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婚約者は元夫で攻略対象者

攻略対象だった夫は今世でも過保護だけど、幸せなのでまぁいいか。

作者: 狗乃 榊

シリーズ第3弾となります。

前二作を読んでからお読みください

私はケイナ・インマウント。元の世界で遊んでた乙女ゲームの世界に転生してしまった転生者で、何の因果か攻略対象に転生していた元夫と再会して、そのまま結婚してしまった。


もちろん、なんの不満もない。そもそもこの人以外と結婚できる気もしない。


「ケイナ、おはよう」

「おはよう……筋トレ行ってきたの?」


目を覚ますと傍らで着替えるユージン様。

きっと、朝のトレーニングを終えて湯浴みでもしてきたんだろう。朝食前によく動けるものだ。私は朝日が上がってからしか起きれないというのに。


「まぁな。仕事じゃ訓練を指導する立場で自分の時間もないし」

「うん。分かるけど。」

そんな会話をしていると扉の外から侍女が「お目覚めでしょうか」

と声をかけてくる。

「ええ、大丈夫よ。マーサ」

「失礼致します」

実家から着いてきてくれたマーサは、この家でも私の侍女をしてくれている。


「おはよう」

「おはようございます。準備いたしますので、旦那様は自室へお願いいたします」

「女の人は朝から大変だなぁ。じゃ、食堂で待ってるよ」

「ええ。また後で」


マーサに着替えを手伝ってもらい、食堂に着くと、朝からバランスの整った朝食が用意されていた。


「朝から朝食を用意しなくていいのは本当に助かるわ……」

「うちのシェフは研究熱心だからね。栄養面も助かるよね」

「本当に。いつもありがとう。シェフにも伝えておいて」


控えてた執事に伝言を頼むのは毎日のことだ。


毎日のことであっても、朝起きて、ご飯が用意されていて、片付けもしなくていいというのは本当に助かる。朝から卵がないだの、炊飯ジャーの電源入れ忘れただのバタバタしなくていい。掃除も洗濯も、専用の使用人がいて、貴族とは本当に色んな人に支えられている。感謝しかない。


結婚して1年、周りの使用人との関係も良好だ。


そして、サラダを食べて野菜スープに手をつけようとしたところで、ふと匂いを身体が受け付けない感じがする。


「……う……」

「どうした?」

「……なんか、気持ち悪いかも」

一旦そう思うともうダメで、椅子から崩れるようにして床に座り込む

「奥様!」

「バケツ……桶を持ってこい!」


ユージン様が私の背中をさすりながら叫ぶ。




※※※※※※

「ご懐妊ですな。おめでとうございます」


医者は道具を片付けながら言った。


「あ……ありがとうございます」

「今は3ヶ月というところでしょうかね。匂いがきついものは控えて、食べれるものを食べてください」


それだけ言うと、医者はそのまま帰っていった。


「……赤ちゃんだって」

傍らに無言で佇むユージン様を見上げる。


ちなみに私はベッドで横になってます。


「あぁ……そっか……赤ちゃん……え、子ども?」

「だって。」

「え、吐き気とかもう出る時期?前はもっと後じゃなかったか?」

こう言ったのは、きっと前の記憶があるからだろう。

私は前世で子供できた時生理周期とか全部把握してたから、検査薬▶︎確定▶︎つわり

だったからね。

この世界だと生理周期は把握できても検査薬とか無かったから、つわりの時期まで気づかなかったんだろうなぁ。


「よく覚えてるね……前世のこととか」

「まぁ……ずっと辛そうだったしな。今回はどうだ?なにか食いたいもんあるか?……流石にフライドポテトのブランド指定は出来ないぞ」

そうそう、前世ではどうしてもMのつく店のフライドポテトが食べたくて、困らせたっけ。

流石にこの世界はないから仕方ないよね。


「今のところは大丈夫かな。……また色々お世話になります」


苦笑いで伝えるとユージン様はそっと抱きしめてくれて「こちらこそ」と言った。


「ありがとうな。また辛いだろうけど、今回は周りの人も多いから絶対無理するなよ。」

「うん」

「ほらキツイんだろ。おやすみ」

「……おやすみ」


そう言って目を閉じると、やっぱり身体は辛かったのかストンと眠りに落ちた。


目が覚めると体調も落ち着いて、お腹も空いてきた気がする。


(今度はお腹すいて……気持ち悪い)


手元の鈴を鳴らすと、直ぐにマーサが来てくれる。


「マーサ、悪いんだけど、ミニトマトあるか聞いてきてくれる?」


前世ではこういう時ミニトマトばかり食べていた。もしかしたらまた効くかもしれない。


そう言うと、マーサが目を丸くしていた。


「マーサ?」

「あ、申し訳ありません。ミニトマトならここに」


そう言うと近くのテーブルにはミニトマトとレモン水が置かれていた


「ミニトマトとレモン水……もしかしてユージン様?」

「ええ。あとはスープは冷たいものを、ということで冷製スープ……コーンスープをご用意しています。」


さすが前世からの旦那だ。私の好みを完璧に把握しているようだ。


「ありがとう。でもとりあえずこれでいいわ」


いくつか摘んで口に入れると、さっきまでの気持ち悪さはスウッと消えていった。


「ふぅー……」


「起きたか」


ユージン様が顔を出す。


「ありがとう。楽になったよ」

「やっぱりミニトマトがいいんだな。でも確か腹が緩くなるんだったよな。食べすぎるなよ」


そう言って頭を撫でてくる。……そういうのは覚えてなくていいのに。


「マーサ、あとは見とくから下がっていいぞ」

「では、よろしくお願いいたします」


マーサが下がるのを見届けてから、私は両手を差し出した。


「ん?」

「……抱っこ」

「はいはい」


ユージン様はベッドの端に座ってギュッと抱きしめてくれる。

力強い、大好きな腕の中はいちばん安心できて、猫のように眠りたくなる。


「ああそうだ。週末はエリザベス様とのお茶会だったよな。」

「うん」

「ついて行くから、勝手に行くなよ」

「え、でも仕事……」

「調整する。それから、部屋は2階から1階の部屋に移して、風呂の時は2人は必ずつけること。ひとりで外出しない……は元々か。あとはなんだ?」

「と、とりあえずそれくらいじゃないかな?まだあと7ヶ月もあるし。ぼちぼち……ね?前世みたいに私もガンガン仕事してる訳じゃないし」

そういうと、それもそうか、と納得して貰えた。

「無理しないようにな」

「もちろん」

ユージン様は優しい顔で私のお腹を撫でる。

まだ全く目立ちもしないお腹だけど、確かにいるのだ。


***************


「相変わらずの過保護っぷりだこと。……子どもが出来てなおさら加速したんじゃないかしら?」


今日はエリザベス様とのお茶会。卒業し、女公爵としてご活躍されているというのに、未だ私とは仲良くしていただいている。社交界でなんとかやれているのは、エリザベス様のおかげだ。


「やっぱり、そう思われます?」

「学生の頃からずっと思ってるわ」


優雅にお茶を飲むエリザベス様。お手本のような作法に、うっかり見惚れてしまう。


「そういえばマクシミリアン様はお仕事中だったのですよね。ユージン様がお邪魔してしまって……」

「いいのよ。少しは息抜きも必要だし。ほら、学生の時のあの騒ぎで、マクシミリアン様の周りからごそっと人が減ってしまったでしょう?」

「でもあれは薬のせいで……」

「そうだとしても当時は第一王子だったんだもの。側近も含め危機感や管理能力が足りなかったと言われても仕方ないわ。現にあなたの旦那様は引っかからなかったじゃない。」

「あの人はその……常に警戒しながら過ごすタイプなので」


そういや前世でもよく周りを警戒してたっけ。車が突っ込んできた時のかわし方や、ナイフを持って走ってくる相手への対処法、後ろから手を掴まれた時や走ってくる自転車の倒し方……うーん、これで仕事が警備関係でもなんでもなかったんだから不思議。あ、でも出会う前は空自だったか。それでかなぁ……


まぁお陰でどこに行くにも護衛がついてる感じがして安心できてたけど。あれ?そういや前世もたまに旦那が後ろをキョロキョロしながら着いてきてたな?あれ、普通に護衛されてた感じ?!平和な日本で?!


「ケイナ?どうかした?」

「あ、いえ。信用を取り戻すのは大変なんですね……もう随分と前ですのに。」

「流石に事が大きかったからね。まぁお陰で私は公爵として仕事をバリバリ出来るから助かるわ。」


エリザベス様はこの世界では珍しく女性の中でも仕事大好き人間で、しかも先頭に立って進めることに生きがいを感じるタイプらしい。

私とは真逆といってもいいくらい、カッコイイ女性の代表みたいな方だ。


その中でも休みの日はこうやって声をかけてくれる、優しい方でもある。


「私は公爵のお仕事は分かりませんが……とてもカッコイイと思いますわ」

「そう?またお菓子を差し入れてくれてもいいのよ」

「お望みなら。クッキーとケーキどちらがいいですか?」

「ケーキかしら。出来れば仕事しながら食べれると最高ね。あ、体調がいいときでいいわよ。もちろん」

「ありがとうございます」


そうやってお茶会はお開きになり、私はユージン様と馬車に乗り込んだ。


「楽しかったか?」

「うん。お陰様で」

「安定期になるまでは、あまり動き回るなよ。すぐ体調崩すんだから」

「ふふ、気をつける」

「あと、マクシミリアン様に男性の育休について提言するように言ってきた」

「え?!」


この世界で、男性の育休という概念はないはずだ。逆に出産した女の人には乳母が付くのが通常だ。


「そりゃ、前世では育休取ってもらったし、すごく助かったけど……今回は乳母もいるのよ?」

「乳母はあくまで赤ん坊の世話役だろ。なら俺はケイナの面倒を見る役。」

「……おおぅ」

「出産後は複雑骨折状態と同じ……だったな。何度言い聞かされたか」


うん、そうだね。助産師さんとかお医者さんとかSNSとか……色々調べたり、聞いたり、パパママ学級とか一緒に行きまくったもんね。


「だいぶ覚えてるみたいだから任せとけ」

「うん……記憶力いいね。」


なんて頼もしいんだろう、うちの旦那。

マクシミリアン様……すみません、無茶ぶりして。でも、側に居てくれたらすごく助かるので、よろしくお願いいたします。



本格的につわりが酷くなってくると、今回のつわりが食べづわりと眠りづわりの複合型てあることが分かった。


お腹が空くと気持ち悪い、何かを口に入れて落ち着くと今度は眠気に襲われる。


少し食べては寝て、を繰り返す私の為に、1階の色んな部屋に横になれるソファが設置された。


その中でもお気に入りは日差しが入る出窓に設置されたソファで、そこにはフカフカのクッションも一緒に置かれている。


ユージン様が仕事で出ている間は、仕事以外の時間をだいたいそこで過ごすか、体調がいい時は庭を散歩する。伯爵夫人としての仕事も仕事部屋の中にソファを置いてもらい、すぐに休めるようにしてもらった。前世が事務職だったお陰で、書類仕事は得意だから助かった。


そうやって色々あったものの、やっと安定期に入った頃の朝、議会では公爵家から「後継者育成休業制度」の提案がされたというニュースが入ってきた。

「後継者育成休業制度…?」

「詳しくはこちらをどうぞ」


そっと差し出された新聞には、議会で提案されたという新しい休業制度の説明が載っていた。内容は、「後継者、もしくは後継者となり得る者が誕生した際には、当該家門の長は一定期間、その教育を自ら担い、あわせて領地運営の安定に専念する期間とし、

定例登城の義務を免除されるものとする」

とある。


「うわぁ…これ、言ってたヤツだよね…マジだったのか…」


名前を変えた育休だった。本気の奴だった…


「何を驚いてるんだ?」

「ユージン様…この前言ってたことがもう実現されようとしてますが。」

「むしろやっとここまで来たんだ。ギリギリ、ってとこだな。」

「ここまで早く制度を通すなんて…マクシミリアン様、無理されたんだろうな…」

「いずれ自分も使うんだって言ってたから大丈夫だろ」

「…じゃあいっか」


ユージン様がそういうなら、いいや。


さて、安定期に入ったものの、食欲が出ず、なかなか仕事も上手く進まない日。

ふと、仕事量がだいぶ少なくなっていることに気づいた。


「ねぇ、セバス?」

「なんでしょう?」

「私の仕事、減っている感じがするのだけど」

仕事の補佐をしてもらってる執事のセバスに声をかけると「そうですね」とサラッと答えられた。

「…どこに行ってるのかしら」

「どこと言いますと?」

「しらばっくれても無駄よ。」

「しらばっくれるつもりはありません。元より、今は少なく回されております。奥様は大事な御身ゆえ」

「それは分かってはいるけど…」

「絶対無理をさせるな、とのご命令ですので」


うん、その命令は私ではなくユージン様からだけどね…


まぁ、仕方ないかと思いつつも、何故かモヤモヤする。私だってやれるのに。


モヤモヤを抱えたまま仕事するのも嫌だった私は、夜を待ちユージン様の執務室に突撃することにした。


「どうした?」


部屋に入って積み上がった書類の中には私が担当していた仕事の書類が見える。


「これ、私がしてたヤツよね」

「そうだな」

「…私、安定期に入ったの」

「知ってる」

ユージン様はまた書類に目を落とした。


「もう少しあっても出来ると思うの」

「途中寝落ちしてたけど?」

「うむぅ…」

「安定期とはいえつわりがいつ来るかわかんないんだろう?」

「…まぁ」

「しかも食欲もないみたいだな。…痩せてる」

「…痩せては…ない…はず」

「痩せてる。手首が細くなってるし、首が長くなってる。…無理してる証拠だ」


ふぅ、と一息つくとユージン様は立ち上がり、私の腰に手を回して、コツンと額を合わせた。


「絶対無理しないって約束だったろ」

「む、無理はしてないもん…ただ、ちょっと食べづわりが長引いてるだけだもん…」

「安定期に入った割に食事量が復活しないらしいな?」

「だってすぐおなかいっぱいになっちゃって…」

「今は仕事より体調管理だ。いいな?」

「はい…」


むぅ…言いくるめられた感は否めないが、ユージン様は間違ったことは言ってない。


「そうだ、ケイナ」

「ん?」

「今までは個別に寝てたが、安定期に入ったなら一緒に寝るか?つわりで途中で起きることは無くなったんだろう?」

「う、うん」

「じゃあ、寝室に行こうか。」

「…うん」


その言葉でモヤモヤが消えるのだから、なんて単純なんだろう、私は。


そして、その夜は久しぶりの夫の温もりの中でぬるま湯に浸るように幸せな時間を過ごすのだった。


そして、いよいよ、妊娠も臨月に入り、お腹も重くなってきた頃、ユージン様は宣言通り「後継者育成休業」の取得段階に入ったらしい。

エリザベス様から

「意気揚々と申請書類を提出したそうよ」

と聞いた。

「凄いわね。あの申請書類、原案は貴女って言うじゃない」

「え…あ、そう、ですね」

「何か参考にしたの?」

「ええ、ちょっと…」


ええそうですね。前世で産休育休とる時の申請書類を全部参考に作りました!事務手続きを他人も含め何回もしてたのが役に立ったよ!


「あとはあの過保護の処理だけね」


ちなみに、今日のお茶会はこの家で行われている。


本当はエリザベス様からお茶に誘っていただいたのに、なんとユージン様は私が屋敷から出ることを拒否。結果わざわざエリザベス様に来ていただくことになったのだ。

ちなみにユージン様は離れたところから私たちを見ている。


私がエリザベス様の為にお茶を淹れようとするだけで「大丈夫か?ここに掴まるか?」と飛んでくるので、鬱陶しくなったエリザベス様が「ああもう!お茶ならわたくしが淹れるからあなたは離れてなさい!」と追い出された結果である。


「あの男はホント…学生の頃から何一つ変わらないわ」

「ふふ…そうですね。実はもっと前からなんです」

「あなたもよ」

「え?」

「全く…それが当然って顔しちゃって。破れ鍋に綴じ蓋ってこういうことね。囲い込まれても別に何とも思ってないんでしょ?」

「うーん、まあ愛されてるなぁ、とは思いますが」

「愛、ねぇ…過保護っていうのよ。もしくは過干渉」

「うーん、私もどちらかといえば常にそばに居たいタイプだからいっかなーと…」

「はいはい。ごちそうさま。」

「本当ですよ?出かけたら追跡魔法とかかけたいくらいに。…私はできないですから残念ですけど。そういう魔道具的なもの、知りませんか?」


前世でGPSを持たせてたように。


「…あなたも相当ね」

「ふふっ」


そのとき、ボコンっとお腹を蹴る衝撃とぐにぐにと中で動く感覚が来た。


「う…っお腹の子が起きたようですわ」

「あら。本当?少し触ってみてもいいかしら」

「ええ、どうぞ」

この頃になると目視でも動きがわかるようになるが、触った方がより実感できる。

「ホント…凄く動いてるわ」

「とても元気な子で…逆子ではないらしいのですが、上と下と両方で衝撃を感じるので、体いっぱい使って動いてるのだと思いますわ」

「そう…不思議ね…本当にこの中に人間が収まっているなんて」


エリザベス様はお腹の子のその動きを感じるように手を当てて、しきりに感心していた。


「ケイナ」

「エリザベス」


声をかけられて振り向くと、視察に行っていたマクシミリアン様が迎えに来たようだ。



「あら、視察は終わったの?」

「ああ。インマウント夫人、この度はエリザベスを招いていただいてありがとう。久々に穏やかに過ごせたようだ」

「いえ、こちらこそ。とても楽しい時間を過ごせましたわ。申し訳ありません、すぐに立ち上がるのが辛くて…座ったまま失礼いたします。」


急に立ったり座ったりするとお腹が張ってフラフラするので、ユージン様が支えて立ち上がらせてくれるまでは最近動きもできなくなってきたのだ。


「あぁ、無理しなくてそのままで。ユージンも奥方も見送りもいいから、私達はこのまま失礼するよ」

「は。」

「たしか育休は子どもが1歳になる日までだったな」

「はい。よろしくお願いします」

「ああ。その分、しっかり領地経営と後継者育成励んでくれ。お前がどう結果を残すかで、今後の動きも変わるだろう。…たかが1年でという輩もいるがな」


「その1年で子は親が親であることを認識します。産後の女性は子どもを守るために気性が激しくなります。だからと何もせず放って置けばそれこそ死ぬまでネチネチネチネチ言われることになりますね。途中で教育に口出ししようものなら何も協力しなかったのに今更グチグチ口出すなと言われるのがオチですよ。」


淀みなく答えるユージン様。


「お、おぅ…なんかみてきたように言うんだな」

「それが夫婦仲の亀裂にもなる時だってあるものねぇ…」

「え?!」

しみじみというエリザベス様に慌てたようなマクシミリアン様。


「まぁうちはまだ子どもはいないけれど。そういう夫婦もあるって聞いた、ってだけよ。気をつけましょうね。」

「あ、あぁ…そうだな」

「さて、楽しかったわ、ケイナさん、また生まれたあと落ち着いた頃にお会いしましょうね」

「はい!ありがとうございました。」


2人はそう言うと、仲良く去っていった。


きっと、マクシミリアン様もしっかり育休を取ってイクメンパパになりそうだ。


そしてその数日後、いよいよ本格的に定期的な痛みが始まった。


「う…っいた…っいたたたっ…」

「陣痛か?」

「ちょっとまって…時計持ってきて時計」

「分かった。」

「あと助産師さんとお医者さん…」

「ああ。おい、湯を沸かしておけ。タオルを大量に。」

「旦那様…なぜそんなに詳しいのですか?」

「勉強したに決まっているだろう!男は何も出来ないんだ。ほら、ベッドにいこう。」


ユージン様はそう言って私をお姫様抱っこしてくれる。子どもと2人分の重量は決して軽くは無いはずなのに

「…よく、抱き上げられますね…はぁ…はぁ…」

「日々鍛えてるからな。ケイナと子どもくらいならいつでも抱えられる。」


…そういや前世でも妊娠中私より体重気にしてたのこの人だっけ。いざと言う時抱えて病院連れてかなきゃだから、ってジムで私の体重分の重りを負荷にトレーニングにしてたらしい。…まさか今世でもやってないだろうね?


「う…っまた来た…っいたたた…いたっいたたた…こ、腰が…砕けそう…っ」

「腹じゃなくて?」

「どっちも痛いの!撫でて!」

「よし来た」


「旦那様!お医者様たちが到着しました」

「お待たせしました!」

「ありがとう。早速よろしく頼む」

「かしこまりました。旦那様はお部屋の外で…」

「…いや、このままそばに居る」

「え?」


ほら、とユージン様が指さすところは、私が無意識に握ったユージン様の洋服。


「奥様、マーサと、乳母のユリアがおります。お手をお離しましょうか」


優しくマーサに言われても、嫌だとばかりにむしろキツく握りしめてしまう。離さなければとは思うのに、手が言うこと聞いてくれない。


「まぁ、流血もそれ以外も、見慣れてはいるし。不安なのだろう。そばに居てやりたい」

「…長いですよ」

「丸2日くらいで終わってくれるといいな。」


断続的に襲い来る痛みに、意識が遠のく事があったり、陣痛が少し落ち着いてやっと手を離せても、ユージン様はずっとそばに居てくれた。

この時代にそんな人がいるとは…とお医者さんもびっくりしてた。普通はドアの外側で生まれるのを待つだけらしい。

立会い出産も確かに前世でも最近の話だったしね。


色んな意味で、ユージン様は今回男性のパイオニア的存在になりそうだ。

まぁ、ユージン様は流血沙汰とかそういうのにもお仕事上慣れてるっていうこともあるけどね…騎士団だし。


そしてどのくらいの時間が経ったのか、意識が飛び、朝か夜かもわからなくなった頃、部屋に大きな鳴き声が響いた。


「生まれた…」

「おめでとうございます!元気な男の子ですよ!」

「男の子…」

「奥様、男の子です。どうぞお抱きください」


そう言って軽く綺麗にされたあと、おくるみの中で泣いている赤ちゃんを抱っこさせてくれる。小さな命が胸に置かれた瞬間、ふぇ、ふぇ、と段々鳴き声が小さくなっていき、すや…っと安心したように寝てしまった。


「ふふ…小さいねぇ…ユージン様、ありがとうございます」

「ああ。お疲れ様」

「さぁさ、これからは忙しくなりますよ。まずはゆっくりおやすみしましょうね」


寝入った赤ちゃんをそっと渡すと、私はもう指一本も動かせない状態のまま、清潔にされたり、居場所を移されたりするのをぼんやりと享受していた。


「奥様、初乳だけ頑張りましょうね」


親が子に与える初乳には、様々な免疫が含まれるので、初乳だけは絶対に私が、とお願いしていたのだ。


そして初乳が終わったあと、気づけば隣にはユージン様が居て、二人で気を失うように寝ていたらしい。


反対を見るとベビーベッドが置かれ、その中ですやすやと我が子が眠っていた。


「よく寝てる…」


「おはよう」

ユージン様も起きたらしく、私の肩越しに、赤ちゃんを見ていた。

「おはよう、ユージン様。…この子のお名前なんですけど…」

「そうだな…マックイーンとか?」

「それ、あの子が好きだった赤い車のキャラ名でしょう?この子はあの子とは違うのよ。」

「でも好きになりそうだろ。」

「なりそうだけど。馬車の時代に車の名前付けてどうするよ。」

「元気に走り回りそうだな。馬追い越して」

「はあ…まぁ、確かにそうね…まぁ赤い車のアニメなんてこっちには無いし。違和感ないからいいかなぁ…」

「そうそう。赤い車の名前だなんて分かるの俺たちだけだし」

「そうね」


ということで、名前はマックイーンに決定した。マックイーン・インマウント。うん、悪くないかもしれない。愛称はマックかな。





数年後


「マック!まってぇー!」

「ここまでおいでー!」


コロコロと転げ回るようにして追いかけっこする二人。今日はまたエリザベス様たちの元へお邪魔している。


「仲良いわねぇあの二人」

「そうですね。いつもお邪魔してすみません」

「いいのよ。あの子もマックイーンくんに会いたがっていたし」


あの子、というのはマックイーンの一つ下のアルバートくんで、エリザベス様のご子息だ。御歳3歳。可愛い盛りである。


「最近は何にでもいやいや言うようになって…こっちが嫌になるわ」

「イヤイヤ期ですねー。ありましたありました。2歳くらいから始まって意外と長いですよねぇ…」

「しかもマクシミリアンがベタ甘で全部叶えようとするから始末に負えないのよ。何でも与えてしまってはワガママ放題になるじゃない!」

「確かに。エリザベス様がその考えなら大丈夫だと思いますけどね」


むしろ何でも与えられる経済状況も凄いよねぇ。さすが公爵家。


うちも貧乏とまでは行かないけど、やっぱり厳選して買うくらいはあるものね。


「公爵家の跡取りとしては…ねぇ」

「まぁ、少しづつ、ですね。先は長いですから。」

「インマウント卿に少し鍛えて貰おうかしら」

「あはは…」


身体と精神は鍛えられるけど若干脳筋になりますがよろしいでしょうか?(笑)




「…ですって。」

「まぁ、俺はいつでもいいと言っておいてくれ」


育休復帰後、騎士団長としての能力をしっかり発揮した夫、ユージン様はあれから様々な人から相談を受けているらしい。主に子育ての。

なんだか、騎士団長って怖いイメージがあるのに相談される内容が子育てって…

そのギャップがなんだか可愛い。


妻を溺愛し、子煩悩な父親として有名なユージン様のお陰で、社交界のご婦人方からとても暖かい目で見られる。お話するのは穏やかな人が多く、ドロドロとした敵意や嫉妬に巻き込まれることが少ないのが救いだ。


「ねぇ、ユージン様?」

「ん?」

「いつまで私を抱っこしてくれますか?」

「物理的に出来なくなるまで」

「ふふっ…じゃあまだ出来ますね」

「ご要望とあらば。」


そう言ってまたひょいっと抱えるユージン様。

私はその頬に小さくキスを贈る。

私だけの大好きな騎士様

過保護だけど、幸せです。


リアル産休中で、あと少しで生まれるなぁと思いつつ頭に浮かんだものを書いてみました。

ちなみに今更ではありますが……

活動報告でも書いているのですがユージンのモデルとなってるのは実は夫です。ユージンの話す内容や行動の殆どは夫を参考にしています。

まぁそもそもこのシリーズのきっかけが私が視点の夢の中に夫が攻略対象者として出てきた!ってのが始まりだったんですよね……

なので、ケイナとユージン以外は完全オリジナルキャラになります。

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