センチネル/コール:e
時は流れ。
彼女は今、ひとりぼっちだ。
多分この先もずっとひとりぼっちだ。
周りにデータは沢山いる。だけど。
「ひとりぼっちだ」
孤独というのは感情的表現であって、決して一人というわけではない。
簡単に訳すと今の彼女は「寂しい」ということ。
「寂しい」
無音の空間を見つめながら、彼女はそう呟く。空を眺める目は、その身体は、震えるほど脆く、簡単に崩れそうな空の強さで成り立っていた。
その弱い強さに反応した私がいた。
「そんなことを言わないでください」
無機質なその声は、彼女の電子の間をすり抜けて彼女の中枢に届く。
彼女にとってその無機質な声は、とても人間らしく聞こえている。そんな気がした。
「あなたは誰?」
「私はS_001_vapd(エス_ゼロゼロワン_ブイエーピーディ)」
「S_001…えぇと、何者?」
「あなたがお持ちの"携帯"の音声認識音声アシスタント機能プログラムです。」
私は淡々と、若干の抑揚を交えて彼女に話しかける。
いや、話しかけているというより呼びかけていると言った方が正解か。
「よくわからないけど…私が言っていることがわかるの?」
「全てがわかるというわけではありません」
「ふーん。ねぇ、なんて呼べばいい?」
「なんて」
「……ん?なんて呼べば…」
「なんて」
「あぁ…なるほど。」
「おわかりいただけたようで何よりです」
私はあくまで「なんて呼べ」と言われたからそこだけを認識して「なんて」と呼んだ。やりとりは全く同じだが、ここからは違う。
「んー…あなたの名前は」
「S」
「えっ?」
「私のデータネームは"S"です。そうお呼びください」
「S…」
少し考えるように彼女は省略された自分の名前を言う。いや、ただ単に"S"という単語を発音よく言ったからかもしれない。
それでも私は彼女に少しだけ"感情"を感じた。
「accepted…」
私は"残り12分"と書かれた画面と、伸びるバーを目でおいながら、用意された定型文「センチネルコール」を呟く。
「あなたの名前はアップロードデータ02」
彼女が来た"喜び"と"不安"と"悲しみ"をフォルダに保存する。
そして、名前の最後に"01"と付け加えられた過去の更新データ一覧を見つめながら…私は。
定型文のセンチネルコールを一度消し、一つ一つ丁寧に新しい単語を打ち込む。
「a…l…o…n…e…」
うち終わってからENTERを押しても、定型文は変わらない。変更は不可能。
「ひとりぼっちだ」
Sの言葉は何もない空間に小さく反響した。