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聞きまつがい

作者: こめ

くそ暑い体育館だった。

生徒は整列させられ、狭い体育館で、隣と密着せんばかりの距離しか許されず、体育座りをさせられていた。

隣に座る同じクラスの太った女の汗ばんだ肌が触れそうになる度に、俺はさらに体を小さく丸めて、穢れから身を守っていた。


始業式は、嫌いだ。


俺は思った。


いや、式自体が嫌いだ。始業式・終業式・入学式・卒業式・・・、うっとおしいったらない。

いや、うっとおしいだけなら、まだいいんだ。


問題は、これだ。


「そこで、怒り狂った熊の大群が、小道具屋に押しかけ、方位磁石の略奪を始めたのです。『これは大変』と、ワタクシは刃物を片手に持ったところで、『そういえば、今日の夕食は大根サラダにしよう』と思い立ち、そのまま台所へ行き、その刃物で大根を刻んだのです。ところが・・・」


体育館のステージ上で、校長は延々と「ありがたいお言葉」を述べている。

禿げ上がった額に汗だか油だかわかならい液体がキラキラ輝いている。


「・・・だからワタクシは反対したのです。熊は熊汁、兔は兔焼き、鳥は天下の回り物だと。鳥を食べては、腹が回ってしまうのです。若い君達には、まだわからないと思いますが、腹が回り始めた時の科学の飛躍的な進歩には目を見張るものが有り、腹の速度と科学の進歩の速度を比べると・・・」


この校長の話は、俺が今まで見てきた校長の中で、一番長い。

まあ、比較対象は小学校長2人、中学校長1人しかいないわけだが。


「・・・ワタクシが思うに、この暗黒の世を進むためには、虫を食べなければいけない。宇宙空間において、真空状態でも生存できる虫の発明が、今後の人類の存続を左右するのです。このため、虫の生態は、神によって定められていることを考えますと、誰かが神になって虫の生態を作り直さなければならなくなるのです。それらの努力が・・・」


暑い。

うわ。また隣のふくよかな女の腕に触れそうになってしまった。くわばらくわばら。


あと、どれくらい続くのだろう。

このくそ長い話は。


「・・・なので、人体の毛を使い、発電と光合成を行えるという未来も近いと、ワタクシは思っております。というわけで、ワタクシの話を終わりにさせていただきます」


校長の話が終わると、速やかに生徒は教室に帰された。

生徒でごったがえす教室までの狭い廊下で、俺は友人に話しかけた。


「なあ、今日、校長はなんの話をしていたんだ?」


友人は、めんどくさそうな顔をして答えた。


「3年生は受験勉強を頑張れ。これからの頑張りで大学が決まる。下級生もそろそろ進路について真剣に考えるように。だとさ」


「へえ。そうか」


友人はさらに面倒臭そうな声で言う。


「なあ、お前、どうしていつも、校長の話の後に、校長が何しゃべったか聞くの?そんなに興味有るなら、ちゃんと話を聞いておけよ」


不快そうな友人に、俺はへらへら笑ってみせた。


「いや、俺、聞き間違いが酷くてさ。今日の校長の話は、人類はいかに蛋白源を確保するか、という話題にしか聞こえなかったもんで」


友人は怪訝そうな目を、俺に向けた。


「・・・食い物の話なんて、一言もしていなかったぞ?」


「だから言っただろ。俺は、聞き間違いが酷いんだって。どうも、改まった話になると、聞き間違いが酷くなる。というより、全く違う話が聞こえているんだよね」


「・・・それって、病気じゃね?」


「そうかもな。でも、もしかしたら、お前の方が聞き間違えているのかもしれないぜ」


すでに教室の入り口についていたので、それ以上友人の顔を見ずに、俺は自分の席についた。


俺が聞き間違っているに違いない。

でも、どこまで聞き間違っているのだろう。




ある日見た夢を書き出してみました。拙い文を最後まで読んでくださり、ありがとうございます。

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