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空の宇珠 海の渦 外伝 祈りの傷痕 その九








夕餉はささやかであったが、心のこもった時が流れていた。

 


鉄斎は嵐の食欲に驚いていた。

 



だが、嵐にはもの足りないようであった。

 


真魚がこっそり瓢箪から食材を提供した。



それでようやく落ちついた様だ。

 


話を切り出したのは我夢であった。

 


「親父、真魚の刀を手伝わせて欲しい!」

 


鉄斎は驚いていたが、真魚の条件だと言うことで納得した。

 


「刀は魂を込めて打つものじゃ、簡単な事ではないぞ!」  




挿絵(By みてみん)




鉄斎は我夢にそう言い聞かせた。

 


「そうと決まれば明日からじゃ!」

 


鉄斎はそれでもうれしそうであった。

 


仮の親として、今まで我夢と彩音を育ててきた。

 


息子同然の我夢が手伝うと言ったことが、



信じられない様であった。




「真魚殿は何もかもお見通しの様じゃな…」

 


鉄斎は真魚にそう言った。

 


真魚が全てを変えている。

 


真魚に関わる者はそう感じるかも知れない。

 


だが、真魚が動いている訳ではない。

 


真魚は側にいるだけである。



動いているのは自分自身。



結局、自分が動かしているのだ。

 


それが願いであれ、想いであれ、同じ事である。

 


しかし、真魚が来なければ、起きない事実かもしれない。 




道が無いなら切り拓けばいい。

 


その術は無限に存在する。

 


切り拓かれた道を進んで行くのは自分である。

 



我夢も彩音も、その道を行こうとしている。

 


その事実を鉄斎はうれしく思っていた。

 



「ところで、真魚殿はあの男を見ましたか?」

 


鉄斎が真魚に聞く。

 


「見た、あの男は侮れぬ…」



真魚がそう言った。

 


「鉄斎殿は奴の剣を見たことが…」

 


「この二人を助けたのは儂です…」

 


幼き我夢と彩音は、あの男に殺されそうになった。

 


それを救ったのは鉄斎の剣だ。

 


「そうだったのか…」

 


我夢は驚いている。

 


「では、親父はあの男と剣を交えたのか?」

 


幼き記憶は、その事実を覚えていない。

 


「奴は逃げた…」

 


鉄斎は言った。

 


「畏れをなして逃げたのではない」



「悲しみを残すために…奴は逃げた…」

 


鉄斎はその状況を思い出していた。

 


「そう言うことか…」



「悲しみはいずれ、憎しみに変わる…」



我夢は、真魚が言った言葉を思い出した。

 


一目であの男の心を見抜き、力量さえも測っている。

 


その事実に、我夢は驚いている。

 


「あの男は強い…儂ですらわからぬ…」

 


鉄斎の言葉は、我夢に相当の覚悟を求めている。

 


「あの目が忘れられぬ…感情がないあの目が…」



鉄斎が拳を握る。

 


「儂は初めて暗闇の淵を覗いた…」

 


「暗闇の淵だと?」

 


我夢はその表現が不自然に感じた。



「奴は畏れたのではない、奴の中にそれが存在したのだ…」



鉄斎の言葉は、本質を突いている。

 


「それが、闇にとらわれた者の心だ…」



真魚が言った。

 


我夢はそのものを一度見ている。

 


真魚が来なければ、恐らく…飲み込まれていたであろう。

 


「残された悲しみを憎しみに変えさせ、それを食らう…」 



我夢は真魚の言葉に震えていた。

 


「だが、放っておけば、沢山の我夢や彩音が生まれる事になる」



真魚の心は決まっている。


 

「我夢、お主に出来るか?」

 


真魚は、我夢に再度聞いた。

 


「誰かが、やらねばならぬ…」



「俺と同じ思いはさせたくない!」



我夢の心もすでに決まっていた。





気がつくと囲炉裏の側で、彩音が眠っていた。



嵐を抱える様にして、眠っている。

 


それは、我夢が初めて見る彩音の寝顔であった。



こんなに安心した表情は今までに無かった。

 


嵐を抱きながら嵐に包まれている。

 


その安心感が彩音に安らぎを与えているのだ。

 


「こんな彩音を…初めて見ました…」

 


鉄斎はその寝顔を見てそう言った。

 


それは我夢も同じであった。

 


「彩音はもう大丈夫だ…」

 


真魚が微笑んでそう言った。



その願いは、すでに動き始めていた。




挿絵(By みてみん)




続く…





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