表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
109/494

空の宇珠 海の渦 外伝 祈りの傷痕 その十五





その日の夕餉は竹の子づくしであった。

 


山鳥も少しであるが手に入った。

 


それを他の野菜と一緒に、大鍋に入れて煮た。

 


それだけでも、鳥の出汁が効いておいしかった。

 


その鍋に、真魚が瓢箪から何かを出して入れた。

 


この隠し味がさらに深みを与えた。

 


「おーこれはうまいぞ!」

 


嵐は感激していた。

 


この頃には、鉄斎にも嵐の正体がばれていた。

 



挿絵(By みてみん)




「儂も長い間生きておるが…これは、なかなか美味いものだ!」

 


彩音と我夢も、同じ思いであることに疑いはない。



鍋一杯にあったものが、あっという間に消えて無くなった。

 


その犯人が誰かは、言うまでも無い。

 


「竹の子がこんなに美味いとはな!」

 


生で食った竹の子も美味かったが、煮た味にも嵐は感動していた。

 


「そうだ!竹の子で思い出したが、竹林の竹が一本切られておったぞ!」

 


嵐が見つけたときの状況を説明する。

 


「見事な切り口であった」



「あの男か…」

 


真魚は気づいている。



「刀であれほどの竹を切り倒したのだ…」

 


「立っている生きた竹をな…」

 


嵐があの男しかいないと言っている。

 


その切り口には、竹一本分の重みがかかる。

 


その重さも含めて切ることになる。

 


「儂が作った刀だ」

 


鉄斎が言った。

 


「何!」



皆が驚いた。

 


「奴は儂が作った刀を奪ったのだ…」

 


鉄斎がその時を思い出している。

 


「儂が龍牙と名付けた刀だ…」



「その切れ味は儂が作った中で最高のものだ」

 



「それならあの切り口もわかる」

 


鉄斎の言葉に、嵐が納得している。

 


「鉄斎殿の刀と、あの男の腕…」

 


真魚は思考の中で、その切れ味を見た。

 


我夢はその話を聞いて呆然としている。

 


自分と彩音の傷は、鉄斎の刀で付けられたものであった。  



父と母を切ったのも鉄斎が作った刀だ。

 


「刀は人を切る…人を殺める…」



鉄斎はつぶやいた。

 


「儂の作った刀が、罪もない人を殺めたのだ」



鉄斎はその事に苦しんでいる。

 


「だが、刀は人を生かすことも出来る…」



真魚がそう言った。


 

鉄斎はその真魚の言葉に揺れた。


 


「人を守れば生かした事になる…」



真魚が言った。

 


鉄斎は心の雲が晴れていくような気がしていた。



「武器というのはそう言うものだ…」



「鉄斎殿は間違っていない…」

 


鉄斎は真魚の言葉がうれしかった。

 


その瞳に涙がこみ上げる。

 


「全ては、使い手の心が決める…」



真魚の言葉が、鉄斎の心に響いている。

 


わかってはいる。

 


だが、その苦しみの時は止まったままだ。

 


心はまだ許していない。

 


自分の刀が、我夢と彩音の闇を作ったのだ。

 


その事実は変わらない。

 


「龍牙を超える…」

 


鉄斎が言った。

 


その瞬間、何かが変わった。

 


鉄斎の心の中に何かが灯った。

 


心の中で止まっていた時が、動き出す。

 


真魚の口元に笑みが浮かぶ。

 


「我夢と共に龍牙を超える…」



それは鉄斎の決意であった。

 


「出来るのか…俺が…」

 


我夢は半信半疑だ。

 


「そのために真魚殿が来たのかも知れぬ…」

 


「あの鉄を持って…」

 


鉄斎はそう考えている。

 


「どのようにして超えるのだ、龍牙を…」

 


そう言った真魚の口元に、笑みが浮かんでいる。

 


その時…

 


「そうか!」

 

鉄斎が急に叫んだ。

 


「そうだ!」

 

我夢は、鉄斎がおかしくなったのかと思った。 



「わかったのだな」

 

真魚は気づいていた。

 


「はは~ん」

 

嵐も何となく気がついている。

 


鉄斎の心の波動が広がる。

 


その瞳に光が宿る。

 


「龍牙を超える方法が…見つかった?」

 


我夢も感じていた。

 



「その手があった!」


 

鉄斎のその決意は輝き始めた。 



鉄斎の闇が光に変わろうとしていた。





挿絵(By みてみん)




続く…






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ