立ち往生するブラックアックス
スプラが新型ソオルアーマーでやってきた。オーチャ中隊に勝ち目があるのか?
ウエスター大陸のバルゴ大隊基地のソオルアーマー整備所、そこにコバルトブルードラゴンが鎮座していた。
「残念ですが、ソオルタワーに送り戻して、細部まで調査するまで運用できませんね」
メカニックの言葉に肩を落とすスプラであった。
「そんなに落ち込んでどうしたの?」
その声にスプラが振り返るとナノが居た。
「ナノさん、どうしてここに?」
スプラの質問にナノが答える。
「旦那の代わりに来たのよ。あれのテストパイロットにならないかって、確認にね」
ナノが指差した先に一体のソオルアーマーがあり、スプラが驚いた顔で言う。
「あれは……、でもどうやって?」
ナノが含みのある笑顔をして言う。
「それは、色々とね。だから、正規にテストパイロットを使うわけには、いかないんだけどどうする?」
スプラは、はっきりと答える。
「任せて下さい。こんどこそ、あれでホワイトタイガーを倒して見せます」
その答えに頬を掻きながらナノが小声で呟く。
「完勝されても困るんだけどね」
「何か言いましたか?」
スプラが聞くとナノが作り笑顔で言う。
「何でもないのよ」
こうしてスプラが新型ソオルアーマーに乗ることになったのであった。
「連勝、連勝、俺達って強いな」
食堂でガッツが自慢げに言うとトッテが釘をさす。
「お前の場合は、ソオルアーマーの性能におかげだがな」
「解ってますよ」
不満そうに言うガッツを無視してミココが言う。
「そこを行くとトッテさんは、凄いですよね。ブラックアックスは、悪い機体じゃないですけど、ソオルアーマー戦では、不利の筈なのに撃墜数は、ナンバーワンなんですから」
頷くレッス。
「そうよ、ソオルアーマー戦なら圧倒的に有利なアニマル派や防御フィールドが高いエレメント派のソオルアーマーですら勝ってますからね」
苦笑するトッテ。
「半分は、レッドイーフリート戦の故障の改修の際に付けたミココが設計したって防御フィールド突破装置のおかげだから、自慢出来る事じゃない」
「あれって何なの?」
レッスの質問にミココが答える。
「基本的には、ホワイトタイガークローの応用だよ。ホワイトタイガーと違ってどんなフィールドでも無効に出来ないけど、トッテさんの腕と伴って威力が発揮しているみたい」
それを聞いてレッスがガッツを見る。
「そのホワイトタイガーに乗って、撃墜数が下なのは、本当に腕の差よね」
顔を真赤にしてガッツが言う。
「お前だってそう変わらない撃墜数だろうが!」
レッスは、視線をそらしていう。
「あたしのブルーイーグルⅡは、ソオルアーマー戦に向いてないからしかたないのよ」
「都合が良い時だけソオルアーマーの性能の所為にするな!」
ガッツが文句を言ってにらみ合う。
「ここって平和だったわね」
何時もの様に突然現れるナノにミココが言う。
「ナノ姉さん、どうして過去形なんですか?」
ナノが笑顔で言う。
「いまさっき、スプラに基本テストだけ済ませた青龍を渡して来た所だからよ」
ミココが怒鳴る。
「カルビ殿下の差し金ですね! もーゲナウ兄さんも何考えてるの! せめて新装備の運用テストだけでもすませないと実戦に出せる訳ないのに!」
ナノが遠い目をして言う。
「設計図の出所が出所だけに、正規のテストが中々行えないの。ゲナウも色々とあって、選考会用の開発なんてしてないしね。ミココちゃん達が逃亡中に完成させて、ソオルタワー選考会に間に合わせたいわけよ」
ミココがナノを睨んでいる中、トッテが入ってくる。
「話に割り込んで悪いが、その青龍って言うのは、前々から話にあがっているミココが設計した新型ソオルアーマーなんだな?」
ミココが頷く。
「カルビ殿下用に作った麒麟が中央で指揮する際の前線でのフラグソオルアーマーとして設計した四機のソオルアーマーの一機ですよ」
レッスが恐る恐る尋ねる。
「コバルトブルードラゴンの何倍も上って事は、無いよね?」
ミココは、複雑な顔をして言う。
「コバルトブルードラゴンって選考会用に青龍を量産用にマイナーダウンしてるの。想定通りなら、単機で、十数機のソオルアーマーを倒せる性能。因みに中隊単位のフォローがあれば、地方の都市位なら制圧可能って言うのがコンセプトだったりするよ」
周りに重苦しい空気が漂いミココが慌ててフォローする。
「まあ、コンセプト通りにソオルアーマーが製造できたらソオルマイスターは、困りません」
メカニック達が頷く。
「そうだ、仕様書通りの性能を発揮したソオルアーマーなんてそうないもんな」
どこか渇いた笑い声があがるなかナノが自信たっぷり答える。
「基本テストでは、仕様書どおりの性能を発揮してるわよ。やっぱミココちゃんの設計と実戦データの反映率の凄さとゲナウの誠実な仕事の結果よね」
ミココが悲しそうにナノに言う。
「お願いだからそれ以上、言わないで」
「何で? やっぱり身内の凄いところは、自慢しないと」
ナノの言葉にトッテが言う。
「そのとんでもないソオルアーマーと戦うのが俺達なんだよ」
「さて帰りましょうか」
流石のナノも空気を読んで退散するのであった。
「それで、どうしたら良いと思いますか?」
青龍の事を報告しに執務室まで来たミココにティーが尋ねるがミココが困った顔をして言う。
「はっきり言って、テスト運用段階でこっちに当てて来るとは、思いませんでした。正直、勝てる見込みは、かなり低いと思われます」
バットがあからさまに不機嫌そうになる。
「テスト運用のソオルアーマーを実戦導入するなんて何を考えているんだ!」
ミココが複雑な顔をして言う。
「すいません。現在タワーマスター不在で、このトラブル解決と共に新しいタワーマスターの選考会があるんですが、そこに向けての開発スケジュールの都合です」
ティーが溜息を吐いて言う。
「ミココさんに文句を言っても仕方ないですね。とにかく、逃げる事を最優先で作戦を立てましょう」
「すいませんが、宜しくお願いします」
頭を下げるミココであった。
その数日後、オーチャ中隊の恐れていた展開になった。
サイレントエレファンのブリッジの監視員が大声をあげた。
「ソオルシップ、スピードチーターを確認しました」
バッドが舌打ちする。
「もう発見されたか。前回と同じ作戦で行きますか?」
ティーが首を横に振る。
「同じ手が通じる相手だとは、思えません」
その言葉の正しさを示すようにバルゴ大隊ルースド中隊のソオルシップ、スピードチーターから発進したのは、高出力のソオルアーマー一機のみだった。
ソオルアーマーデッキで激しい喧騒が行きかっている。
「今回は、損害が予定済みだ! 前線の奴等の命は、お前達の仕事に掛かってるんぞ!」
ハンマが檄を飛ばす中、ミココが辛そうにトッテ達に告げる。
「御免なさい。まさかこんな展開になるなんて思わなかったの」
『謝る必要は、無い。それより、問題の青龍に弱点は、無いのか?』
トッテの言葉にミココが躊躇したが答えた。
「アイスブレスを多用させるのが一番の方法だと思う。あれは、威力が高いけど、冷気という性質上、ソオルアーマーの構造に悪影響を与えやすいの。対抗策は、幾つか考えてあるけど、具体的な対策は、打ってない思う」
するとトッテが言う。
『聞いたか二人とも、とにかく、相手を追い込み、アイスブレスを出させろ。まともにやって勝てない以上、それしか勝利の道は、無いぞ』
『了解!』
レッスが即答するが、ガッツが反発する。
『俺に任せて下さい。ホワイトタイガークローが決まれば例え新型でも大丈夫な筈です!』
「一発じゃ無理。ホワイトタイガークローの実戦データから、青龍には、ダメージをブロック化して切り離す装置がついてるの」
ミココの解説にハンマが呆れる。
「至れり尽くせりだな」
困った顔をするミココ。
『とにかく、スプラ、ソオルライダーにプレッシャーを与えろ!』
そして準備が終ったソオルアーマーから出て行く。
『ソオルアーマ小隊、ブラックアックス、トッテ=エイチ、出撃する!』
最初にブラックアックスが出撃する。
『ソオルアーマ小隊、ブルーイーグルⅡ、レッス=ミンテ、出撃します!』
続いてブルーイーグルⅡが出撃し、最後にホワイトタイガーが出る。
『ソオルアーマ小隊、ホワイトタイガー、ガッツ=アフレス、出撃するぜ!』
それを見送ってミココが祈るように言う。
「皆、無事に戻ってきて」
スピード差で先頭に出たホワイトタイガーのコックピットでガッツが言う。
「今度こそ、実力で勝ってやる!」
その前に悠然と立ちふさがる、コバルトブルードラゴンに似ているが、より洗練されたイメージがあるミココ設計の新ソオルアーマー、青龍。
『今度こそ、決着をつける!』
スプラからの通信にガッツが更に加速して言う。
「上等!」
そのままホワイトタイガーが青龍に体当たりを行った。
しかし、青龍は、殆ど後退しなかった。
「嘘だろ?」
ガッツが戸惑っている間に青龍の手が伸び触れるとホワイトタイガーが吹き飛ぶ。
必死に空中で体勢を取り戻しながらガッツが舌打ちする。
「あれが、至近距離用の衝撃波発生兵器、ドラゴンハンドかよ。まだ頭がくらくらしやがる」
そうしている間に青龍が接近してくるのであった。
そんな苦戦する様子を見てミココが言う。
「ゲナウ兄さん、いい仕事し過ぎ」
「レッスがフォローに入ったぞ」
ハンマの言葉通り、ブルーイーグルⅡが青龍の前に攻撃を入れて牽制する。
そこに一気にブラックアックスが迫りその強化されたアックスを放つ。
しかし、それを青龍は、腕で防いでしまう。
「あれが、ドラゴンスケルとも呼ばれるスケルガードの発展系だな」
ハンマの質問にミココが頷く。
「攻防に使えるスケルガードだけど、どちら付かずに成っていたから、ソオルライダーの操作で今みたいな防御型のドラゴンスケルシールドにしたり出来る様にしたの」
防御して動きが止まった青龍にホワイトタイガーが必殺のホワイトタイガークローを打ち込もうとするが、青龍が蹴りを決めて吹っ飛ばす。
「因みに今のが、攻撃型のドラゴンスケルソードを利用した蹴りだよ」
解説してる間にブラックアックスもドラゴンスケルソードの犠牲になりかけたが、トッテの判断で回避していた。
「今までいくつもの追撃部隊を撃退したあの三体を一機で圧倒するなんて、ただ事じゃないぞ」
ハンマの言葉に複雑な顔をするミココ。
そして、一発目のアイスブレスが放たれ、ブルーイーグルⅡが撃墜された。
ハンマが舌打ちして言う。
「冷気攻撃だ! 復活するかもしれないが、戻ってきたら総点検しろ!」
メカニックの一人が呟く。
「戻ってこられたら幾らでもしますよ」
その言葉が意味するとおり、ブルーイーグルⅡが戻ってこれる可能性は、かなり低いのであった。
ブラックアックスのコックピットで拳を握り締めるトッテ。
「レッス、大丈夫か!」
タイムラグの後、返信が帰ってくる。
『何とか大丈夫ですが、戦闘続行は、難しそうです。すいません』
弱々しいレッスの言葉にトッテが言う。
「無理をするな。とにかく、アイスブレスを放たせる事に成功したまだ勝ち目がある!」
その言葉を証明するためにトッテは、ガッツに秘匿通信を入れる。
「ガッツ、突風で動きを封じろ。その間に俺が勝負をかける!」
『しかし、それをやったらもう後が……』
躊躇するガッツにトッテが言う。
「俺を信じろ!」
『了解!』
ガッツが、答え、突風を放ち、青龍の動きを止めた。
「ソオルアーマーの性能差は、歴然としてある。だが、戦いは、それだけで決まらない!」
一気に接近して再びアックスを振り下ろす。
『通じません!』
スプラが青龍のドラゴンスケルシールドを展開して、断言した。
「まだだ!」
トッテは、その掛け声と共にブラックアックスの片手をドラゴンスケルシールドにぶつけそこにアックスを振り下ろし、大爆発を起こさせる。
流石の青龍も吹き飛ぶ。
『こんな手で来るとは、流石です!』
賞賛するスプラが操る青龍だったが、今の衝撃で動きが鈍い。
トッテは、レッドランプが鳴り響くのを無視してブラックアックスを青龍に近づける。
『もう、近づかせません!』
スプラの宣言と共に青龍からアイスブレスが放たれ、ブラックアックスの足元を凍らせて動きを封じる。
「まだだと言っている!」
トッテは、アックスを強引に地面に叩きつけて足を開放してブラックアックスを進めるのであった。
青龍のコックピットで冷や汗を拭うスプラ。
「なんて執念なんだ」
そして再びアイスブレスを放とうとして動きが止まる。
「まだ、対策を打っていない為、二発が限界。しかし、相手にあそこまでの執念を見せられてこちらが引くわけには、行かない」
三度目のアイスブレスが放たれる。
今度は、全身にぶつかり、ブラックアックスの動きが止まる。
安堵の溜息を吐いてスプラが言う。
「後は、あのホワイトタイガーだけだ」
そう言って青龍をホワイトタイガーに向けようとした時、ホワイトタイガーがブラックアックスの後ろに回りこんだ。
「何のつもりだ? まさか、凍った仲間を盾にするつもりなのか?」
嫌悪感を示すスプラ。
しかし、そんなスプラの予想は、外れた。
再び放たれたホワイトタイガーの突風がブラックアックスを強引に前進させた。
目前まで迫ったブラックアックスにスプラは、半ば反射的に四度目のアイスブレスを放っていた。
緊張するスプラだったが、ブラックアックスの動きが完全に止まっていた。
しかし、アイスブレスの連続使用による危険を知らせるランプが点滅する。
スプラは、悔しそうに通信を行う。
「今回は、僕の負けです。ですが、次こそは、決着をつけます」
そのままソオルシップに戻っていく。
「取り敢えず勝ったみたいです」
サイレントエレファンのブリッジでバッドが告げるとティーが大きく溜息を吐く。
「被害は、大きかったがな」
深刻な空気がブリッジを支配するのであった。
動けないブラックアックスとブルーイーグルⅡの為、やって来たハンマが緊急脱出口から出てきていたトッテに告げる。
「こいつは、駄目だ。もう一度戦闘に出すには、新しく作り直すのと同じ手間がかかる」
トッテが最後の最後まで自分の期待に答えて動き続けてくれた冷え切ったブラックアックスの機体に触れながら悔しそうに言う。
「すまない。お前の尊い犠牲のおかげで今日も勝てた。お前の事は、忘れないぞ」
その様子を辛そうに見つめるミココ達であった。




