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空の宇珠 海の渦 外伝 祈りの傷痕 その八





残された真魚の後ろに、人の気配があった。

 


我夢であった。

 


「どうした、殺しにでも来たのか…」



真魚のその言葉で、我夢は気がついた。



「そんなに怖い顔をしているのか、今の俺は…」

 


真魚は笑っている。




挿絵(By みてみん)




「鉄斎の親父に、何か吹き込まれて来たか?」

 


真魚は既に気づいていた。

 


「あの男を倒したいのか?」

 


「どうして、わかるのだ…」



「そういう顔だ、今の顔は…」

 


「そうなのか…」

 

我夢は、素直に受け入れている。

 



「俺に剣術を教えてくれ!」

 


我夢は真魚に頭を下げた。

 


「鉄斎の親父は、教えてくれなかったのか?」



「どういうことだ!」


 

真魚の口から出た言葉に我夢は混乱した。

 


「分からぬのか、お主は…」



「あの親父も相当の使い手だと言うことだ…」



「なんだと!」


我夢は信じられない。

 



「何故、鉄斎の打つ刀が幻とされるかわかるか?」

 


真魚は我夢にその答えを求める。

 


「それは…」

 


我夢には答えが浮かばない。



「この刀を見てみろ…」

 


真魚は幻術のように、その刀を出した。



「これは…さっきの…」

 


黒漆大刀。

 


坂上田村麻呂の刀だ。

 


田村麻呂が所持しているはずの刀を、何故か真魚が持っている。

 


だが本来は帝が持っていた刀だ。

 


鉄斎はその事実を知っていたことになる。 



真魚は刀を鞘から抜いた。

 


我夢は刃先を見つめている。

 



「強さ、美しさ全てを兼ね備えている…」



「だが、これは職人の刀だ…」

 


真魚は刀を一振りする。

 


「刀の軌道は円を描く」



「だがこの刀は直刀だ」



「そういうことか…」



我夢は真魚の言っていることが分かって来た。

 


「剣の達人にしか生み出せない刀がある…」 



「それが鉄斎の刀が、幻とされる所以なのだ…」



我夢は、身近に剣の達人がいることに気がつかなかった。

 


だが、真魚は一目で見抜いていた。

 


そして、鉄斎もまた真魚の実力を見抜いていた。

 


「条件がある…」

 


真魚が、我夢に向かってそう言った。

 


「何の条件だ」

 


「刃を向けるのは、あの男だけだ…」



真魚は、我夢の心を探っている。

 


「かまわない…」



「俺はあの男を倒したいだけだ…」

 


我夢の意思は固い。 

 


「それともう一つ…」

 


「何だ!」

 


「俺が鉄斎殿に頼んだ刀を、お主も手伝うと言うことだ…」

 


「そ、それは親父が決める事だ…」

 


我夢の心が揺れる。

 


「鉄斎がこの条件を呑ま無ければ、この話は無しだ…」

 


真魚がきっぱりそう言った。



「やってみる!」



真魚は我夢の決意を確かめた。



「それは俺からも頼んでみる…」



真魚は他に何か考えている。




「ああ~~!」

 


そこに光が落ちてきた。

 


嵐であった。



彩音を乗せている。

 


「ふっ…」


 

真魚は笑っている。

 


真魚は彩音の波動を感じて笑ったのだ。

 


「あはっ!」

 


彩音は嵐から降りた。

 


嵐は直ぐに子犬の姿に戻った。

 


彩音は、子犬の嵐を抱きしめた。

 


「地の果てまで行ってきたのか?」

 


真魚が嵐をからかった。

 


「まあな…」

 


嵐はそれだけ言った。

 


だが、真魚にはわかっている。

 


この短い間に、彩音の波動がこれだけ変化したのだ。

 


嵐の想いが彩音に通じたと言うことだ。

 



ぐうううう~



嵐のお腹が鳴った。

 


「そういえば親父が呼んでいた…」

 


「大した物はないが、呼んでこいって…」

 


我夢が、真魚の所に来た本当の理由はそれであった。



彩音が真魚の袖を引っ張る。

 


「なんだ、ご馳走なのか?」

 


そう言って嵐が走った。

 


それを彩音が追いかけた。

 


「あんな…楽しそうな彩音を見たのは初めてだ…」

 


我夢がつぶやいた。

 


「彩音は自分を変えようとしている…」

 


「自分で未来を変えようとしているのだ…」



真魚が我夢に言った。

 


「未来を変える…」

 


我夢がつぶやいた。

 


「それが、彩音の祈りの理由だ…」



真魚はそう言って微笑んだ。

 


「彩音の…祈り…」

 


我夢は毎日祈る彩音を見ていた。

 


だが、その理由を考えた事はなかった。

 


「俺たちの未来…」

 


我夢の心も動いていく。

 


見えない力に押されていく。

 


全ては…

 


真魚に出会ってからだ。

 


我夢はその事実を受け入れている。

 


そんな自分の心が、不思議でならなかった。




挿絵(By みてみん)




続く…




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