俺の棒術と戦った事がある…」



「我夢の間はその間だ」

 


真魚が鉄斎に言った。

 


一歩踏み込んだ後の、突きを考えての二歩。

 


闇雲に取った間合いではなかった。

 


「これを…見越して…」

 


鉄斎は驚いている。

 


「お主が我夢に剣術を教えなかった理由だ…」

 


真魚は見抜いていた。

 



「一つは…」



「我夢に人を殺めて欲しくないと言う願いだ…」

 


真魚はそう言いながら、戦いから目をそらさない。

 


「そして、もう一つは…」



「我夢がどれだけ修行を積もうが、奴には勝てないという考えだ…」

 



「そこまで…」

 


真魚の言葉に、鉄斎は驚いている。




「それは、あの男とお主の剣術が同じだからだ…」

 


真魚は鉄斎の闇を見抜いていた。

 


我夢に剣術を教えることは、我夢の死を意味する。

 


奴は我夢が強くなるまで待っていた。

 


それは絶望を見せる為だ。

 


希望を絶望に変えるのだ。

 


その闇を奴は食う。

 


正確には、奴の後ろのものがそれを食う。

 


龍牙で人々を襲い続ける奴の目を見たとき、鉄斎は感じた。

 


もう人ではない。

 


「奴の心はもう救えなかった…」

 


鉄斎は目を伏せる。

 


「お主のせいではない…」

 


「剣術が同じなら、相打ちが妥当な所だ…」

 


「お主の右腕がそう言っている…」

 


真魚が言った。



奴の左目を奪ったのは、紛れもない鉄斎であった。



右腕を犠牲にし、我夢と彩音を救ったのだ。 



「そこまで見抜いておられるのか…」

 


鉄斎は真魚の洞察力に驚きを隠せない。

 


「人は理を越えることはできぬ…」

 


「だが、人は輝く術を持っている」

 


「お主が救った命…」

 


「今、こうして輝いているではないか…」

 


真魚は鉄斎にそう言った。

 



「そうだ…」

 


鉄斎の目から涙が溢れた。

 



哀しいのではない。

 


それは安堵の涙であった。

 


元凶は自分が作ったのかも知れない。

 


そう思って来た。

 


重くのしかかっていた事実。



真魚の言葉で解き放たれたような気がした。

 


「その命が、お主の輝きに変わる…」

 


真魚がそう言った。

 


すると、我夢の身体が輝き始めた。

 


その波動が大気を揺らしている。

 


無幻刀が震えている。

 


我夢が刀を振り下ろした。

 


その瞬間男が下がった。

 


「うっ!」

 


男の着物が裂けた。

 


「おのれ…」

 

男の顔つきが変わった。

 


目をつり上げ笑っている。

 


その言葉とは裏腹に、楽しんでいるかのようだ。

 


「嵐!」

 

真魚が叫んだ。

 


男の背後から黒い霧が現れた。

 


真魚が手刀印を組む。

 


真魚の棒に白い光が集まっていく。

 


「玄武!」

 


真魚が叫ぶ。



次の瞬間。



光の盾が彩音を守る。



盾が闇の矢をはじく。



「姑息な手を使いおって…」

 


嵐がその矢を食べている。


 

我夢も無事だ。

 


「俺の…楽しみを奪うな!」



男が怒っている。

 


闇の矢が、男の意図でないことがわかる。

 


「危ない、危ない…」



後鬼は既に木の上に隠れていた。

 


「だいたい読めたな…」

 


「そうですな…」

 


真魚と前鬼の考えは同じであった。




挿絵(By みてみん)





続く…









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