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命短し恋せよ少女 ~あたしは偽物王子様~

作者: 深水晶

本作はGLガールズラブではありません。

たぶん。

「死ねや、ボケ」

 あたしはキッパリ言った。

「そういうこと真顔で言うなよ〜」

 ボケ兄貴がヘラヘラ顔で言う。

「ふざけんな。なんでりぃこをアンタに紹介しなくちゃならないのよ」

「だ〜からさ、一生のお願い。この通りッ! お兄ちゃん、一目惚れなのッ。ね、サトちゃん?」

「だから、なんでアンタみたいに穴さえありゃ誰でもいい腐れ外道に、親友紹介しなきゃいけないのよ! 判ったら死ね。死んで詫びろ!!」

「相変わらず強烈だな、我が妹は」

「誰のせいだと思ってんの」

 このクソバカ顔だけ性悪兄貴のせいで、友達なくすこと三回、迷惑被ること四回、女を取られて逆上した男に絡まれること計六回、手を出された女の友達に取り囲まれること計八回などetc。

「こうなったらもう殺すしか!」

「だから真顔で言うのやめてよ〜」

 とりあえずニヤけ面にムカついたから、腹蹴りかましておいた。



「というわけだから気をつけてね、りぃこ」

 あたしが言うと、りぃここと里中璃衣子(さとなかりいこ)はおっとり笑った。

怜子(さとこ)のお兄さんって、三年の高島明史(たかしまあきふみ)さんですよね」

「あのケダモノに、さん付けはいらないから」

「明史さんと言えば、校内の伝説ですよね。現代に生きる光源氏とか。でも、光源氏は実在しませんよね」

 そう言ってコロコロと鈴の鳴るような声で笑う。

 おっとりはんなりした顔と口調で、りぃこは結構毒舌家だ。

 言い方や表現が柔らかいので、鈍いヤツは嫌味言われてる事にも気付かない。

 今の発言をあたし風に翻訳したら『光源氏の再来つっても元から実在しないヤツじゃどのくらい似てるか区別つかねーだろ、ケッ』だ。

 もちろんりぃこは、そんな事言わない。

 りぃこはお嬢様だ。創業七十年の和菓子屋の娘で、二歳下の弟がいる。子供の頃から、日舞と茶道と華道と書道と琴とピアノを習っていて、最近琴と書道をやめたらしい。

 彼女は市内の女子短期大学に進学後、婚約者と結婚することが既に決まっている。

「あのバカ兄には常識とか良識とか通じないから、本当に気をつけてね」

 真剣に言うと、りぃこは、

「だけど、私もたまには奔放になってみたいと思います」

「え、まさか」

「……ですけど、明史さんは、ご遠慮させていただきます。色々恐いことの方が多そうですから」

 そう言って、ふふふ、と口元を手で隠してしとやかに笑う。

「そ、そうよね」

 あ、焦った。慌てるあたしを見て、りぃこはクスクス笑った。

「怜子は、本当に愛らしくて素敵ですわ」

 そんな事を言ってくれるのは、りぃこだけだ。

 こう言っちゃなんだが、あたしの顔はかなりの男前だ。

 ○ャニーズJr.も真っ青な美少年顔と言われる事もある。

 まぁ、自分でも悪くないなと思う。

 男だったら惚れる、ってあたしじゃん。

 胸はペタンコだし、尻も貧弱。とても女には見えない。見られない。

「またまたぁ、おだてないでよ」

「おだててなんかいませんわ。怜子ほどきれいな女の子を私は見たことありませんもの」

 その台詞を美少女に言われるとは、非常に複雑な心境だ。

 もっと小さくて可愛い女の子に生まれたかったと思う。

 でなければ、いっそ身長百七十センチ以上の長身になりたかった。

 そしたらかなり等身高いモデル体型になれたのに。

 何だか中途半端だ。

 男にはなれないし、女にもなりきれない。

 だからといって無性別にも中性にもなれないわけで。

 基本女思考なくせに可愛い女の子に頼られると、半端ながらも王子様になる。

 本当は嫌なことでも「まかせな!」とか言って無理しちゃうし、少々腹が立ったり苛立ちを覚えても頼られると「仕方ないなぁ」なんて庇ってあげちゃう。

 たぶん都合の良い時だけの王子様扱いなんだけど、それも判った上で期待に応えて、演じちゃう。

 受け狙いとか媚売ってるとかじゃなくて。

 メリットなんかまるでないけど、何となく女の子の夢は壊しちゃいけないような気がして、それが義務で責任みたいな気がして『みんなの王子様』を演じてる。

 兄貴なんか見てると判る。

 男が全てそうだとまでは言わないけど、あたし達くらいの年代の男共は、恋より愛よりエッチな事がしたい。

 その点、あたしみたいな性別女でレズっ気皆無な偽王子なら、害はない。

 恋に憧れつつも、本物の男は恐い、本気で傷付きたくない女の子達が、きゃーきゃー騒げる身近な距離の偽王子なら、いくら近付いても、危険な目には遭わない。

 疑似恋愛には持ってこいだ。

 たまに疑似と本物が区別つかないのか、本当にレズなのか、本気で迫ってくる子もいる。

 だけど私は長年見てきて判っている。

 本当に女の子が好きな女は、あたしみたいな偽物に声をかけたりしないのだ。

 たまに女の子に体を触られたり、キスされたりする。

 基本的には拒まない。

 だけど最後の一線だけは絶対に越えない。

 さすがにあたしにだって、ロストバージンには夢があるのだ。

 本気で好きでもない子としようとは思えない。

 だから服の上から触らせるけど、直には触らせないし、服も脱がない。

 だけど、時折やたら気持ち良くて、困ってしまう。

 ディープなキスは特にヤバイ。

 っていうか、処女で初恋もまだで、男と付き合った事もなくて、真性レズでもないのにあたしヤバくない?

 りぃこはそんなあたしの悩みやジレンマを、ガチで聞いて相談に乗ってくれる心許せる友人だ。

「怜子はもっと自分に素直に、自由に生きるべきですわ。だから、時折疲れたり苛々してしまうんです。無理は禁物ですよ」

「そりゃ、判ってるんだけど。兄貴みたいの間近に見てると、あたしがこんな連中から守ってあげなきゃ、誰が代わりに守ってくれるのとかって思っちゃって」

「都合の良い偶像になって、自分を押し殺して青春無駄にするなんて、愚の骨頂ですわ。怜子はもっと青春を、人生を謳歌しなくては。『命短し恋せよ少女(おとめ)』です」

「あはっ、ゴンドラの歌?」

 クスクスと笑った。

「だけど、あたしの容姿じゃ相手がいなくない?」

「大丈夫です。心配いりません。怜子は十分魅力的です。それが判らない男は、見る目がないのだから、そんな無粋な連中をわざわざ怜子が相手にする必要はありませんわ」

 ニッコリ優しくしとやかに微笑む。

 いい加減なれたが、強烈だ。

 水素爆弾並の威力があると思う。

 苛烈で辛辣、一刀両断。

 バッサリ直撃で斬られた男は、たぶん一ヶ月は立ち直れない。

 決して感情的にならず、激せず、あくまでおっとりはんなりしとやかで魅力的な笑顔なのが、実に凄い。

 驚嘆する。

 そんな時のりぃこは、瞳がキラキラ輝き、後光が差して、超絶的に女神のように気高く美しく神々しい。

 同性のあたしでさえも、思わずため息ついてうっとり見惚れてしまう。

「……有り難う、りぃこ」

 目が潤んでしまうのは、親友の言葉に感動したというよりは、そのオーラと美しさが眩し過ぎたからだと思う。

 ああ、あたし、本当にちゃんといつか恋することができるのかしら。

 世の中兄貴みたいな変態ばかりじゃない筈だけど、時折自信をなくしてしまう。

 女の子を見て眩しく麗しくてウルウルするなんてのは、りぃこ限定なのだけど、あたし本当ヤバくない?

 なんか色々終わってない?

 マジに何か間違ってない?

 あたしは真性レズじゃない筈なのに。

 りぃこを見てると、自信がなくなる。

 ああ、恋愛の神様。

 あなたがこの世に存在するなら、いつかあたしに真実の恋をさせてください。

 初キスが同性――しかも好きでもない相手に、無理矢理奪われた――ってだけで十分凹むのに、初恋も初エッチも同性じゃ悲しすぎる。

 だってあたしはレズじゃないもの。

 だけど、誰も信じてくれない気もする。

 でもね、男だろうと女だろうと、本当に美しい人って、見ただけで激しく心が揺さぶられるの。

 そしてあたしはりぃこほど美しい人を、知らないわけ。

 だから、これは決して恋じゃない。

 だけど大事な親友を変態兄貴の毒牙にかけるなんて事は、絶対に許せない。

 最悪、殺してだって、阻止してやる。

 これは友情。

 あくまで熱く深い友情よ。

 ええ、勿論そうなんだから。

 だから、あたしを変態扱いしないでちょうだい。

 ただ、あたしにとってりぃこは唯一無二の親友なんだから。



――The End.


というわけで半分実話。←って実話かよ!ですが。


別にアイドルでも王子様でもなかったですが、中学生の時は、ちょっと背が足りないけど、頬骨高くて目つきの悪い(ちょっぴり凛々しい?)少年顔で、胸とかペタンコで手足スラッとしていました。

当時は、テレビも雑誌も漫画もライトノベルも読まない世間知らずだったので「女の子の友情って熱いなぁ」と呑気に考えていました。

さすがに唇にキスされたらおかしいと思ったでしょうが、家では普通に親にキスされて寝てたので、おでこや頬はデフォルトなんだと思っていました。

高校入ってから「普通はないから!」と言われて違うと初めて知りました。

アホすぎです。

ある意味幸せな人生かもしれません(精神ダメージ皆無なので)。

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― 新着の感想 ―
[一言] こんにちわ! いいのかよ、実話!と笑わせていただきましたよ。実は少し心残り。もっとオトコマエ兄を登場させてほしかったですねえ。この続きがあったら面白かったのにとちょっと残念。でも、テンポの良…
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