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空の宇珠 海の渦 外伝 祈りの傷痕 その十一







彩音が楽しそうに籠を背負って歩いている。

 


「しょうがない…」



嵐がその姿を見つけ走って行った。

 


「まるで守り神だな…」

 


真魚が笑っている。 

 



挿絵(By みてみん)




「おい彩音!一人でどこに行くのだ?」

 


嵐が彩音に声をかける。

 


「ああ…」

 


彩音は山を指さしている。

 


「山菜採りか…」



嵐の言葉に、彩音は大きく頷いた。

 



「俺も行ってやる…」

 


「きゃ!」



嵐がそう言うと、彩音は喜んだ。

 



「一人で出歩くのは危ない、どこに行くにも俺を呼べ!」

 


嵐が彩音にそう言った。

 


動くのが嫌いな嵐がそこまで言うのだ。

 


その意図に彩音は気づいた。

 


「あ…」



彩音は嵐と真魚のために、山菜を採ろうとしていた。

 


だが、嵐の言葉で自分が軽率だった事に気づいた。

 


「俺は食い物があればどこにでもいく!」



嵐は彩音の心を察している。

 


彩音が微笑んだ。

 


嵐の心がうれしかった。

 


彩音と嵐の姿は、林の中に消えていった。




 

鍛冶場には鉄を打つ音が響いている。



しばらく鉄斎は刀を打っていない。

 


もう何年も打ってはいない。

 


何故真魚の依頼を受けたのか、我夢は不思議に感じていた。


 

真魚が来てから、不思議なことが起こり始めている。

 


なぜだかわからない。

 


この世の全てが、動き始めた様に感じる。

 


あの男への憎しみ。

 


彩音の祈り。

 


理由は無いが、答えが導き出されていく。

 


そんな不思議な感覚なのだ。

 


だが、我夢はまだ気づいていない

 


鉄斎が刀を打たなくなった理由。


 

それもまた動き始めようとしていた。



「力を入れるのではない!魂を込めるのだ!」



鉄斎は我夢にそう言い聞かせる。

 


「これは、不思議な鉄じゃ…」

 


打っている鉄に鉄斎がつぶやいた。

 


「不思議とはどういうことだ」



「我夢、お前はついてる!」



「この鉄は、儂が追い求めて来たものかも知れぬ…」



鉄斎は、灼熱に輝く鉄を見てそう言った。

 


「まったく、何者なのだ…あのお方は…」



鉄斎は想いを巡らす。

 


何十年と追い求め、見つけられなかった。

 


それが、目の前にふと現れたのだ。

 


町の中で人が出会うように前触れもなく。

 


それが、出会いというならそれでいい。

 


だが、そんな言葉では言い表せない感情が、心を支配している。



「我が人生で最高の刀を、(こさ)えて進ぜよう!」



鉄斎の心は既に決まっていた。

 


この鉄の中に、魂の全てを打ち込む。



人生の全てを打ち込む。

 


「それにふさわしいお方だ!」



鉄斎はそう確信していた。

 


その想いは我夢にも伝わっている。

 


我夢は親父のそんな顔を初めて見た。

 


一人の男の人生。  



自分の流す汗と、親父の流す汗は同じではない。

 


そこには違う生き方がある。



我夢はそう感じた。



鉄斎の人生を感じた瞬間であった。





挿絵(By みてみん)





続く…




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