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EP 10

覚醒! ライブ・オブ・グリード

 週末の夜。第9倉庫前の広場は、異様な熱気に包まれていた。

 急造されたトラックの荷台ステージ。

 集まったのは、テント村の住人、パチンコ帰りの労働者、そして噂を聞きつけた物好きな市民たち。

 決して上品な客層じゃない。酒の匂いと、生活の匂いが充満する場所だ。

 ステージ袖で、私は震える手でマイクを握りしめていた。

 衣装は、リベラ様が貸してくれた金ピカのスパンコールドレス。

 スポットライトの光が、処刑台への階段のように見える。

「……怖いか?」

 背後から声をかけられた。

 ジャージ姿のプロデューサー、太郎国王だ。

 彼は私の震える肩をポンと叩いた。

「リーザ。今までのお前は、『清く正しく美しい』自分を演じようとしてた。だから誰の心にも刺さらなかったんだ」

 太郎陛下は、ステージの向こうでざわめく観衆を指差した。

「あいつらは敏感だ。作り笑顔や、綺麗事の嘘なんてすぐに見抜く。……嘘をつく奴は本物のアイドルじゃねぇ」

 彼は私の瞳を真っ直ぐに見据えた。

「お前の全部を見して、客を掴んで来い。……お前の貧乏も、ハングリーさも、金への執着も、全部武器にしろ」

 全部、見せる。

 私の恥部も、欲望も。

 私は深く息を吸い込んだ。

 不思議と、震えは止まっていた。

 腹の底から、熱いものがこみ上げてくる。

「……はい!」

 私は力強く頷いた。

 瞬間、ステージの照明が落ちる。

 イグニスさんが操作する巨大スピーカーから、ファンキーなスラップベースのイントロが爆音で鳴り響いた。

「行ってきますわ……!!」

 私はステージへと飛び出した。

 ◇

 眩しいライト。数百の視線。

 私はセンターに立ち、不敵な笑みを浮かべた。

 さあ、開幕ショータイムよ!

 ♪All: 愛!アイ!愛!アイ!ラ〜ブラブ!

 ♪All: (Fu Fu!)

 ♪All: マネー!マネ!ローン!ダーリン!グ!

 ♪All: (Yeah!!)

 冒頭からエンジン全開。

 「愛」と叫びながら「マネー」と続ける狂気の歌詞に、観客が一瞬ポカンとする。

 構うものか。私は踊った。

 キャルルさんとの特訓で培った、音速のステップで!

 ♪【1A】

 ♪朝に目覚ましがなったわ (ジリリリ!)

 ♪私はまだ眠いわ (おはよー!)

 ♪朝シャンしなきゃ (Fu!)

 ♪朝メニュー食べなきゃ (パクパク!)

 ♪鏡の前で メイクをしなきゃ

 ♪(魔法をかけて〜! )

 キュートに、あざとく。

 完璧なアイドルの仕草で歌う。

 でも、ここからが本番だ。私の本性は、1LDK(城)に置いてきた!

 ♪【1B】

 ♪さぁショーの始まりよ (It’s Show Time!)

 ♪のんびりな私は 1LDKに置いて行くわ (バイバイ!)

 ♪扉を開ければ 私が主人公 (オ・レ・の! アイドルー!)

 最前列で、サクラ役のキャルルさんが「オ・レ・の! アイドルー!」と叫ぶ。

 つられて、数人の酔っ払いが拳を突き上げる。

 いいわ、その調子よ!

 ♪【1サビ】

 ♪今日も私の為に世界が動く (まわって!まわって!)

 ♪全て上手くいくわ (絶対!)

 ♪愛も富も一つの物 (どっちもちょーだい!)

 私は客席に向かって手を伸ばした。

 握りしめるようなジェスチャー。

 「どっちもちょーだい!」。その叫びは、演技じゃない。魂の渇望だ。

 ♪ダイヤが欲しい♪ 土地も欲しい♪ (Want You! Want You!)

 ♪貴方の(とキャッシュ)で生きていける (Fuuu〜!)

 「土地も欲しい!」と歌った瞬間、ホームレスのおじいちゃんたちが「俺もだぁぁぁ!」と涙を流して叫んだ。

 刺さった。共感の槍が、彼らの心臓を貫いたのだ。

 ♪【Post-Chorus 1】

 ♪だから私は 銀河の果てまで歌って行けるわ

 ♪だから、何処までもついて来てね♡

 ♪(一生ついていくよー!!)

 そして、決め台詞。

 私はカメラ(配信用の魔導具)に向かって、極上のウインクを飛ばした。

 ♪ダーリン!

 ♪(チュッ♡)

 ズキュゥゥゥン!!

 会場の男性陣が、一斉に胸を押さえて仰け反った。

 落ちた。今、確実に数十人の財布の紐が緩んだ音がした!

 間奏に入る。

 ステージの端で、イグニスさんがベースをぶん回し、キャルルさんがブレイクダンスを踊る。カオスだ。でも最高に熱い。

 ♪【2A】

 ♪夕方の鐘が鳴ったわ (キンコンカン!)

 ♪お腹はもうペコペコよ (ぐ〜!)

 ♪スーパーのシール見なきゃ (半額!)

 ♪ポイントカードも出さなきゃ (ピッ!ピッ!)

 ♪家賃のために 節約しなきゃ

 ♪(現実はシビア〜! ガマン!)

 2番の歌詞は、さらにリアル(貧乏)に寄せていく。

 「半額シール」「ポイントカード」「家賃」。

 アイドルの口から出るはずのない単語の羅列に、観客の目が釘付けになる。

 「わかる……わかるぞぉぉ!」という声が上がる。

 そう、私たちは同志(貧民)なのだ!

 ♪【2B】

 ♪さぁ魔法の時間の始まりよ (Change The World!)

 ♪地味な私は 楽屋に置いて行くわ (バイバイ!)

 ♪マイクを握れば 私が女王様 (オ・レ・の! 女王様ー!)

 ♪【2サビ】

 ♪今夜も私の為に星が降る (ひかって!ひかって!)

 ♪全部手に入れるわ (強欲!)

 ♪夢も金貨も輝くもの (どっちも好きー!)

 ♪株券欲しい♪ お城も欲しい♪ (Buy Now! Buy Now!)

 ♪貴方の愛(と貢ぎ)で輝いていける (Fuuu〜!)

 ステージ袖で、リベラ様がうんうんと頷きながら電卓を叩いているのが見える。

 「貢ぎ」という歌詞で、彼女の眼鏡がキラリと光った。

 私の背後には、ルナさんの魔法演出で、きらびやかなお城と株券のホログラムが浮かび上がる。

 ♪【Post-Chorus 2】

 ♪だから私は 銀河の果てまで歌って行けるわ

 ♪だから、何処までもついて来てね♡

 ♪(一生ついていくよー!!)

 ♪ダーリン!

 ♪(チュッ♡)

 会場のボルテージは最高潮。

 そして、訪れる静寂。Cメロ。

 私はマイクスタンドを握りしめ、切ない表情で語りかける。

 ♪【Cメロ】

 ♪だって女の子だもん 夢見るだけじゃお腹は空くの

 ♪綺麗なドレスも ガラスの靴も 維持費がかかるのよ

 ♪(そうだー!!)

 観客からの「そうだー!!」という怒号のような肯定。

 そう、夢には維持費がかかる。

 私がパンの耳をかじって繋いだ命。このドレスのクリーニング代。

 全部、タダじゃない。

 私は涙目で叫んだ。

 ♪だから…もっともっと、愛して(課金して)ね?

 ♪覚悟はいい?

 私の本音。

 私の全部。

 喰らえ、世界!

 ♪【ラスサビ】

 ♪世界中が私の為に愛を叫ぶ (まわって!まわって!)

 ♪全部抱きしめるわ (最強!)

 ♪愛も富も同じ輝き (どっちも本物ー!)

 ルナさんが杖を振るう。

 ドォォォン!!

 ステージから金色の紙吹雪が噴き出した。まるで金貨の雨のように。

 ♪ダイヤも株も♪ 土地も愛も♪ (All Need! All Need!)

 ♪貴方の全て(人生)を背負って生きていける (Fuuu〜!)

 貴方の人生サイフを背負う。

 その覚悟が、今の私にはある!

 ♪【Outro】

 ♪だから私は 銀河の果てまで歌って行けるわ

 ♪だから、何処までもついて来てね♡

 ♪(一生ついていくよー!!)

 最後は、全員で合唱だ。

 薄汚いおじさんも、強面のSWAT隊員も、みんな拳を突き上げて叫んでいる。

 「一生ついていくよー!!」と。

 ♪ダーリン!

 ♪(チュッ♡)

 私は最高の笑顔で投げキッスを放ち、両手でお金を受け取るポーズを決めた。

 ♪(ジャーン! …ジャン!)

 静寂。

 そして、最後に響く、SE(効果音)。

 (チャリーン♪)

 ――ワァァァァァァァァァァッ!!!!!

 爆発的な歓声。

 拍手喝采。

 そして、ステージに投げ込まれる無数のおひねり(小銭、お札、食券)。

 チャリン、チャリンと、本物の音が私の足元で響く。

「……はぁ、はぁ……」

 私は肩で息をしながら、その光景を見た。

 誰も、私を笑っていない。

 みんな、笑顔だ。熱狂している。

 私の「欲望」を受け入れ、肯定してくれている。

 袖で、太郎陛下がニヤリと笑って親指を立てたのが見えた。

 リベラ様も、満足そうに丸のサインを出している。

「……勝ちましたわ」

 私は汗だくの顔を拭い、満面の笑みで叫んだ。

「ありがとうございまーす! 物販コーナーはあちらですわよーッ! 今日は握手券付きCDも販売しますから、限界まで回してくださいましーッ!!」

 こうして。

 伝説のライブは幕を閉じた。

 元人魚姫リーザは死んだ。

 そして今ここに、強欲でキュートな『守銭奴アイドル』が爆誕したのだ。

 私のアイドル伝説は、ここから本当の意味で始まる――!

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