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空の宇珠 海の渦 外伝 祈りの傷痕 その十四






最近、嵐は彩音の守り神になっている。

 


どこに行くにも彩音と一緒である。

 


と言うよりも、彩音が行くところに嵐がついて来るのである。

 


それは、あの男がこの辺りにいるかも知れないからだ。

 


今日も彩音の畑仕事についてきている。

 


彩音は畑を鍬のようなもので耕していた。

 


これも鉄斎が作ったものだ。

 



「彩音、無理に答えなくても良いが、その傷…」



嵐はずっと気になっていた。

 


「…」



彩音は両手で顔を覆い頷いた。

 


「すまぬ、思い出させたか…」

 

嵐は彩音に詫びた。

 


その心の傷の深さを哀れんだ。

 


「我夢の傷もそういうことか…」



幼い彩音と我夢の顔に傷を付ける。

 


その行いにあの男の悲しさを見ている。

 



残虐な行為を行うことで、自らの生をつなぎ止めている。

 


嵐はあの男の目を見て、そう感じたのである。

 


だからといってその行為は許されない。

 


何人もの罪のない人を殺め、傷つける。

 


彩音の心の傷は今も残っている。



その苦しみに耐えている。



「なんか腹が減ったなぁ…」



嵐がそう言って寝転んだ。

 


ぽん!

 


彩音の手が嵐に触れた。

 


山の方を指さしている。

 


「何かあるのか?」

 


嵐がその方向を見た。



「く、食い物か…」

 


彩音が頷く。

 


その方向には竹林があった。

 


「竹の子だな!」



彩音が笑っている。

 


指を一本立てている。

 


「もう一つ…」

 


嵐がそう感じている。

 


「他にもあるのだな…」

 


嵐の言葉に彩音が微笑んで頷いた。

 


「いくぞ!」

 


嵐と彩音は竹林に向かって歩いて行った。




挿絵(By みてみん)




「竹の子など無いではないか!」

 


嵐は何もないことに文句を言っている。



それを見て彩音が笑っている。

 


彩音の彩音が地面を指さした。

 


辺りを見渡している。

 


「!」


 

彩音の動きが止まった。


 

何かを見つけたらしい。

 


よく見ると…



竹の葉の絨毯が、ほんの少し盛り上がっている。



その盛り上がりを避けるようにして、鍬を打ち込んだ。

 


すると黒いものが見えた。

 


竹の子の頭が見えた。

 


「おお、そんな所にあるのか!」

 


嵐が驚いている。

 


何百年と生きた神も、竹の子の事は知らなかったらしい。

 



「いい匂いがする」

 


嵐はその匂いを吸い込んだ。

 



「匂いがわかれば簡単じゃ!」



嵐はそう言うと、次々に竹の子を掘り出した。



穴を掘るのは得意なようだ。

 


彩音が掘り出した竹の子の皮をむいた。

 


中から美しい肌のような、竹の子が出てきた。

 


その竹の子を嵐の鼻先に持って来た。

 


「食べてもいいのか?」

 


「あ~」

 


彩音が自分の口を開けて言う。

 


その意味を理解した嵐は口を開けた。

 


嵐の口の中に彩音が竹の子を放り込んだ。

 


「おー」

 


その味に感動した。

 


竹の子の香りと、甘さが口の中に広がる。

 


「竹の子って、こんなにうまかったのか!」

 


どちらかというと、肉食である。



その嵐も、取りたての竹の子の味には驚いた。

 



「よーし!じゃんじゃん掘るぞ!」

 


さっきまで元気が無かったのが、嘘のようだ。

 


気がつけば山のように竹の子を積んでいた。

 


「これだけあればいいか!」

 


嵐は上機嫌である。

 


「どうした?」

 


彩音が呼んでいる。

 


嵐はその方向に向かった。

 


彩音が指を指している。

 


「おっ、鳥か?」

 


鳥が罠にかかっていた。

 


「もう一つとはこのことだったのか」

 


木と蔓を使い罠を仕掛けている。

 


鳥が餌をついばむと、木が跳ね上がり鳥が捕まる仕組みだ。

 


彩音は次に仕掛けた罠に、行こうとしていた。

 



「待て!彩音!」

 


嵐が急に叫んだ。

 


彩音は驚いて嵐に駆け寄った。


 

一本の竹の木が倒れている。

 


自然に倒れたのではない。

 


何かで切られていた。

 


固い竹を斜めに切り倒している。

 


問題はその切り口であった。

 


「奴か…」

 


かすかに残る波動。

 


嵐が考えつく者は、あの男しかいない。

 


「相当の使い手だな…」

 


嵐にもその切り口か、どういうものかわかる。

 


「俺から離れるな!」

 


嵐は彩音に言った。

 


幸い男の気配はしない。

 


だが、何日か前にはここにいたのだ。

 


そして、わざと手がかりを残して行ったのだ。

 


―俺はここにいる―  

 


奴はそう言っているのだ。



嵐と彩音は仕掛けた罠を廻り、獲物を集めた。

 


彩音の背中の籠が、竹の子で一杯になった。



山鳥も捕れた。

 


彩音がその重さに耐えられない。

 


「仕方ない、乗れ」

 


嵐がそう言って本来の姿に戻った。





挿絵(By みてみん)




彩音はうれしそうに背中に乗った。

 


「行くぞ!」



「きゃ!」



彩音は嵐の背中で、この瞬間を抱きしめていた。





続く…







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