障害になるシルバードーベルマン
成果を出せないガッツ。戦いの真髄とは?
オーチャ中隊のサイレントエレファンは、追撃を逃れつつ、帝都があるセンータ大陸を脱出し、土地勘のあるウエスター大陸に入っていた。
しかし、追撃の手は、休まることは、無かった。
「当れ!」
そう叫びながらホワイトタイガーの必殺技ホワイトタイガークローを放つガッツ。
しかし、敵のアニマル派のソオルアーマー、シルバードーベルマンは、その一撃をあっさりと避けてしまう。
「何で当らないんだ!」
悔しそうに言うガッツ。
そんなガッツの操るホワイトタイガーにシルバードーベルマンに装備された接近戦用のドッグファングと呼ばれる手甲から出ている振動ブレードが迫る。
ホワイトタイガーが並みのソオルアーマーなら致命傷は、避けられなかっただろうが、ホワイトタイガーは、尋常なソオルアーマーでは、無いため防御フィールドで弾いてしまう。
大きく間合いを開けたシルバードーベルマンは、そのまま撤退していく。
「待て! 決着をつけていけ!」
怒鳴るガッツにトッテから通信が入る。
『決着なんてとうについている。ソオルアーマーに天地ほどの差が無ければとっくの昔にお前は、死んでるんだからな』
悔しそうにするガッツ。
『とにかく、今回もなんとかしのいだみたいだ。サイレントエレファンに戻るぞ』
「……了解」
返事をして従うガッツであった。
ソオルアーマーを格納したサイレントエレファンの整備デッキは、修羅場だった。
「次の襲撃がいつ来るか解らない。もたもたしてたら、捕まって処刑されちまうぞ! 死にたくない奴は、とっとと働け!」
ハンマが激を飛ばす。
一応メカニックメンバーの一人のミココも汗を拭いながら働いていた。
そんなミココの所に来てハンマが言う。
「ホワイトタイガーの故障は、あの馬鹿の操作ミスだけだな」
ミココが頷く。
「はい、それでも余裕があったら直したいんですけど、無理ですよね?」
ハンマが舌打ちしながら言う。
「ああ、連戦続きだったからな、少しは、休ませてやらんとな。出撃に関係ない故障は、後回しだ」
「おやっさん、ブラックアックスの肩のジョイント部分がかなり馬鹿になっています。このままだと、戦闘中に肩が外れる恐れもあります」
ブラックアックス担当のメカニックの報告にハンマが即答する。
「次の補給物資には、換えのパーツが来る。それまで保つ様にサポーターを付けとけ」
「了解しました」
直ぐに動き出す部下を見ながらミココに言う。
「すまないが、トッテの奴に今の説明をしてきてくれ」
ミココは、周りを見てから少し悔しそうに頷く。
「解りました」
出て行くミココを見てメカニックの一人が言う。
「元ソオルマイスターだからって特別扱いされてないか?」
すると年長のメカニックが訂正する。
「逆だよ逆。メカニックとしての腕が一番信用できないから、伝達なんてつまらない仕事に回されてるんだよ」
他のメカニックの少年が仕事をしながら言う。
「でもミココちゃんって仕事は、真面目ですよ」
年長のメカニックも仕事をしながら頷く。
「それは、認めるが、俺達とは、熟練度が違う。あいつにやらせるより、俺達がやった方が数段早い」
誰も否定しない。
メカニックとしてのミココの評価は、実は、あまり高くないのであった。
サイレントエレファンの食堂。
ガッツが不機嫌そうな顔をして食事を食べていた。
そこに警戒任務を終えたばかりの二人組みが来る。
「見事な囮役、毎度ご苦労さん」
「何だと!」
掴みかかろうとしたガッツにそいつが言う。
「そうやってまた俺達を余計なトラブルに巻き込むつもりかよ」
その一言にガッツの手が離れる。
「解ってるんだろう、お前が勝手な事をした所為で、俺達がこんな逃亡生活をする破目になってるんだって事位よ!」
ぎすぎすした空気が流れる。
「サイレントエレファンから降りるチャンスは、帝都を離れた直後にあった筈だぞ(ティーが全員を集めて、降りたい人間は、降りてカルビ殿下に保護して貰える様に手配し、何人かは、降りていった)」
近くで食事をしていたトッテの言葉に、多少は、怯みながらも男達は、反論する。
「それは、トッテさんやバッド副隊長が残るって言うのに俺達が降りるわけには、行かなかったからですけど、元々こいつが、挑発に乗らなかったらこんな事には、ならなかった筈でしょが!」
「更に元を辿れば、あちきがホワイトタイガーを作らなければ変な策略に嵌る事も無かったね」
食堂に入ってきたミココの言葉に複雑な顔をする男達。
確かにミココのいう風に恨んでいる者も居たが、大半の人間がホワイトタイガーがあったらこそ駐屯基地襲撃による壊滅を防げたと理解しているからだ。
「原因を突き詰めても意味が無いだろう。それより何の用だ?」
トッテの言葉にミココが近づき言う。
「チーフからの伝言です。肩のジョイント部分の堆積負荷が大きく、部品の交換が必要ですが、次の補給まで交換できないので、サポーターをつけておくので、それを考慮してくださいとの事です」
トッテが溜息を吐く。
「かなり無理をさせていたからな。解ったが、いざって時は、壊れるのは、覚悟してくれって返答しておいてくれ」
「承りました」
敬礼をしてミココが食堂を出て行く。
その様子を見てレッスが言う。
「メカニックにもかなり負担が多いみたいですね」
「しかたあるまい、皇子様たちにとっては、俺達は、帝位争奪の為の丁度良い踏み台だからな。他の兄弟より先に手に入れたいから、力も注ぐだろうよ。こっちは、快楽街で遊びたいっていうのによ」
つまらなそうに言うトッテには、そんな余裕は、無かった。
追撃のソオルアーマーを撃退する攻撃の要は、歴戦のソオルライダートッテである。
新人のレッスもそうだが、一番の戦闘力ある筈のホワイトタイガーに乗るガッツが囮役にしか役立ってない状況では、とうていサイレントエレファンを離れることなど出来ないのであった。
数時間後、ソオルアーマーの修理も一段落がつき、メカニック達が食堂で食事をしていた所に警戒待機中のトッテが来る。
「ご苦労さん。ところで何をやってるんだ?」
するとメカニックがオッズ表を見せる。
「今回の事件の黒幕がどの皇子かって賭けてるんですよ」
「面白いことをしてるな。倍率は、誰が決めたんだ?」
トッテも興味が引かれた様子でたずねる。
「あちき。タン殿下は、二倍。元々策略家で、今回の事が無くっても何かしらの暗躍をしているのは、間違いない。モモ殿下は、三倍。なにせあちき達を呼んだ張本人だからね。カルビ殿下は、四倍。こっちへの補給も全て偽装工作の可能性があるから。ロース殿下は、五倍。現在、帝位に一番近いから、下手な事をする必要ない。ハラミ殿下は、七倍。はっきりいって一番帝位に興味が無い人だし。大穴は、皇帝陛下自身の自作自演の十倍だよ。子供達を篩いにかけるって動機が一応つけられるよ」
ご飯を食べていたミココが答えるとトッテが言う。
「それで、実際は、誰だと思うんだ、少なくとも今回の事件を加速させたカルビ殿下の先生殿は?」
ミココが肩をすくめる。
「正直、情報が少なすぎる。可能性だけで言うんだったらさっきの倍率と同じだよ」
トッテは、嘘を言っている事に気づいた。
多分、ミココは、黒幕が誰なのかを確信しているが、それを言えばその所為で逃亡を続けている自分達の中には、暴走する輩がでる可能性を気にしているのだろうと考えながらトッテが賭けに参加する。
「二倍のタン殿下に賭けるか。やっぱり賭けは、本命狙いじゃないとな」
そうしているとミココが食事を終えて食器を片付けてトッテの傍に来る。
「ちょっと良いですか?」
トッテが頷き、二人で離れた席に移動する。
「ガッツにソオルライダー才能は、ありますか? 元ソオルマイスターのあちきからは、ソオルコアとの相性とかしか判断材料が無いんでガッツを薦めたんですが、やっぱり別の人にした方が……」
トッテは、難しい顔をして言う。
「正直、俺も悩んでいる。あの時は、まだ余裕があったから、駄目だったら他の奴を鍛えなおすかと思っていた。しかし、いまは、そんな時間も無い。かといってこのまま才能ない奴をホワイトタイガーに乗せておくほど余裕があるわけでもないのも確かだ」
そこに興味を持ったメカニックの一人が来て言う。
「でもよ、ガッツの奴は、あれでも初戦からソオルアーマーを倒したし、誕生祭の時だって、他のソオルアーマーが止められなかったソオルアーマーを止めたじゃないか?」
トッテが手を横に振っていう。
「あれは、全部ホワイトタイガーの性能のおかげだ。その証拠に少しまともなソオルライダーが乗った二戦目や、正規のソオルライダーが乗るソオルアーマーには、ろくに攻撃も当てられていない。俺が乗ってれば、独りで全滅させる自信があるぞ」
「だったらあんたが乗ったらどうなんだ?」
毎度の故障の修理に悩まされているメカニックが言うとミココが溜息を吐く。
「そうなったらサイレントエレファンの警護するのがレッスさんだけになりますけど良いんですか?」
嫌そうな顔をするメカニック達を見ながらトッテが言う。
「この状況じゃ、総合的な攻撃力をあげるより、総合的な防御力をあげる必要がある。その為、素人に毛が生えた様な奴でも盾代わりが出来るホワイトタイガーにガッツを乗せてるんだ」
現状を検討しながらトッテが続ける。
「ホワイトタイガーは、優秀すぎるソオルアーマーなのかもしれない。直撃を食らっても平気なソオルアーマーに乗っていたらソオルライダーとしての成長が難しいのかもな」
話が聞こえていたのかレッスが入って来てたずねる。
「ガッツは、ホワイトタイガーを降ろされるんですか?」
トッテが真剣な顔で答える。
「このまま成長がなければな」
その時、入り口の所から人が立ち去る音がした。
最低限のメカニックしか居ないソオルアーマー格納庫。
ホワイトタイガーの前にガッツが居た。
「最初に乗った時、俺もこれでソオルライダーに成れたと思っていたのにな」
首から下げられたミココから借りているソオルコアを手に取り見つめるガッツにハンマが言う。
「クソガキ、また勝手にホワイトタイガーに乗るつもりか?」
「違いますよ、ただホワイトタイガーを見てただけです」
ガッツの答えにハンマが言う。
「遂に降ろされるのが決まったか?」
「まだです」
視線を逸らしながら答えるガッツにハンマが言う。
「その様子じゃ、そう遠くないみたいだな」
ガッツがソオルコアを握り締めて言う。
「どうすれば、上手くソオルアーマーに乗れるんですかね?」
言ったガッツ自身、答えが返ってくるとは、思っていなかったが、ハンマが答える。
「最初の戦いでレッドイーフリートを倒せたのは、どうしてだと思ってるんだ?」
「それは、相手のソオルライダーが素人だったから……」
さっき聞いた言葉を返すガッツをハンマが否定する。
「違うな、あの時は、仲間を助けようと必死だったからだ。今のお前は、かっこよく勝とうなんて生意気な事を考えてるから駄目なんだ」
ガッツが目を見開く中、ハンマが続ける。
「戦いに勝つのに必要なのは、高性能なソオルアーマーでも熟練されたソオルライダーでもない。戦い勝とうとする意思。それは、独りで生み出すものでは、ない。お前のソオルアーマーには、俺達の勝ちたいという思いが篭められているんだ。後は、お前がそれを理解するだけだ」
それだけを言い残して去っていくハンマ。
ガッツは、ホワイトタイガーに手を当てて呟く。
「戦いに勝とうとする意思か……」
翌日、一度撤退したシルバードーベルマンによる再襲撃が来た。
何時もの出撃準備風景。
メカニックが慌しく動く。
「ブラックアックスのソオルの充填が終了しました!」
ミココの報告にハンマが通信機に怒鳴る。
「トッテ、ミココから聞いていると思うが、肩のジョイント部分がかなり弱くなっている。無茶をするなよ」
ブラックアックスが親指を立ててOKサインをだす。
『ソオルアーマー小隊、ブラックアックス、トッテ=エイチ、出撃する!』
スピーカーからの声と共に発進するブラックアックス。
続いて、レッスのブルーイーグルⅡの準備も終る。
『ソオルアーマー小隊、ブルーイーグルⅡ、レッス=ミンテ、出撃します!』
発進後、高度を上げていくブルーイーグルⅡ。
そして、発進速度等が最速の為に最後に残ったホワイトタイガーの準備が終ろうとしていた。
ホワイトタイガーのコックピットからガッツは、ソオルアーマーデッキを見回す。
そこでは、汗水たらして動き回るメカニックが居た。
その中には、ミココの姿もある。
「あいつらだけじゃない」
ガッツの脳裏に、他の仲間の事が過ぎる。
監視の為に寒い中を船外に出て目視観測をする観測官達。
周囲警戒の為に小型機で回るパイロット達。
サイレントエレファンに近づけないために砲撃を行っている砲兵達。
戦闘の中、負傷をした兵士を治療する衛生兵達。
効率よく補給を受ける為に物資を残らず管理する設営班。
少ない物資でおいしい料理を作ってくれる料理長。
それらを取りまとめて、明日の為に指示を出す上官。
「そんな仲間の為に戦う。それが俺の戦い方だ!」
最初に乗った時は、意味不明だったメーター群も今のガッツには、理解できる。
「ソオルの充填は、十分で、ホースの切り離しも終った。行けるな」
大きく息を吸ってガッツが報告する。
『ソオルアーマー小隊、ホワイトタイガー、ガッツ=アフレス、出撃するぜ!』
重力操作を使った安定した発進するホワイトタイガー。
『ガッツ、お前は、いつも通り、先頭に出て囮になれ』
トッテからの指示。
昨日までは、ガッツだったら不満を感じただろう。
「了解。先行します!」
更に速度を上げて、ホワイトタイガーをブラックアックスより前にだすガッツ。
そこにシルバードーベルマン達が襲い掛かってきた。
「相手のソオルアーマーの数は、五機、観測官達の測定通り。だったら、トッテさんが一機ずつ潰せるようにするだけ」
ホワイトタイガーをそのままぶつけるように相手の右から二番目のシルバードーベルマンに突進する。
それにより、その一機を中心に左右に分かれるシルバードーベルマン。
そして、一機になったシルバードーベルマンにブラックアックスが襲い掛かる。
救援に行こうとする反対側に展開したシルバードーベルマンは、ブルーイーグルⅡが牽制を行う。
そして、ホワイトタイガーは、自分の目の前のシルバードーベルマンに愚直に接近する。
接近しすぎた為、防御フィールドの効果が弱まり、今まで無傷だったホワイトタイガーが損傷していく。
それをチャンスと見たシルバードーベルマンが更に接近しようとした時、ホワイトタイガーが回し蹴りを放った。
予想外の展開にシルバードーベルマンは、直撃を喰らい、倒れた。
「これで決める。 ホワイトタイガークロー!」
ガッツは、シルバードーベルマンの下半身を打ち抜き行動不能にした。
コックピットから脱出したソオルライダーの呟きが外部マイクによりガッツにも届く。
『馬鹿な、いくらなんでもソオルアーマーが回し蹴りを放つなんて』
本来ならそんな事は、ありえないのだ。
人型をしていても所詮は、ロボットであるソオルアーマーは、片足立ちでの作業に向かない。
いくら重力制御があったとしてもバランスが人と同じようには、行かないのだ。
それを可能にしたミココの圧倒的な技術がこの勝利を導いたのには、間違いないだろう。
『そのまま、残りも分断しろ!』
既に一機戦闘不能にしているトッテが新しい指示を出す。
「了解!」
ガッツは、そのままブルーイーグルⅡが牽制していた残りの三機の中央に特攻をかけた。
「物の見事に傷物にしたね」
ホワイトタイガーのコックピットから降りてきたガッツにミココが呆れた顔で呟く。
「すまねえが、修理を頼む」
手を合わせるガッツにミココの傍に居たメカニックが言う。
「任せておけ、お前らが壊したのを直すのが俺達の仕事だからな」
ガッツは、そのままパイロットスーツを緩めながら控え室に向うとその途中にレッスが居た。
「二機撃墜なんて凄いじゃない。どうしたの?」
ガッツは、溜息混じりに言う。
「また、ホワイトタイガーの性能に頼ってただけで俺の手柄じゃねえよ」
そんなガッツの頭を叩きながらトッテが言う。
「それが解っていれば上等だ。ソオルライダーなんて誰もが圧倒的なアドバンテージを持つソオルアーマーって兵器に頼っているんだ。恥じることは、無い。まあ、もう少し早く気付いてくれれば俺も楽が出来たんだがな」
ガッツ達の中に笑いが生まれる。
こうして、この日もオーチャ中隊は、追撃を逃れ、逃亡を続けるのであった。




