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EP 5

銀玉の錬金術師とSWAT隊長

 午後1時。

 私は、タロウ国第4区にある娯楽の殿堂『パーラー・タロウ』の自動ドアの前に立っていた。

 ウィーン……という音と共にドアが開くと、中からは爆音のような電子音と、人々の熱気が溢れ出してくる。

 ジャララララ! キュインキュイン! 「確変突入ー!」

 そこは、光と音の奔流が渦巻く、大人の欲望ダンジョンだった。

「ふぅ……。ここからが、本当の勝負ですわ」

 私はパーカーのフードを深く被り、気合を入れる。

 所持金はゼロ。普通なら入店すら許されない身分だ。

 しかし、私には目的がある。

 この床に眠る、誰にも拾われなかった小さな希望――『銀玉(パチンコ玉)』を回収することだ。

 パチンコ玉1発は、およそ4円の価値がある。

 つまり、25発拾えば100円。パンの耳以上の贅沢ができる計算になる。

 これはもはや、現代の錬金術と言っても過言ではない。

「行きますわよ……!」

 私は店員の目を盗み、身を低くしてホールへと侵入した。

 ◇

 店内はタバコの煙と、客たちの殺気で満ちていた。

 私は通路の端、パチンコ台の足元ギリギリを這うように進む。

 アイドルの優雅さはどこへ行ったのか?

 いいえ、これは『フロア清掃ボランティア』という高尚な行為なのです(自己暗示)。

「……ありましたわ!」

 第3レーン、『海物語inマンルシア』の台の下。

 銀色に輝く球体が一つ、寂しげに転がっているのを発見した。

 私は電光石火の早業でそれを拾い上げ、ポケットにねじ込む。

 これで4円ゲット!

「むふふ……この調子なら、今日はチョコレートまで手が届くかもしれませんわね」

 私は味を占め、さらに奥地へと進軍した。

 床を這いずり、椅子の下を覗き込み、埃にまみれながら銀の鉱脈を探す。

 その姿は、ハイエナというより、もはや地を這うダンゴムシに近いかもしれない。

 そして、運命の時は訪れた。

 ホールの最奥、『必殺仕事人タロウ』のコーナー。

 そこには、なんと数発の銀玉がまとまって落ちているではないか!

(宝の山ですわーッ!!)

 私は歓喜し、周りも見ずにその場所へダイブした。

 その瞬間だった。

 ドンッ。

 私の頭が、何か硬いものにぶつかった。

 壁? 柱?

 いや、目の前にあるのは……使い込まれたコンバットブーツ?

「……あ?」

 頭上から、地獄の底から響くようなドスの効いた声が降ってきた。

 ヒィッ!?

 私は恐る恐る顔を上げる。

 そこに立っていたのは、全身黒ずくめの男だった。

 防弾ベストのような厳つい装備。腰には無骨なリボルバー(モデルガン?)。

 そして何より、私を見下ろすその眼光が、完全に『殺し屋』のそれだった。

「な、ななな……」

 終わった。店員に見つかるどころか、裏社会の用心棒に踏み潰される。

 私が恐怖で硬直していると、男は口に咥えていたコーヒーキャンディをガリリと噛み砕き、しゃがみ込んだ。

「嬢ちゃん。こんな床這いずり回って、コンタクトでも落としたか?」

「ひっ! い、いいえ! その、これは……店内の美化活動と言いますか、銀色の妖精さんを探していると言いますか……!」

 私の支離滅裂な言い訳を聞いて、男は呆れたようにため息をついた。

 そして、私の薄汚れた手と、ポケットから覗く数発のパチンコ玉を見て、何かを悟ったようだった。

「……腹、減ってんのか」

「えっ」

「子供がこんなタバコ臭い場所で地べた這いつくばってんじゃねぇよ。……見てるこっちの気が滅入る」

 男――T-SWAT隊長の鮫島勇護は、そう呟くと、自分の台のドル箱(銀玉がいっぱい入った箱)を無造作に掴んだ。

 そして。

 ジャラララララ……!

 私の目の前に広げたパーカーのポケットに、鷲掴みにした銀玉を流し込んだのだ。

 その数、およそ200発以上!

「えっ、えええっ!? い、いいんですか!? これ、確変中の貴重な玉じゃ……!?」

「構わん。どうせ今日は勝ちすぎて、換金するのが面倒だったところだ」

 鮫島はフンと鼻を鳴らし、立ち上がった。

「それでなんか食って、さっさと帰って風呂入れ。……風邪引くぞ」

「あ、あの! お名前は!?」

「……通りすがりの公務員だ」

 男は背中で手を振り、煙の中に消えていった。

 なんてハードボイルド。なんてイケメン。

 私の目には、彼が白馬に乗った王子様(ただし目つきは悪い)に見えた。

 ◇

 数分後。

 私は景品交換所のカウンターで、戦利品を交換していた。

 鮫島さんがくれた玉と、私が拾った玉を合わせると、そこそこの金額になった。

 特殊景品(換金用)にするには足りないけれど、お菓子コーナーの商品なら選び放題だ。

「これと、これをお願いしますわ!」

 私が選んだのは、銀紙に包まれた板チョコレートと、小さな飴玉。

 カウンターのお姉さんが不思議そうな顔で渡してくれる。

 店の外に出ると、西日が眩しかった。

 私は早速、板チョコの包み紙を剥がす。

 カカリ、と一欠片を口に含む。

「ん~~~~っ!」

 甘い。

 脳みそが痺れるほど甘い。

 カカオの香りと砂糖の暴力的な甘さが、疲れ切った体に染み渡っていく。

 今日の朝から、雑草、パンの耳、おにぎり半分と来て、ようやくありつけた「嗜好品」。

「生きてて良かった……」

 私は鮫島さんがくれた飴玉をポケットにしまい、チョコを大事に齧りながら歩き出した。

 夕方の風が心地よい。

 今日は大戦果だ。この調子なら、明日はもっと良いことがあるかもしれない。

 ……そう思っていた私の鼻先に、不意に『暴力的なまでに食欲をそそる香り』が漂ってきたのは、その直後のことだった。

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