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【三人の王子シリーズ】無能王子に婚約破棄されたので実家に帰ろうとしたら、王国のトップ3(全員仕事中毒の変態)に拉致されました。「私の書類を恋人のように撫で回すのはやめてください」

【番外編】「俺にくっついてれば安全だ」脳筋騎士団長と行く下町デートは、物理防御と過保護な餌付けが標準装備。実は気遣いも完璧な「頼れる兄貴分(スパダリ)」に、広い背中で溺愛されています

作者: 文月ナオ

このお話は、本編『無能王子に婚約破棄されたので実家に帰ろうとしたら、王国のトップ3(全員仕事中毒の変態)に拉致されました。「私の書類を恋人のように撫で回すのはやめてください」今さら復縁?私の承認印がないと予算出ませんよ 』の後のエピソードです。

まだ本編を読まれていない方は、先にそちらをお読みいただくと、より楽しめます!

▼リンクはこちらです▼

https://ncode.syosetu.com/n9542lp/

 

 休日。


 それは、終わりのない書類仕事に追われる社畜――もとい、王宮事務官にとって、命の洗濯をするための神聖な時間だ。


 誰にも邪魔されず、自室のベッドの上で二度寝をする。


 そんなささやかで至福の計画を立てていた、その時だった。


 コンコン、と窓ガラスが叩かれた。


 風の音ではない。


 明確な意志を持った、しかしガラスを割らないように配慮された、控えめで力強いノックの音だ。


「……おはよう、レイラ。起きているか?」


 嫌な予感と共にカーテンを開けると、そこには我が目を疑う光景があった。


 女子寮の二階であるはずの私の部屋のバルコニーに、第二王子にして王国騎士団長、テオ殿下がしゃがみ込んでいたのだ。


「テオ殿下……!? 王宮のセキュリティはどうなっているのですか!? ここは二階ですよ」


「正面玄関から入ると、寮監が騒ぐだろ? 手続きだの取次だので、お前の貴重な休日を10分も潰したくなかったんだ」


 彼は悪びれもせず、窓枠に手をかけて爽やかに笑った。


 朝日を背負ったその姿は、不法侵入者であるにも関わらず、一枚の英雄画のように様になっている。


「着替えてくれ。今日は下町で収穫祭をやっている。美味いものを食いに行こう!」


「……お断りしたら?」


「俺の騎士団の情報網によれば、お前はここ数日、まともな固形物を摂取していないらしいな。昼食はサンドイッチを片手に書類と睨めっこ、夜はスープのみ。……そんな食生活じゃ、身体を壊すぞ」


 正論で返されてしまった。


 この人は豪快に見えて、部下や周囲の人間のコンディションには目ざとい。


 騎士団長として、個々の隊員の健康管理を徹底している彼らしい指摘だった。


「補佐官の健康管理も、王族の仕事だ。……ほら、行くぞ。たまには外の空気を吸わないと、根腐れするぞ」


 差し出された大きな手。


 私は小さくため息をつきながらも、その手を取ることにした。




 ◇◆◇




 下町は、祭りの熱気に包まれていた。


 メインストリートを埋め尽くす色とりどりの屋台、大道芸人の笛の音、香ばしい肉の焼ける匂い。


 そして何より、身動きが取れないほどの人、人、人。


 小柄な私は、そのエネルギーに圧倒され、油断すると人波に飲み込まれてしまいそうだ。


「……相変わらず、すごい人ですね。迷子になりそうです」


 私が少し怯んだその時、テオ殿下がスッと動いた。


 彼は私の右側――馬車や荷車が行き交う車道側へと、自然な動作で位置を変えた。


「こっちは荷車の通り道だ。車輪が泥を跳ね上げることもある。お前は内側を歩け」


「あ……ありがとうございます」


 さりげないエスコートだった。


 彼は私の肩を抱くような過剰な接触はせず、しかし私の腕が届く範囲内という絶妙な距離を保っている。


 前方から大柄な酔っ払いが千鳥足で近づいてくると、テオ殿下は無言で半歩前に出て、自身の肩で壁を作った。


 酔っ払いは、目の前に現れた巨岩のような男に気づき、慌てて道を避けていく。


「ペースは大丈夫か? 俺の歩幅に合わせなくていいから、ゆっくり景色を楽しめ」


「はい、問題ありません」


 彼の足は長い。本気で歩けば、私の小走りでも追いつかないだろう。


 だが、今の彼は私の歩調に合わせて、ゆったりと歩を進めている。


 見た目はワイルドで「歩く要塞」のようだが、その中身は驚くほど理知的で、優しい。


「……ん? どうした? じっと見て」


「いえ。テオ殿下は、意外と気配りがお上手なのだなと感心しておりました」


「意外ってなぁ……。俺はこれでも騎士団長だぞ?」


 彼は苦笑しながら、露店の方へ視線をやった。


「戦場でも街中でも同じだ。周囲の状況を把握し、部下や守るべき相手にとって最適なルートを選ぶ。それができなきゃ、団長なんて務まらんって話さ」


 さらりと言ってのける姿に、私は少しだけ胸が高鳴るのを感じた。


 ただ力が強いだけではない。


 この人は、視野が広いのだ。




 ◇◆◇




 広場の一角で、人だかりができていた。


 テオ殿下が足を止める。


「レイラ、あれを見ろ」


 彼が指差したのは、射的の屋台だった。


 祭りの定番だが、ここの屋台は少し難易度が高そうだ。的が遠く、しかも風車のように回転している。


「面白そうだな。やってみるか?」


「私が、ですか? 運動神経には自信がありませんが……」


「コツさえ掴めば簡単だ。ほら」


 テオ殿下は屋台の主人に銀貨を渡し、コルク銃を私に持たせた。


 私は見よう見まねで構えてみるが、銃口がふらふらと定まらない。


「あ、あれ? 意外と重いです」


「脇が甘い。それじゃ反動でブレるぞ」


 テオ殿下が私の背後に回り込んだ。


 彼の大きな手が、私の手の上から添えられる。


 背中に彼の体温を感じて、ドキンと心臓が跳ねた。


「左手は銃身の下を支えろ。右手はグリップをしっかり握る。……そう、そのままだ」


 耳元で響く低音。


 まるで包み込まれるような体勢だ。


「いいか、レイラ。的を見るな。的の動きと、風の流れを見ろ。あの回転板は三秒で一周する。なら、狙うべきは今の位置じゃない。……ここだ」


 彼が私の腕をわずかに修正する。


 その指示は的確で、論理的だった。


 ただの感覚ではない。彼は物理法則と予測演算で狙いを定めているのだ。


「今だ、撃て」


 言われるがままに、私は引き金を引いた。


 パンッ。


 乾いた音がして、見事に回転する的の一つが弾け飛んだ。


「あ、当たりました!」


「な? 言った通りだろ」


 私が振り返ると、彼はニカっと笑って私の頭をポンポンと撫でた。


 子供扱いだ。でも、悪い気はしない。


「次は俺の番だな。……欲しいもんあるか? 俺が取ってやる」


「いえ、特に……あ」


 私は景品の棚の端にあるものに目を留めた。


 ガラス製のインク壺と、良質な羽根ペンのセットだ。


 地味だが、実用的で使いやすそうだ。


「……あの、筆記具なら、仕事で助かります」


「あれか。任せとけ。朝飯前だ」


 テオ殿下は新しい銃を受け取り、構えに入った。


 その瞬間、彼の纏う空気が変わった。


 先ほどまでの優しい「指導者」の雰囲気は消え、獲物を見据える「狩人」の目に変わる。


 ただの遊びではない。


 銃の癖、風向き、的の速度。すべての情報を瞬時に処理し、最適解を導き出す。


 その所作には、長年の鍛錬に裏打ちされた知性が宿っていた。


 パンッ。


 彼が撃ったコルク弾は、吸い込まれるように的に命中した。


 それだけではない。


 パンッ、パンッ、パンッ!


 流れるような連射。


 彼は瞬きする間に、インク壺だけでなく、その隣にあった羽根ペン、さらには特等の大きなクッションまでも撃ち落としてしまった。


「お見事!」


 屋台の主人が目を丸くする中、テオ殿下は涼しい顔で景品を抱えて戻ってきた。


「ほら。言った通りだろ?」


「ありがとうございます。……ですが、このクッションは?」


 渡されたのは、手触りの良い低反発クッションだった。


「お前、ずっと座りっぱなしだろ。腰を痛めないように使え」


「……そこまで考えてくださったのですか」


「一流の仕事を支えるのは身体だからな。道具のメンテナンスも大事だが、使い手のメンテナンスはもっと大事だ」


 彼はぶっきらぼうに言ったが、その言葉には確かな温かさがあった。


 ただの便利な道具としてではなく、一人の人間として大切にされている。


 それが分かって、私はインク壺を抱きしめた。




 ◇◆◇




 その後、私たちは屋台で買った串焼きを食べることにした。


「ほら、食ってみろ。ここの肉は下処理が丁寧で、スパイスの調合も絶妙だ」


 彼が差し出したのは、食べやすいサイズにカットされた肉串だった。


 私が受け取って食べると、彼は満足そうに頷いた。


「どうだ?」


「美味しいです。とても柔らかくて」


「だろ? 栄養価も高い。お前はもう少し肉をつけた方がいい。……見てて危なっかしいんだよ」


 彼は自分の分の巨大な串焼きを上品に食べ進めながら、ぽつりと言った。



「守ってやりたくなる」



 テオ殿下、それは、反則です……。



「わ……私は自分の身くらい守れますよ。護身術も習いましたし」


「そういうことじゃない。……まあ、いいさ。俺が守りたいだけだ」


 その時。


 ふいに背後から、下卑た声がかかった。


「おいおい、姉ちゃん。いい食いっぷりだな」


 振り返ると、酒に酔った数人の男たちが立っていた。


 祭りの熱気に当てられた、たちの悪い連中だ。


「そのデカい兄ちゃんじゃ退屈だろ? もっと楽しいことしようぜ」


 男の一人が、ニヤニヤしながら私の腕に手を伸ばしてきた。


 私が身を引こうとした瞬間、テオ殿下がスッと私の前に出た。


 彼は男の手を払ったり、怒鳴りつけたりはしなかった。


 ただ、静かに男を見下ろしただけだ。


「……楽しい祭りの最中だ。無粋な真似はよせ」


 低い声。


 だが、そこには絶対的な「強者」の余裕と、王族としての威厳が満ちていた。


 琥珀色の瞳が、冷徹に男たちを射抜く。


「な、なんだよお前。やる気か?」


 男が虚勢を張って腰のナイフに手をかけようとする。


 愚かな行為だ。


 テオ殿下はため息交じりに首を振った。


「俺は構わんが……お前たちのためにならんぞ」


「あ?」


「王国法第32条。祭典時における凶器の携行および使用未遂は、即時の拘束と、加重処罰の対象だ。騎士団長としての権限で、俺はお前たちを今すぐ地下牢へ放り込むことができる」


 彼は懐から、騎士団長の紋章が入った身分証をチラリと見せた。


「それに、彼女に指一本でも触れてみろ。……法が裁く前に、俺が個人的に『教育』することになるぞ」


 後半の声は、氷のように冷たく、そして重かった。


 男たちの顔色が、一瞬で青ざめ、やがて土色に変わった。


 彼らは本能で悟ったのだ。


 目の前の男が、格も、力も、何もかもが次元の違う存在であることを。


「ひ、ひぃぃっ!?」


「こいつやべぇ! 逃げろぉぉ!」


 男たちは悲鳴を上げ、蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていった。


 テオ殿下は、何事もなかったかのように振り返り、私を見た。


「……悪い! 嫌な思いさせたな、レイラ」


「いえ。……お見事でした」


 暴力に訴えることなく、言葉と威厳、そして法知識だけで場を収める。


 これこそが、王国騎士団長の器なのだろう。


 私は改めて、この人の懐の深さを知った気がした。




 ◇◆◇




 祭りの帰り道。


 夕日が沈み、空が茜色に染まり始めていた。


 私は一日歩き回った疲れで、足取りが重くなっていた。


 気丈に振る舞ってはいたが、石畳のわずかな段差に躓いてしまう。


「っと……」


「レイラ」


 転ぶ前に、テオ殿下の腕が私を支えていた。


「……無理するな。足、痛むんだろ? さっきから右足を庇ってたろ」


 バレていた。


 彼の観察眼からは、何も隠せないようだ。


 テオ殿下はため息をつくと、私の前に背を向けてしゃがみ込んだ。


「乗れ」


「え?」


「背負ってやる。ここから王宮までは距離がある。その足じゃ辛いだろ」


「い、いえ! そんな、申し訳ないです! 殿下に荷物持ちをさせるわけには……」


「荷物じゃない。……それに、俺の背中は広いぞ? 乗り心地は保証する!」


 彼は肩越しに振り返り、悪戯っぽく笑った。


 その笑顔は、かつて私が憧れた物語に出てくる「頼れるお兄さん」そのものだった。


「それとも、みんなが見てる前でお姫様抱っこの方がいいか? 俺はそれでも構わんが」


「……背負ってください」


 究極の二択を迫られ、私は観念して彼の背中に身を預けた。


 ふわり、と視界が高くなる。


 彼の背中は、想像していたよりもずっと広く、そして温かかった。


 少しの汗と、爽やかな香水の匂いが私の鼻腔をくすぐる。


 鋼のような筋肉に覆われているはずなのに、不思議とゴツゴツした痛みはない。


「……重くないですか?」


「はっ、軽い軽い。羽根ペン一本背負ってるのと変わらないさ」


 彼は軽口を叩きながら、ゆっくりと歩き出した。


 その揺れが心地よくて、私は自然と彼の首に腕を回した。


「テオ殿下」


「ん?」


「今日は……ありがとうございました。楽しかったです」


「そりゃ良かった。また連れ出してやるよ。お前が書類の山に埋もれて窒息する前にな」


 頼もしい言葉。


 私は彼の広い背中に額を押し付けた。


 この「歩く要塞」であり「頼れるお兄さん」である彼の背中に守られている限り、どんな困難も怖くはない。


 そう思えるほどに、彼の体温は優しかった。


 王宮に着くまでの間、私は心地よい眠気に誘われながら、その背中に揺られ続けた。



 これが、私と、豪快でいて誰よりも気遣いのできる第二王子との、初めてのデートの顛末である。

 

ここまでお読みいただきありがとうございました!


現在、本編(番外編含め)連載版の執筆中です。

今週中1/17迄には投稿日の案内が出来ると思いますので、本編のあとがきにて投稿日のお知らせをいたします!


「面白かった!」「また読みたい!」と思っていただけたら、

下にある【★★★★★】評価やブックマークで応援していただけると、創作意欲が爆発します!

★評価は『星1つ』からでも、とても嬉しいです!泣いて喜びます!


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★毎日短編投稿してます!ゲリラ的に2本投稿する日もございますので、興味のある方は作者マイページよりお気に入り登録していただくか、チラチラと確認していただけると、見逃さずにお読みいただけるかなと思います!

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【スカッとしたい方へ】

『その聖水、ただの麻薬ですよね?』

https://ncode.syosetu.com/n7575lo/


【笑ってキュンとしたい方へ】

『冷徹公爵様の心の声 (テロップ)がピンク色で大暴走している件について』

https://ncode.syosetu.com/n8515lo/


【とろとろに甘やかされたい方へ】

『触れるもの全てを殺す『死神公爵』様、なぜか私だけ触れても平気なようです』

https://ncode.syosetu.com/n7783lo/


他にも投稿済みの短編がございますので、作者マイページからお好みのものを見つけてご覧いただけると幸いです。

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