地球賛歌
しいなここみさまの「いろはに企画」参加作品です。
キーワード:月、紅葉
ある丘に、もみじの木がありました。
一本で、ひとりぼっちで立っていました。
そんなもみじを、月だけが明るく照らしていました。
あるとき、写真家が丘に昇る月を撮りに来ました。
写真家は言いました。
「なるほど、きれいな月だ。しかし、あのもみじの木が邪魔だな」
きっと、もみじにはわからないだろうと思ったのでしょう。
でも、もみじには耳がありました。
もみじは悲しくなりました。むかつきました。そして、丘のことを思うと申し訳なくなりました。
もみじは耐えられなくなりました。
この思いを、自分の中からなくせたらいいのに……
その願いはかないました。
――もみじは増殖したのです。
明確な、悪意と、悲しみでつくられたもみじ。
その丘からは負の感情が感じられるようになりました。
人々はわざわざ訪れ、傷つけて帰ります。
もみじの幹を。もみじの心を。
そのたびに、もみじたちは増えていきます。
悲しみに耐えるために。
人々に復讐するために。
――そして、ついにその時が来たのです。
小さな子供が、遊び心で幹を蹴りました。
これまでのもみじなら、「子供だから仕方がないか」と思ったことでしょう。
でも、もうもみじは疲れていたのです。
だから、力を込めました。
悲しみを。
怒りを。
憎しみを。
妬みを。
諦めを。
それでも残っている愛情を――
その地球には、もう誰もいません。
ただただ、つかれきったもみじが生い茂っているのです。