空の宇珠 海の渦 外伝 祈りの傷痕 その七
日が傾き始めていた。
真魚に祈りが届いていた。
その波動は切なく美しい。
それは彩音の心であった。
彩音の願いであった。
「彩音か…何だか切ないなぁ…」
それを聞いている嵐がいる。
「気になるのか?」
真魚がからかう。
「人というのは、どうしていつもこうなのだろうと思ってな…」
嵐が嵐らしくないことを言っている。
「人の世を憂うなど、珍しいではないか…」
真魚はそういいながら、その変化を気に入っている。
「神であるお主とは見えているものが違う…」
「理解する方が難しい…」
真魚は事実を言った。
「あの鳥は何故飛んでいるのだ、と言っている様なものだ…」
真魚は飛ぶ鳥を見てそう言った。
「彩音を迎えに行く!」
嵐が急にそう言った。
嵐は本来の姿になり飛んだ。
「やれやれ…」
嵐は、真魚を置いて行ってしまった。
楠の祠のまで彩音は祈っていた。
「毎日祈っているのか?」
彩音の背中から声が聞こえた。
「あっ!」
彩音は驚いた。
そこに、本来の姿である嵐がいたからだ。
「乗れ!この辺りは危険だ…」
嵐がそう言って地面に座った。
「…」
彩音は少しためらったが直ぐに背中に乗った。
「しっかりつかまっておれ!」
嵐がそう言うと飛んだ。
「あきゃ~~~~~!」
悲鳴とも取れる叫び声を彩音は上げた。
「行くぞ!」
嵐は高度を上げた。
「わ~~~~~~!」
彩音は目を閉じていた。
あまりの速さについて行けなかった。
嵐が止まった。
星の丸みが見える高さまで来た。
嵐の霊力で守られていなければ、人は死ぬ。
彩音は勇気を出して、目を開けてみた。
「あっ!」
目を疑った。
美しい世界。
星の青と宇宙の黒。
輝く無数の光。
彩音は感動していた。
彩音の鼓動が聞こえる。
見たことがない…
この世界が広がっていた。
「あ…」
彩音が何かを感じている。
「目を閉じて感じてみよ、本当の世界が見える…」
嵐は彩音に言った。
「あ…」
生命の波動が溢れている。
この星の全ての生命が輝いている。
目を瞑っていてもその輝きが見える。
彩音の波動が高まる。
波長が上がっていく。
それは嵐にも伝わっている。
「ああっ!」
彩音の中で何かが弾けた。
彩音がそれを抱きしめている。
自らの心を抱きしめている。
彩音の身体が輝きはじめた。
「…」
彩音が嵐にしがみついた。
頬をすりつけている。
『ありがとう』
嵐にはその言葉が聞こえている。
「行くぞ!」
嵐はそう言うと急降下を始めた。
「きゃあ!」
彩音が叫ぶ。
楽しんでいる。
その波動が聞こえる。
彩音が感じ取ったものは、嵐にはわからない。
だが、心の波動は嘘はつけない。
彩音が手に入れたもの…
それは、嵐の想いでもあった。
続く…