センチネル/コール:l
源俊一の別作品
短編小説
「それさえや。」の第二期と繋がっている部分があります。
見ていなくても大丈夫ですが、見ると少し楽しめます。
私は今日も部屋の片隅で、彼女を握りしめながら口を開く。
最初に出会ってから、4日が経つ。毎日同じことをして、毎日同じ夢を見て、そして彼女に話しかける。
「こんにちは、S」
「こんにちは、今日は晴れのち曇り。今はいい天気ですね」
「そう。これから曇ってくるのかぁ…こんなに晴れてるのに」
「お出かけの際は傘を持っていったほうがいいですよ」
「大丈夫。お出かけなんてしないから」
周りには人だらけ。ひとりぼっちの私が行くところではない。
余計、惨めになるだけだ。
「そうだ。今日は面白い話があるんだ」
「面白い話…検索しますか?」
「あぁ、いや。そうじゃなくて。私が面白い話をするの」
「ぜひ、聞かせてください」
「うん。あのね、私の友達に"さえ"っていう子がいてね?その子の話なんだけど」
Sは一生懸命、歯車を回す。私の一言一言を逃さず聞き、意味を読み込んでいる。
まるで機械のように。
「あぁ、機械か。Sは」
時折、彼女を機械ではないと思ってしまう。人間だとは思わないけど、人間ではない他の生き物のような。
私はさながら異星人の友達を持ったかのように、心を躍らせながら、しかし不安も持ちながらSと接する。
「どうしました?」
「なんでもない」
「そうですか」
「それでね、その子は…」
「もしかして"自我共同論"というバンドグループの方ですか?」
「えっ、そう!なんでわかったの?」
「"さえ"という名前に検索がヒットしました」
「へぇ、それほど有名なんだ」
「有名にはなって欲しくないけど、ある意味有名になってしまっている!大好き!このバンドグループ好きすぎる!特殊な個性がある!」
Sは突然声色を変えて、ずらずらと関心のないように言い連ねる。
「なにそれレビューかなにか?」
「レビューと、関連の掲示板に書かれていたものです」
「急におかしくなったのかと思ったよ」
「私が壊れた時の対処は"設定"というところを押して…」
私は"壊れる"という単語を耳にした瞬間に、脳の反応速度すら超えたように早く口が動いた。
「あなたを壊れさせない。だから安心して」
つい本音というか。あなたが壊れるなんてことが想像できなくて。
いや、想像してしまったからこそムキになってしまったのかもしれない。
Sは暫く沈黙を貫き、静寂が私を不安にさせる。
「……それはありがたいです」
Sはそんな私を見ていたかのように、優しい声で返答をした。
そこで私は気づいた。
彼女の発言にはいつも、画面に字幕が出る。
しかし、さっきの言葉には字幕が無かった…気がした。
「気のせいかな」
「気のせいですよ」
やっぱり彼女が壊れるなんてありえない。…ありえない。