勇者の娘
―砂に覆われた国 勇者が死んでいた地点―
「実は、私には娘がいるんだが⋯⋯」
「娘?」
何故ここに来て自分の娘の話を?
さっきまで僕はヤンチャな三人組と共に、魔法に関すること、蘇生に関することを死ぬほど調べていたのだが⋯
復活した勇者は突然、娘がいることを報告し始めた。
いや、興味ないって。
もしや、探せっていうのか⋯?
こいつのために⋯?
いや、その時間が勿体ない⋯無駄。
だが、勇者は真剣な眼差しで僕を見ている。
「御願いします神様仏様!」と懇願しているようなものだ。
そんなに娘が好きなのか。
この人は俗に言う、娘溺愛お父さんというものなのか?
思わず眉間に皺をギュっと寄せた。
「その娘の行方がわからなくてな、探してほしいんだが⋯⋯」
やっぱりな。
「何のために、ですか?」
「そ、それは⋯⋯久しぶりに顔を見るためだ!それ以外なかろう!」
これはダメだ、完全なる娘溺愛お父さんだ。
顔が見たいだけの。
「それ、まともな理由になってませんよ。本当はどうしたいんですか?」
真相なんて知りたくもないが、まぁ、この後のことを話してもらうためだ。
娘が可哀想だと思ったりもするが、仕方ない。
逆に考えれば、それくらい娘のことを思っているんだ。
いいお父さんなんだろうな。(圧)
「本当は、色々と話がしたいのだ。」
あ、意外とまともな理由だった。
「取り憑かれてから私は、かれこれ六年は娘に会えていない。」
期間が中途半端だ。
事件が起こってから、そんなに時間は経っていないと考えたほうが自然なのだろうか。
「離れる前に一度、娘と喧嘩し、後悔を抱えたまま生きていき、王様からアクセサリーを貰って気づいたらこんな目に⋯」
喧嘩か、娘とちゃんと向き合った証拠だな。
でも、歳が幼かったらどうする?
虐待まがいな一方的な喧嘩だったらどうする?
考えれば考えるほど、頭が痛くなる。
変なことに頭を使うのは無駄の極意。
もうやめとこう。
ちゃんとこの人に向き合おう。
「なるほど。念の為聞きますが、当時の娘さんの歳はいくつで?」
「十二歳ぐらいだ。」
意外と上だな⋯
そこに六を足すと十八、成人したくらいか⋯さっきの推測は外れた。
少しがっかりだ。
というか、この世界ではこの成人の概念や、学校の概念などはあったりするのだろうか。
いつか聞いておこう。
「意外と上ですね。容姿はどんな感じで?特徴などがあれば、教えて下さい。」
「髪が長く、髪色は赤色。性格は少し挑発的な感じだ。」
端的にまとめてくれた。
挑発的な性格か、ちょっと苦手だな。
さっきの馬鹿とは違うとは思うが。
「大体把握できました。では、探しに行ってきますね。」
「お願いしよう。」
なんかその上から目線、ムカつくな⋯
さっきの懇願するような態度は何処にいったよ。
気が進まないが仕方ない⋯先に進むためには、ここを超えないと。
重い足を上げながら、ひたすら歩いた。
―砂漠の奥―
しかし、暑い。
周りが砂まみれになっていて熱を帯びやすく、陽の光もガンガン照らされている。
そんな中でよく僕達を探す気になれたなあの三人⋯
まぁ、僕も似たようなものなんだが。
暫く歩くと、大きめのくぼみを見つけた。
そして、人のような姿も見受けられた。
「そこに誰か居ますか〜?居たら返事してくださ〜い!」
突如出現してきて、攻撃されることを防ぐために、僕は聞こえやすいように滑らかなデカい声を上げた。
久しぶりにデカい声を出したから、少しクラっとした。
暑さのせいでも喉の渇きのせいでもあるのかもしれないが。
「なに?そんなデカい声出して。誰?」
予想以上の挑発的な声に、驚きと怒りが隠せない。
これは対応しづらい⋯ダメだ。
「別の世界から転移してきた〜、桐高留玖と言いま〜す!」
さっきよりもボリュームを上げて、名を名乗ってみた。
相手も、この声を聞いたらきっとブチギレるだろう。
「そんな声出さなくても聞こえてるわよ、バカなのあんた。」
「⋯そいつはどうも。」
予想通りとは言え、ダメージの強い返しだ⋯
陰口には元の世界で散々言われてきたから、慣れてはいた。
ただ、ここまできつい直接的な暴言は初めてだ。
しばらくすると、自分から僕の近くに近付いてきた。
やけに嫌悪感抱いてんなこの女⋯
「この辺では見ない名前と服ね。」
「いや、さっき転移者って言ったんだけど⋯」
「聞こえなかったわ。」
「あ、そうですか。」
言ったことをすぐ忘れるジジババか。
でも肌は艶が目立ってるし、髪もサラ〜っとしてて長い。
色は赤で、体型はシュッとしてる。
ついでに言うと、あそこもでk⋯ゴホンゴホン!!
砂漠化したこの世界で、よくその体型を保ってられたな⋯
もしかしてこいつ、ロリババアか?
「何ジロジロ見てきてんの?お父さんみたい。」
ここでお父さんって単語が出てきたってことは、やっぱりあの勇者は⋯
いや、やめておこう。
「ごめんなさい、姿を把握しておきたくて。」
「そんなことする人、お父さんぐらいしか居ないんだけど。まさか、お父さんからなにかそそのかされたの?それかお父さんの同類?どっちよ」
ちょ、あいつと同じ扱いするな!
そそのかされたってのも人聞き悪い⋯
無理やり生かされただけだっての!
「どっちでもありません!」
「あっそ、で?何のよう?まさか、私をからかう為にここに来たわけじゃないでしょうね?」
面倒くさいな、そこらの女子高校生でもこんなんじゃないぞ⋯?
「白骨化した貴方のお父さんを、復活させる魔法で生き返らせたんですよ。それで、そのお父さんが貴方に会いたいって仰ってたので、貴方を探しに来たんです。」
「へぇ、復活させる魔法⋯この世界がまともだった時にはなかったわね。あんたが作ったの?」
お父さんが復活したことガン無視に、僕の魔法のことに興味を持ち始めた。
何だこいつ⋯自分勝手にもほどがある。
「疑似魔法にその人の骨を組み合わせて作りました。僕、何かを見つけるの得意なんです。」
「変わった人ね。」
「あぁそうですか。」
実際そんな面倒くさいことする人居ないからな。
そう思われるのも仕方ない。
だがそれ以上にムカつく。
「⋯んじゃあ、先行ってますね。色々貴方のお父さんに聞きたいことがあるので。」
「あ、待って。あんた、ここ来るの初めてでしょう?」
「当然です。」
というか察せるだろ。
何回もここに来る人いるか?
現実世界に行けるとわかってここと行き来するような人いるか?
僕はいないと思うね。
「だったら、私と剣で勝負しない?」
「え⋯?でも僕は、剣なんて使ったこと⋯」
「怖気づいてんの?男じゃないね。」
いきなり勝負仕掛けられたら、そりゃ多少は驚くし怖気づくだろ。
何処までもマイペースで自分勝手だなこいつ⋯
「わかりました、やりますよ!」
「はい、剣。」
そこは手渡しなんかい!
「ありがとうございます。」
「それじゃあ先に、私から行かせてもらうわよ!」
後攻か。
相手の動きが見ることが出来るから、都合がいいな。
その辺は相手もわかるまい。
「はぁっ!」
「ほっ、」
体制を整えてからの上から斜め下の攻撃、少し早いか。
「次は、こちらの番ですね。」
「避けられたのは癪だけど、逆にあんたの攻撃は全て避けてあげる!」
「どうですかね、貴方に出来ますかね?」
「くっ、一々ムカつくわね!」
ずっと僕をムカつかせてるのはどっちだよ!
取り敢えず、速さを意識して剣を振る。
下から斜め上、少しの隙も逃さない!
「はっ!」
「(速い⋯なんとか受けきれたけど、剣の振りのキレも良いわね。なかなか油断できない⋯)」
受け切られたが、相手は少し戸惑ってるな。
そのまま動きが鈍ってくれれば良いんだが⋯
「これは⋯どうっ?」
連続攻撃か。
確かに速いが、隙が多い。
動きも鈍い、なら攻める⋯それだけだ!
「はぁっ!」
「う、上!?」
「はぁっ!!」
「うっ⋯⋯!!(今、私の上を飛んで、その後に直進して攻撃した⋯⋯そんなことも、出来るの⋯!?)」
よし、攻撃が入って相手をダウンさせた。
渾身の回転技が効いたぞ〜!
ストレスも多少は発散できた!
だが、まだ相手は戦う威勢を見せている。
攻撃に備えよう。
「なかなかやるようね、元の世界でも似たようなことをしていたのかしら?」
「いえ、まったく。殆ど感覚です。」
「おかしな人ね。殆ど感覚だなんて。」
「お褒めに頂き光栄です。」
攻撃が来る、横からか。
いや、違う。
横に振り切ったと同時に、上に振り降ろすつもりか。
なら、避けた反動で直進して反撃だ!
「⋯っ、はっ!!」
「(また速い⋯⋯!何なのこの人⋯!まさか、最初の私の動きを覚えて、そこに加速を⋯?)」
攻撃の速度は、彼女の動きを見て出している。
そこに加速の魔法を加えて、速さを上げる。
キレの良さは彼女を反面教師にした上で分析している。
さっきの回転技は独自性と反射神経の良さの賜物。
言っちゃえば感覚。
そして、ここからが本番!
剣に疑似魔法を込めて練れば、攻撃の用途として属性魔法が出るはず⋯!
よし、出せた!
さっきまでは剣がなかったから試せなかったけど、剣があるから試せる。
丁度良い相手もいる。
ならその技を、とっておきの技を⋯ここで相手にぶつけるまで!
「ファイアスラッシュ!」
「⋯!?うわぁっ!?」
「よっしゃ!効果抜群!!」
って、これなんか某ゲームで聞いたぞ?
なんでこんな言葉が、咄嗟に出てくるんだ⋯
即興だから仕方ないけど、技の名前もダサいし⋯威力は申し分ないが。
「剣を持ってすぐで、こんなにも攻められるなんて、凄いわね。認めるのは少し悔しいけど。」
「ありがとうございます。」
「さっきの回転技と火の技も、自分で作ったの?」
火の技て⋯笑
ダサかったから仕方ないとは思うが。
もうちょっとマシな名前考えられたら良かったな。
「はい。」
「そういうの得意なの?」
「まぁ、得意です。」
「へぇ〜、ちょっと興味湧いてきたかも。あんたのこと。」
興味湧かれたら色々と面倒になりそうで困るよ⋯
仲間が増えるのは嬉しいけど。
「⋯仲間になっても、いい?」
急だな!言ってくるとは思ってたけども!
「良いですよ。」
「やったっ!ありがとう。」
「い、いえいえ⋯」
そして急に変わる口調、手のひらクルックル過ぎて怖いな。
お父さんのことも忘れてそうだし、都合のいいことだけを受け入れる都合女だこいつは!
「そういえば、貴方の名前を聞いてなかったですね。」
「私?私の名前はメリオ・アディナ。アディナでいいわよ。あんたの名前はなんて呼べば良い?」
「留玖で良いですよ。」
「ルクね。」
漢字なんて伝わってないだろうから、言わなくていいよな。
ルク呼びなんてあんまされたことないけど、こいつで慣れるしかないな。
「では、行きましょうか。」
「軽くでいいのよ?軽くで。」
軽く⋯タメ口って意味で受け取って良いんだろうな。
多分。
「軽くで、良いんですね?」
「良いって言ってるじゃない、遠慮しがちなのダサいわよ。」
「ご、ごめん⋯」
さっきの口調だ、安心する。
急に戻されたら困惑するから、もうずっとその口調でいてくれ。
―砂に覆われた国 勇者が死んでいた地点―
元の場所に戻ってきたら、勇者とヤンチャ三人組が話をしているところを目撃した。
隣に居るアディナの顔をチラッと見たら、険悪そうな顔をしていた。
そりゃそうだ。
娘ではあるものの、別れる前に一度喧嘩をしていたと言っていたが、それの影響でここまで本人の口調が荒くなっているんだから。
親子喧嘩というのは恐ろしい、とひそっと感じた。
「何の話をしてるんですか?」
「疑似魔法に関することでな、この三人が色々知りたいと言ってきて、教えていたところだ。」
「なるほど。」
疑似魔法、三人も使えるみたいだ。
しかも、馬鹿以外の二人は上手に使いこなせているし、将来有望だな。
「お父さん、本当に復活したのね。」
「⋯アディナ。」
「別に、気にしてないけど。」
気にしてるのが見え見えなんだよなぁ。
少しの硬直を開け、勇者は娘をぎゅっと抱きしめた。
アディナは声も出さずに、抱擁を受け止めている。
険悪そうな顔を見せていたのに、抱きしめられたら素直にそれを受け入れてる。
案外良い奴じゃん。
「ありがとう、生きててくれて。」
「う、嬉しくなんか⋯ないんだから⋯⋯!」
もう強がりなのか口癖なのかわかんないっての!
でも、二人が幸せならそれでいいや。
つづく




