EP 17
戦慄! 税務署の取り調べ
タロウ国税務署、地下2階。
特別聴取室。
そこは、SWATの倉庫よりも遥かに恐ろしい場所だった。
壁は真っ白でシミ一つなく、蛍光灯の白い光が目に痛い。
そして何より――寒い。
冷房がガンガンに効いている。これは物理的な温度ではない。私の懐(と心)を凍らせる、絶対零度の「徴収の気配」だ。
「……ううっ、寒いですわ……」
私はパイプ椅子(座面が硬い)に座らされ、震えていた。
目の前には、鉄壁の表情を崩さない税務官、灰原が座っている。
手元には分厚いファイルと、電卓。
「リーザさん。寒気を感じるのは、貴方の納税意識が低いからですよ」
「そんなオカルトな因果関係ありませんわ! 暖房入れてくださいまし!」
「経費削減です。……さて」
灰原はファイルをパサリと開いた。
そこには、私の恥ずかしい写真がズラリと並んでいた。
『LOVE&MONEY』のライブで札束に飛びつく私。
公園で鳩とパンの耳を奪い合う私。
そして、視聴者から届いたダンボールの山に埋もれて喜ぶ私。
「これらは全て、貴方の『経済活動』の記録です」
「い、いやらしい言い方しないでください! これはファンとの交流で……」
「交流? いいえ、事業です」
灰原の眼鏡が冷たく光った。
「まず、先日のライブで得たおひねり。あれを貴方は『お小遣い』として処理しましたが、間違いです。あれは興行による対価……すなわち**『事業所得』**です」
「じ、じぎょう……?」
「当然、所得税の課税対象となります。経費(衣装代等)を差し引いた純利益に対し、税率がかかります」
まくし立てられる専門用語。
私の脳みそがショート寸前になる。
「さ、さらに! 問題なのはこちらです」
灰原は、ダンボールの山の写真を指差した。
「ファンからの支援物資。パンの耳、缶詰、古着。これらは**『現物給与』もしくは『個人からの贈与』**とみなされます」
「はぁ!? も、貰い物に税金がかかるんですの!?」
「当然です。市場価値がある以上、それは資産です。パンの耳一袋につき10円、缶詰は100円……これらが数千個。積もり積もれば莫大な額になります」
なんという理屈!
ゴミ寸前のパンの耳にまで値段をつけるなんて、悪魔の所業だ!
「そんなの知りませんでしたわ! 誰も教えてくれませんでしたもの!」
「『知らなかった』で済むなら、警察はいりませんよ」
灰原は冷徹に言い放ち、電卓を叩き始めた。
カタカタカタカタッ……!
その高速打鍵音は、まるで私への死刑宣告のカウントダウンのようだ。
「……出ました」
タンッ!
灰原は電卓の液晶画面を私に向けた。
「所得税、贈与税、さらに無申告加算税を含め……金貨50枚(50万円)」
「ご、ごじゅう……!?」
私は椅子から転げ落ちそうになった。
50万円。
今の全財産(金貨5枚)の10倍。
半額のり弁なら2000個買える金額だ。
「は、払えませんわ! そんな大金、どこにもありませんのよ!?」
「ない? では、差し押さえを執行します」
灰原は無表情のまま、次の書類を取り出した。
「貴方の財産……預金口座、ライブ衣装、さらにシェアハウス内の私物(布団など)を競売にかけます。それでも足りなければ……」
彼はニッコリと笑った。
「身体で払っていただきます。……幸い、北の海ではマグロ漁船の人手が不足しているそうですから」
――マグロ漁船。
まただ。またその単語だ。
リベラ様だけでなく、国までもが私を海に送ろうとしている!
「いやぁぁぁッ!! 助けてぇぇッ!! 誰か、誰かぁぁッ!!」
私は絶叫した。
SWATの時はカツ丼が出た。
でも、ここにはカツ丼もない。あるのは冷たい数字と、絶望的な未来だけ。
その時。
バァァァァン!!
聴取室のドアが、蹴破られる勢いで開いた。
「――待ちたまえ!!」
逆光の中に立つ、一人の女性のシルエット。
優雅な巻き髪。鋭い眼鏡。そして、片手には分厚い六法全書。
「そ、その依頼人……私が引き受けますわ!」
「リ、リベラ様ぁぁぁーッ!!」
地獄に仏。税務署に弁護士。
最強の助っ人、リベラ・ゴルド様が、颯爽と(そして金の匂いを嗅ぎつけて)現れたのだ!




