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呼び出し

見切り発車です。ご容赦ください。

 

 鶴嶺(つるみね)千暁(ちあき)は夜勤の仕事を終え、自宅へ帰るために昼前の道路を歩いていた。ここを曲がれば千暁が住んでいるアパートが見えるという角を曲がろうとした瞬間、千暁の視界は突然ブラックアウトした。

 夜勤であまり寝ていなかったせいかと思っていると、身体が宙に浮いていくのを感じた。これは倒れたからというわけではなさそうだ。すぐに視界は真っ暗闇から少し明るくなり、まるで星空の中をふわふわと漂っているようだった。その時間は1秒にも1分にも感じられた。


 激しい耳鳴りと目眩が千暁を襲い思わず目を閉じる。すぐに足が地面に着いた感触を感じ、さらに周囲から複数の歓声があがった。千暁はその声に驚いて目を開ける。目を開けばそこは、自宅前の道路ではなかった。

 瞬間移動したのである。


 ーーーーーーーー


 そこは満天の星空が輝く草原。

 近くには森や川、少し遠くには高い山も見える。


 そんな自然溢れる大地には、何やら光瞬くものが幾つも降り注いでいる。

 まるで流星群の中にいるかのような、それはそれは美しい光景だ。


 その光瞬く何かは大地にあたるとパァと煌めいた後、仄かに輝きを保ちながら小さな塊となりその場に留まった。

 輝く小さな塊が草原に広がっているため、 辺りは夜とは思えないぐらいに明るい。


 仄かに明るい草原の中にある、ヨーロッパを思い出させる石造りの大きな街。

 街には透明な薄い膜のようなものが半球状に囲っている。

 降り注いでいる何かがその透明な膜にあたると、パァと煌めいて小さな塊になり、街の中心へとひとりでに飛んでいく。

 その先にあったのは、ひときわ高い塔を囲うように並んでいる5つの塔。

 小さな塊は吸い込まれるようにして、5つの塔の頂上から建物内へと飛んでいき、見えなくなった。


 5つの塔に囲まれているひときわ高い塔には屋上がある。その屋上には人がいた。

 端に置かれた椅子に座る青年の隣には2人の男が立っており、1人は腰に剣を携え、1人は手に持った紙に何かを書き記している。

 その視線の先には男女あわせて6人いる。


 塔の屋上、ちょうど中心に描かれた五芒星。

 その5つの角にはそれぞれ蒼いローブを羽織った人が立っている。

 彼らはみな、その五芒星の中心に立っている女性を見つめていた。


 ーーーーーーーー


 千暁は複数の目が自分を見つめていることに気付いて我に返るが、その時にはもう耳鳴りと目眩はしていなかった。


 すぐに興奮した様子の歓声が聞こえてくる。

「おぉ!!!」

「成功だ!」

「この方が・・・!」


 聞こえてくる言葉は聞き馴染みのない言語のようだが、千暁は何故だか理解することが出来た。

 千暁はどうやら5人の蒼いローブを羽織った男女に囲われているようだ。


 この状況をなんとなく把握した千暁は悟る。

『これは異世界召喚だ・・・!!!』と。

 そう。千暁はWeb小説やアニメでそういう類の物を見るのが趣味の一環だったのだ。


 千暁は思わず「マジか。」とつぶやいた。

 ほっぺたを引っ張ったがしっかりと痛みを感じるようで、眉間に皺を寄せた。痛みを感じた千暁はこれは夢ではないと確信した。

 『異世界って本当にあるんだ。』と何処か他人事のような気持ちだった。理解は出来ていないが、とりあえずはこの状況を飲み込むことにした。


 少し気持ちが落ち着き、余裕が出来た千暁は正面に立っている蒼いローブを羽織った若い男の目の色が左右で違うことに気付く。左目がゴールド、右目がブルーに見えた。

 千暁はその綺麗な瞳に目を奪われたが、自分が男の人の目をじっと見つめているという事実に恥ずかしくなり、目線を反らしてふと上を見上げた。すると、そこには満天の星空が広がっていた。

 それはとても美しく、地球ではきっと見ることの出来なかったであろうほどの満天の星空だった。千暁は口を開け、しばらくその輝きを堪能した。



「我が星へよくぞおいでくださった。星守(ほしもり)様よ。」

 この声に驚き目線を下ろすと、そこには爽やかな笑顔を浮かべた青年がいた。彼は貴族のような身分の高そうな格好をしており、両隣には剣を携えた騎士のような男と紙とペンを手に持つ眼鏡の男がいた。

 千暁を囲っていた蒼いローブの男女は


 爽やかな青年が続ける。

「私はこの星の皇子(おうじ)、チャムクイ・タウルスという者だ。そなたの名前を伺ってもよいか。」


 敬語ではないが丁寧な物腰であることに千暁は安心した。相手が丁寧に来るなら、こちらも丁寧に返さねばならない。千暁は名を名乗る。

「私は鶴嶺 千暁です。鶴嶺が性で、千暁が名前です。」

「ツルミネ チアキ。そうか。我らとは性と名が逆なのだな。私は性がタウルス、名がチャムクイだ。そなたのことをチアキと呼んでいいか。私のことはチャムクイでもチャムでも好きに呼んでくれ。」

 流石にチャムクイにチャムは気安すぎやしないだろうか。それに皇子と言えば日本で言う天皇の子供。様を付けずに呼ぶのは気が引けた。

「千暁でいいですよ。私はチャムクイ様とお呼びさせていただきます。早速で申し訳ないですが、ここは何処ですか?少なくても地球ではないですね……?」


 チャムクイは様を付けられたことに不服そうな顔をしていたが、千暁は譲る気がない。それを悟ったのか話を進めてくれた。

「ここはコスモス・エクレウスのキタルファ(ぼし)という星だ。」

 どうやら星の意味合いは共通のものであるらしかった。コスモス・エクレウスの意味は分からなかったが、コスモスというのだからきっと宇宙の名前だろう。どうやら地球とかけ離れている訳ではなさそうだ。


「すまない。先に説明するべきであったな。少々長くなってしまうが、今回の成り行きを聞いて貰えるだろうか?」

 チャムクイは千暁が今もっとも求めていることを説明してくれるらしい。千暁に聞かないという選択肢はなかった。

「聞きたいです。説明をお願いします。」

「うむ。では……。」

 チャムクイは小さく深呼吸をしてから話し出した。

「我々は星占いにより、遠くない未来に惑星がこのキタルファ星に衝突するということを知った。そういう事は過去にもあったが、毎回それを回避してきた。これは我が星が消滅してしまうかもしれない一大事なのだ。」

 未来が分かるとは、星占いとは実に便利である。しかし、それで分かる未来で星が消滅する可能性があるとは、一大事である。少なくとも、千暁は地球が消滅するなんて想像もつかなかった。


 チャムクイによる説明は続く。

「我が星ではこういう時、星守様の居所も星占いすることになっている。星守様は我が星を守れる唯一の存在だからだ。今回も例に違わず星守様を星占いにより見つけることができた。それがそなただったのだ。」

 話に自分が出てきた千暁は気持ち姿勢を正す。


「星守様は大概がこのキタルファ星におられる。しかし、稀に違う宇宙(せかい)へ紛れてしまっていることがあるのだ。今回がそうだった。星守であるそなたは我らとは違う宇宙(せかい)にいたのだ。そこで、我々はそなたをこちらへ呼び出すために、星術(せい術)を行った。それが見事に成功したため、先程そなたがこちらへ呼び出されたというわけだ。」


『呼び出されたというわけだ。』と言われたところで千暁には『つまり、そっちの都合でこっちに連れてこられたわけね』と思う他ないが、彼らの事情や気持ちもよく分かった。


「ここまで、分かっていただけたか?」

 チャムクイは千暁の反応が薄いのを心配したようで、不安気に千暁の顔を覗き込んできたので、千暁は正直に応える。

「ええ。なんとなく。ただ、納得はできていないです。私は毎日をただ普通に生きていただけです。それをさっき、突然、こちらに連れてこられた。すぐには納得できないというのが本音です。」


 チャムクイはそんな千暁の気持ちを察したようで、何度か頷いたあと神妙な顔をして千暁をまっすぐ見た。

「そうだな。こちらの都合により突然知らぬ場所に連れてこられたのだ。そう思うのは当たり前だろう。改めて謝罪をさせてくれ。」

 チャムクイはそういうと左脚を後ろに引き、右膝を立て、左手を胸に添え千暁の目を見ると口を開く。

「この度は我々の勝手な都合により、貴殿の身をこちらに呼び出してしまい、誠に申し訳ない。」

 そう言うとチャムクイは深々と頭を下げる。すると、ずっと成り行きを見守っていた周りの人たちも同じように片膝をつき、左手を胸に添えて頭を下げる。


 この片膝をついてお辞儀するのがこの星の最高礼なのだろう。丁寧な謝罪である。これを受けてまだ文句を垂れたら日本人として恥だ。そう考えた千暁は、彼らに頭をあげるよう言うと、チャムクイたちはホッとしたような様子で立ち上がる。

「丁寧な説明と謝罪をありがとうございます。まだ聞きたいことは色々ありますが、大体の事情は理解したのでひとまずは納得することにします。私はこの星を守るために呼ばれたのですね。」

「ああ。その通りだ。ひとまず納得してくれたこと、感謝する。詳しい話や今後の事などは部屋を移して話そうと思うのだが、いいだろうか。」

「ええ。大丈夫です。とりあえず、よろしくお願いします。」

 チャムクイは眩しいくらいの笑顔で応える。

「ああ!こちらこそよろしく頼む。」


 チャムクイが歩き出したので千暁はそれについて行くことになり、呼び出されたこの場から離れることになった。



最後までお読みいただきありがとうございます。

続くかどうかは気分次第です……。

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