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空の宇珠 海の渦 外伝 祈りの傷痕 その六






真魚は畑の側に座っていた。

 


子犬の嵐が横で寝ている。

 


春の光が草の緑を鮮やかに見せる。



あの男の事を考えていた。

 


闇を畏れない男。

 


それは闇に心をとらわれた者だ。

 


人をおとしめ、利用し、殺す。

 


どれにもためらうことがない。

 


それは、普通の者が良い行いをためらわないのと同じだ。

 


真逆の思考なのだ。

 


光を見るか、闇を見るか、ただそれだけが違う。


 

だが、それは生死と同じようにこの世に存在する。

 


創造があれば破壊がある。

 


破壊があれば創造がある。

 


どちらが良いとか悪いとかではない。

 


この世が持つ性質、理の一部なのだ。




挿絵(By みてみん)




その男が我夢を狙っている。

 


我夢だけではない。

 


生きる者が全て狙われる。



何かを奪うことでしか得られぬ“生”なのだ。

 


『どうした、お主らしくないな…』

 


美しい声が真魚の心に響く。

 


『闇に生きる者か…多少厄介ではあるな…』

 


「ああ…」

 


『同じことだ…』

 


真魚は黙っている。

 


『光も闇も…』



美しい声はそれで消えた。

 


ぐううう~

 


嵐のお腹が鳴った。

 


まだ夕餉には早い。

 


「腹減ったなぁ~今日は働いたからなぁ…」

 


嵐が目を瞑ったままつぶやいた。

 


「もう少し食っておけば良かったなぁ…」

 


嵐は闇の力を、自らの霊力に変える。 

 


以前、青嵐と融合してから力が増した。



その分、霊力の消耗も激しいのだ。

 


子犬の姿の方が消耗は少ない。



だが、消耗することに変わりは無い。

 



「あの男はいずれ現れる…」

 


真魚がつぶやく。

 


「闇と一緒にか?」

 


嵐が気づいている。

 


「恐らくな…」

 

真魚はそう言って寝転んだ。

 


草の柔らかさが心地良い。

 


空が目の前に広がった。

 


「けりを付けねばなるまい…」

 


真魚の心はすでに決まっていた。

 


 








鉄斎は鍛冶場で、真魚から預かった鉄を見ていた。

 


見れば見るほど不思議な鉄であった。

 


たたらの(はがね)ではない。

 


刃には使えないが、心には使える。

 


鉄斎は頭の中でその形を描いていた。

 


心象(イメージ)の中で既に鉄を打っている。



そこに我夢が姿を見せた。




「ここには滅多に来ぬお主が、何の用じゃ…」

 


鉄斎は我夢の顔色で察している。



「あの男に会った…」



「あの男…それはお前達の父を…」

 


「そうだ、あの男だ!」

 


「生きておったのか…」

 


鉄斎はその時を思い出していた。

 


我夢は父の刀に触れる。

 


「あれは、お前が幼き頃の話だ…」

 


鉄斎は忘れろと言い続けた。

 


「あの顔は忘れない、忘れるはずがない!」

 


我夢は、奥歯を噛みしめた。

 


「あの男はどうした?」

 


「姿を消した、まだこの辺りにいるはずだ」

 



「真魚殿に助けられたのか…」


 

鉄斎は見抜いている。

 


今の我夢に、あの男は倒せない。

 


「俺はあの男に勝ちたい…」

 


我夢が、振り絞るような声で言った。

 


「止めておけ、お前には勝てぬ…」

 


鉄斎は、その男の力量を知っている。



「真魚にもそう言われた…」




「ほう、さすがは真魚殿じゃな…」

 


そう言って鉄斎が、我夢の目を覗く。

 


「ひとつ方法がある…」

 



「なんだ、それは!」

 

鉄斎の言葉に、我夢の心が動く。

 


「真魚殿に剣術を教えてもらうことだ…」

 


我夢にはその考えはなかった。



「真魚が、それほど強いと言うのか!」

 


「それをわからぬお前に、その資格があるかのう…」



鉄斎は我夢の力量も見抜いている。

 


震えている。

 


拳を握りしめている。

 


鉄斎の言葉に震えている自分がわかる。

 


「全ては、佐伯殿が決めることだが…」

 


我夢に光が射した。

 


だが、その光は闇に向かっているかも知れない。

 


わかっている。

 


だが、逃げられない。

 


あの男を倒すためだけに生きてきた。

 


それだけの為に…

 


あの男を超えなければ未来は来ない。

 


あの男と刃を交える。

 


我夢はその未来を既に描いている。

 


だから震えている。

 


波動が高まっていく。

 


心が震えている。

 


怖いのではない。

 


何かに突き動かされる。

 


抑えられない。

 


その衝動に、我夢の震えは止まらなかった。




挿絵(By みてみん)




続く…




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