出撃出来なかったレッドスピアⅢ
大きなソオルシップは、維持にもお金が掛かるのです
オーチャ中隊の駐屯基地の傍に停めてあるホワイトホエールの食堂。
「これ以上の出撃は、認めません」
その一言にガッツが嫌そうな顔をする。
「そんな! トッテさん、何とか言ってくれよ」
それに対して近くで食事を採っていたトッテは、視線を合わせずに答える。
「残念だが、俺には、意見する権限は、無いぞ」
「よろしいですね?」
ガッツにそう眼鏡をかけた小柄の女性に詰め寄られる。
そこにミココがやって来て、傍に居たレッスに問いかける。
「どうしたの?」
レッスが聞き返す。
「逆にこっちが聞きたいわよ。どこをどうしたら、ソオルタワーのお偉いさんのミココがここに居るの?」
ミココが平然と言う。
「ほら、白虎達をSOEから外して、ビーストシステムの試験機にしたでしょ。その試験結果の確認って建前で羽伸ばしに来たの」
大きくため息を吐くレッス。
「タワーマスターをやりながら、ビーストシステム無しの白虎の後継機、白虎Hを製造していたゲナウさんが可哀想」
そんな台詞を無視してミココが言う。
「それで、どうしたの?」
レッスが肩をすくめて言う。
「ガッツがガッシさんにソオルの使用し過ぎだと、出撃の差し止め食らっているのよ」
ミココは、頬を掻きながら言う。
「根本的な話で、ガッツは、試験機の白虎で出撃するのは、認められてないはずだけど」
レッスが苦笑しながら言う。
「そんなお題目を守ると思う?」
少し考えてからミココが首を横に振る。
「全然。それでも、ガッツのは、どうせ無駄なソオル使うだろうって二倍の使用申請を通しておいた筈だけど」
「それでも足らなかったの」
呆れた顔で答えるレッスであった。
「本気で困った奴です」
そういったのは、試験用のソオルから出撃用のソオルを捻出出来ているスプラ。
「あの馬鹿は、ソオル無いのなら大人しくしてれば良いのに、出るからガッシに目をつけられるんだ」
逃げてきたトッテが呟く。
ミココも関わるとろくな事にならないと察知して言う。
「ガッツへの聞き取りは、後にしますか」
そんな時、ガッツがミココに気付いた。
「ミココ、丁度良い、お前の口利きでソオルをどうにかしてくれないか?」
嫌そうな顔をして視線をずらすミココだったが、そこに小柄の二十七歳の女性、ガッシ=リッテ、セカンドのトリプルスターの事務官が来る。
「これは、中央のソオルマイスター様では、ありませんか? ところで、このホワイトホエールの維持費について少し話したいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
ミココが素早くトッテを掴まえて言う。
「御免なさい。あちきは、これからトッテ、ソオルライダーチーフ達から実験結果の聞き取りをしないといけないから、また今度って事で……」
ガッシは、笑顔でトッテに話しかける。
「トッテソオルライダーチーフ、そちらの時間をずらしてもらっても構いませんよね?」
「問題ない」
即答するトッテを恨めしそうに見るミココであったが、ガッシに連行されていった。
その様子みてスプラが心配そうな顔をする。
「どうしてミココさんがあんなに嫌そうな顔をしているんですか?」
レッスがため息混じりに言う。
「ミココってここでメカニックしてた時にかなり目を付けられていてね、散々お説教をくらってたのよ」
数時間後の食堂、説教をくらっていたミココとガッツがテーブルにうつ伏せで倒れていた。
「全部ガッツの所為だ」
ミココの愚痴にガッツが言う。
「そっちこそ、一人で逃げようとして、卑怯者」
そんな二人に苦笑しながらトッテが言う。
「それでいつまで居られるんだ?」
ミココは、カレンダーを指差して言う。
「明後日まで、明後日の中央行きの高速飛行機に便乗する予定だよ」
それを聞いてスプラが言う。
「それでしたら、ゆっくりしていけますね」
首を横に振るミココ。
「ガッシさんとホワイトホエールの代替ソオルシップの手配を約束したから、その為に動かないと」
それを聞いてレッスが言う。
「どうしてそうなるわけ?」
トッテが広い食堂を示して言う。
「これだけの施設を運用するのには、それ相応の費用が掛かるんだ。オーチャ中隊単独では、ホワイトホエール運用費用とつりあわないんだよ」
ミココが顔だけを起こして言う。
「このホワイトホエールって元々は、中規模部隊指揮用に手配したソオルシップだからね。実験用の施設もあるから丁度良かったんだけど、余剰施設の維持費が馬鹿にならないと事細かく説明されたよ」
疲れたのか再び突っ伏すミココ。
そこにティーがやって来た。
「ソオルタワーの魔女様も金庫番には、勝てませんか?」
「あの人は、一切妥協無い、無駄な出費を認めない人だからね」
ミココの言葉にバッドが言う。
「そうやって、必要経費は、きっちり確保してくれる優秀な事務官だ。このトラブルが多いオーチャ中隊がまともに給金支払って居られるのも彼女の存在があってこそだ」
トラブルの元達が苦虫を噛んだ顔をする中、ティーが言う。
「実際問題、このホワイトホエールは、オーチャ中隊には、過ぎたソオルシップですからね」
「どうにかするって言うけど、当てがあるの?」
レッスの質問にミココが頷く。
「タウラス大隊がこの近くで大規模の作戦行動を行う予定になっているから、それに使用される予定のソオルシップから適当な奴と取り替えてもらおうかと企んでるよ」
トッテが眉を寄せる。
「間単に言うが、そんな事が出来るのか?」
ミココが頷く。
「あそこってロース殿下の件で弱みをいっぱい握ってあるから、いくらでも無理を言えるよ」
バッドがため息を吐く。
「危険な発言は、止めてくれ」
翌日、ミココ達は、ホワイトホエールで問題のタウラス大隊の所に向かって居た。
「本当に必要なんですね?」
ガッシの念押しにミココが必死に説得する。
「現物を見せないと交渉が上手く行かないから、仕方ないんだって」
付き合わされたティーも間に入る。
「交換してもらう側なのですから、誠意を見せないといけません」
ミココが疲れた表情で、自分の席に戻ると一応の護衛としてホワイトホエールで一緒に移動している朱雀と白虎のソオルライダー、レッスとガッツが待っていた。
「ミココも大変ね」
レッスの言葉にミココが頷く。
「本当だよ。全部ガッツがいけないんだ」
「何でそうなるんだよ!」
ガッツの反論を無視する、ミココとレッスであった。
タウラス大隊、ウエスター大陸方面の責任者でもある、ウッシ=モードス、ファーストのダブルスターの中隊長が忌々しそうに言う。
「ソオルタワーの魔女が、この大隊のソオルシップを接収に来るなんてふざけているな」
それに対して、眼鏡をかけた事務官あがりのモノコ=デース、セカンドのフィフススターの副隊長が言う。
「その件ですが、あちらのホワイトホエールは、最新艦です。損は、無いと思われますが」
ウッシは、椅子の肘掛に叩き言う。
「そういう問題では、ない! どんなソオルシップであろうと、他所の大隊に持っていかれるのが軍人として納得できないと言っているのだ!」
それに対してモノコは、宥める様に言う。
「しかし、ミココ、ソオルマイスターは、こちらの弱みをいくつも握っています。いざとなったら強引な手段をとりかねません」
それを聞いて悔しそうにウッシが言う。
「小癪な小娘だ」
そして兵士の一人がやってきて報告する。
「ミココ=エジソン、ファーストのトリプルスターのソオルマイスターとティー=オーチャ、ファーストのダブルスターの中隊長が当艦に搭乗許可を求めてきました」
ウッシが嫌そうに言う。
「許可する」
モノコは、慌てて付け足す。
「丁重にお迎えしろ」
ウッシが乗るソオルシップの搭乗口。
「来るのは、噂のソオルタワーの魔女だろ?」
「ああ、それにケロベロス要塞の攻略の指揮を執った中隊長まで同行している筈だ」
兵士達は、恐れと好奇心をもって搭乗口を見つめる。
そんな中、ミココが入ってきて敬礼をする。
「ミココ=エジソン、ファーストのトリプルスターのソオルマイスター乗船します」
拍子を抜かれた顔を兵士がする中、続いて穏やかな顔をしたティーが入ってくる。
「ティー=オーチャ、ファーストのダブルスターの中隊長他、三名乗船します」
ティーの後ろから小柄なガッシにまだ若いレッスとガッツ。
兵士達が戸惑っていた。
「随分と貧相な組み合わせだな」
やって来たウッシの言葉にモノコが慌てるが、ミココは、気にせず挨拶をする。
「初めまして。先に連絡してある通り、こちらの提示した条件にあったソオルシップのリストを下さい」
単刀直入に用件を切り出し、手を差し出すミココ。
「無いな」
ウッシの答えにミココが笑顔のまま答える。
「リストの準備が出来なかったと言う事ですか?」
ウッシは、表情を変えないまま言う。
「我が大隊に他所の大隊と交換できるソオルシップなど無いと言っているのだ」
「話が随分違うみたいね」
レッスが小声で呟くとティーも小声で返す。
「多分、ミココさんの姿を見て、油断したんでしょう。可哀想に痛い目を見る事になりますよ」
ウッシは、笑みを浮かべて言う。
「星が多いから何でも言うことを聞くと思っていたんだろうが、私は、お前みたいな小娘にへりくだるつもりは、つもりは、無い!」
ミココは頷く。
「了解しました。それでは、これを使うことになりますね」
そう言って懐から出した書類を見せ付ける。
「タウルス大隊モードス中隊及びその指揮下にある中隊のソオルシップに違法な改造もしくは、不正な物資の存在が予測されるため、全軍事行動を停止する。カルビ殿下の承認は、とってあるよ」
「そんな馬鹿な事があるか!」
ウッシの言葉にミココは、平然と言う。
「だって今さっき自分が言ったんでしょ? 他の大隊にソオルシップを渡せない。その一言が違法行為の隠蔽工作を示す証言として採用される。元々、ロース殿下の違法行為に加担していた可能性が高かったから簡単に申請が通ってたんだよ」
歯軋りをするウッシ。
「貴様、最初から、その予定だったのだな!」
肩をすくめてミココが言う。
「そんな訳ないでしょうが。大人しくリストを渡してくれたら、こんな書類を出さないで済んだんだけどね」
モノコが青褪める中、ミココが言う。
「ここだけの話だけど、今直にリストを出せばあちきは、これを出さなかった事にしても良いんだよ。まあ、後ろの証人が黙っていてくれればの話だけど」
ティーも笑顔で言う。
「ソオルシップを交換して下さる方々に迷惑になる事は、しませんよ」
この時点でウッシ達には、ソオルシップを交換するしか道が無くなった。
「それで、どれが良いの?」
ミココがほぼ全部のソオルシップがあがっているリストを調査するガッシに尋ねた。
「お金がある所には、あるものですね。どれも製造から五年以内です。ただ、新しすぎて、部品の流通が少ないタイプが多いのが少し問題ですね」
ミココが遠い目をして言う。
「そういういみだと、サイレントエレファンって部品が叩き売りされていたな」
ティーが苦笑する。
「地方中隊には、そんな型落ち中古のソオルシップが精一杯なのですよ」
そんな事を言いながらガッシは、リストの中からいくつかの候補を選出した。
「私の考えは、まとまりました。後は、オーチャ中隊長しだいです」
ティーがリストの候補を軽く見て頷く。
「バッドから忠告されていた基準は、クリアされているから私もOKですよ」
そんな時に放送が入る。
『ゲリラの襲撃、各員戦闘配備についてください』
ミココが驚く。
「こんな規模の部隊に喧嘩を売る馬鹿が居るんだ」
ティーが眉を顰めて言う。
「ソオルアーマーで襲撃されたらお仕舞いですから、先制攻撃に血路を生み出そうとしているのでしょう。二人ともソオルアーマーに搭乗してください」
「「了解!」」
レッスとガッツがソオルアーマーに乗ろうとした時、ガッシが言う。
「ガッツ、サブソオルライダーは、乗るだけですからね。出撃したら減給ですよ」
その一言にこけるガッツであった。
艦長席に着いたウッシが言う。
「丁度良い、憂さ晴らしだ。一匹残らず殺してしまえ!」
その時、激しい衝撃がブリッジを襲う。
「どうした!」
それに状況を調べていたモノコが答える。
「大変です、ソオルアーマーデッキが襲われて、こちらのソオルアーマー、レッドスピアⅢが出撃出来ません!」
「なんという失態だ! どうしてこれ程に出撃が遅れたのだ!」
ウッシの怒気にモノコは、怯みながら答える。
「それが、大距離の移動の為、ソオルアーマーの固定を通常より多くしていたのです」
ウッシが肘掛を叩き割り怒鳴る。
「お前等は、馬鹿か! 常に最低一機は、出撃準備を整えておくものだ!」
そういう中、ブリッジの前に戦闘ヘリが迫ってきた。
ウッシ達が死を覚悟した時、戦闘ヘリが撃墜される。
『こちら、レオ大隊オーチャ中隊ソオルアーマー小隊所属、レッス=ミンテ、ソオルライダー。緊急事態の為、独自の交戦行動をとらせてもらっています』
「信じられない。なんという機動性だ。それにあの形は、まるで鳥の様、ソオルアーマーとしては、ありえないはずです」
モノコが戸惑う中、ウッシが言う。
「ご協力感謝する。しかし、ここから先は、我々に任せてもらう」
通信を切ってウッシが怒鳴る。
「我々にソオルアーマーしかないと思っている奴らに、ブルースピア帝国軍人の意地を見せてやれ!」
その一言を切掛けに一気に巻き返すモードス中隊であった。
そんな中、ホワイトホエールと言うと、完全に囲まれていた。
「困りましたね?」
ティーの言葉に、ミココが頷く。
「タウラス大隊の人たちの援助は、頼めそうもないけど、レッス独りじゃ、無理っぽいね」
そして、爆撃を受ける中、視線がガッシに集まる。
大きなため息を吐いてガッシが言う。
「非常事態の特例ですよ」
『よっしゃ! 俺の出番だ』
ガッツが乗る白虎が飛び出し、ホワイトホエールを包囲していたゲリラを蹴散らすのであった。
数週間後のホワイトホエールの食堂。
「あのゲリラの襲撃でお流れになったが、結局、ホワイトホエールは、どうなるんだ?」
トッテの質問に、また遊びに来たミココが答える。
「ハラミ殿下が、ホワイトホエールの事を知って、維持費を特別予算として組み込んでくれたから、このままオーチャ中隊が保持する事になると思うよ」
それを聞いてレッスが喜ぶ。
「それは、良かったけど、それだったらミココでも出来たんじゃないの?」
スプラが言う。
「少し考えて下さい、ミココさんは、あくまでソオルタワー、開発の人間です。それが軍部の予算まで口を出せるわけが無いのです」
レッスがミココを見て言う。
「けっこう口を出してる気もするけど?」
ミココは、平然と言う。
「裏工作しているだけ。直接口を出してないよ」
苦笑する一同。
「ところで、あれは、どうしたの?」
ミココが何故か食堂で皿洗いをしているガッツを指差す。
トッテが肩をすくめて言う。
「あの馬鹿、忠告されていたのに戦闘にでて減給されてあんなバイトでもしないと生活できないんだよ」
「ガッツらしい」
笑うミココ。
「あの時は、OKでたのに何でだよ!」
ガッツの叫びが食堂に響き渡るのであった。




