第6話 制服屋はどっち・・・? 後編
〜前回のあらすじ〜
制服を買うために街へと繰り出したマナ。
けれど無自覚にも方向音痴なマナは道に迷う。そこでサフィールと会い、一緒に制服を作りに行った。
そして、待ち時間をサフィールと過ごすことになる。
マナはサフィールと共に、エピキュアを出た。
少し進むと、マナたちは前方で何やら騒ぎが起きていることに気づいた。
誰かの言い争う声が聞こえる。
「おやめください!」
「俺は公爵家の長男だぞ!言うことが聞けねぇか!」
おぼっちゃまが身分を傘にして女の子を連れ去ろうとしている。
この国では、身分の差がそのまま力になる。
公爵家の名は、時に剣より重い。
でも女の子の方は、護衛に守られている。
「私はクレシェンテ公爵家の長女ですよ!」
「知ったことか!」
身分の違いで連れ去ろうとするものの、身分は両方同じだったようだ。
それでも連れ去ろうとするなら、例え公爵家であっても裁かれることになる。
それでも、マナが見る限り、おぼっちゃまはやめる気配がない。
マナはその様子を見て、昔の記憶が蘇る。
自分が誘拐されそうになった時、助けてくれたのは知らないおじいさん。
そして目の前には、あの時の自分と同じ状況の子がいる。あの時のおじいさんは助ける義務などなかったはず。それなのに助けてくれたのだ。
そしてマナは「星姫」。人々を助ける義務がある。
そう、マナは思っている。
マナは飛び出した。
正直、サフィールがいるからなんとかなるだろうとも思ったが、おぼっちゃまの顔を見ていたら、なんとなく苛立ちを覚えたのだ。
「やめてください!」
マナは相手の前に出る。
けれど、マナは出たところでどうすればいいのか分からなかった。
すると、相手のおぼっちゃまがマナの顔を見て、驚いたように言う。
「お前・・・!」
「・・・?」
マナにはなぜ相手が驚いているのか分からない。
すると、周りの女の子達が、サフィールに気づく。
そして、わざと大声で言った。
「きゃ〜!サフィール殿下よ〜!」
「かっこいい〜!」
その声を聞いたおぼっちゃまは、諦めたように捨て台詞を残して、どこかへ去る。
「ちっ!なんでここにいるんだよ・・・」
サフィールはすぐにノエルに指示を出し、騎士団に彼を追わせた。
こんな風に、しばしば起きる様々な事件を、調べたり解決する、日本で言う警察の仕事は、ラニアケア皇立騎士団が行っている。
サフィールが、誘拐されかけた女の子に話しかける。
「大丈夫ですか?」
「ありがとうございます。殿下」
マナも心配し、顔を覗き込む。
相手の女の子は、クレシェンテ公爵家の長女、ソフィ・クレシェンテだ。
マーラプアの入学試験で1番だった子。
すると、ソフィがマナに気づく。
「・・・!か、かわいい!!」
「・・・え?」
ソフィはマナの手を取り、怒涛の勢いで言葉を連ねる。
「可愛い可愛い!貴女、めっちゃ可愛いわね!」
「え、え?あ、ありがとう・・・」
「って、貴女もしかして、マナ・セレスティアさん?」
「あ、はい」
「やっぱり!剣術試験で騎士団長に勝った子よね!あの時も可愛いなと思ったけど強さで忘れてた!」
「えっと、嬉しいよ・・・」
「ふふふ。可愛いな〜。ね、友達になりましょう!私のことはソフィって呼んで!ね、マナ!」
「え?わ、わかった。ソフィ」
「可愛い〜〜〜!!」
マナは困惑しながらも、勢いに押された。
マナはソフィの好みにドンピシャだったらしい。
サフィールも困り気味に言う。
「ソフィさん、セレスティアさんが困ってますよ」
「殿下、こんな可愛い子と何してるんですか!」
「はい?普通に歩いてただけですけど」
「マナ、なんかあったら私に言ってね!」
「え、うん・・・?」
サフィールは呆れて、ため息をつく。
マナはサフィールに聞いた。
「殿下とソフィは知り合いなんですか?」
「はい。ソフィさんのご両親は皇宮で働いていますので、たまに会うんですよね」
「へぇ。大変だね、ソフィ」
「可愛い〜!ありがと、マナ!本当に面倒なのよ!まぁルティアナ姫に会えるなら行くけど!」
「ルティアナ姫?」
「うん!姫様は本当に可愛いらしいの!」
「いいね。私も会ってみたい」
「マナならすぐ仲良くなれるよ!私も早く愛称呼びを許可して欲しいんだよねー」
いつの間にやら、周りにいたたくさんの人は、いなくなっている。
皇子と公爵令嬢の会話を盗み聞きはできない、とでも思ったのだろう。
すると、ノエルが戻って来た。
さっきのおぼっちゃまについて、報告する。
「殿下、報告です」
「はい。ソフィさんとセレスティアさんも聞いてみてください。今後要注意するように」
「はい。まぁ、誰かなんて知ってますけど」
ソフィがそう言った。
公爵家なだけあって、マナ以外は知っているようだ。
「はい。相手はシュトラール公爵家の長男、ムンド・シュトラールです。年齢は14歳のため、捕まえることはできません。補導だけはしました」
「ありがとう、ノエル。・・・マナさん、どうかしましたか?」
マナは顔が青ざめ、どう見ても怯えていた。
手の震えを無理矢理抑えるかのように、服の裾を掴んでいる。
(どうしてまた会っちゃうの・・・)
サフィールは心配そうに言う。
「大丈夫ですか?」
「・・・あ、だ、大丈夫です。すみません」
「どうしました?」
「その・・・何でもないです」
サフィールが心配そうにする。ソフィも。
すると、ノエルが気がついたように言う。
「殿下、そういえば彼は9歳の時にも、誘拐未遂事件を起こしています。その時の被害者は・・・」
「・・・!もしかして、セレスティアさん、彼に誘拐されそうになったことがありますか?」
「・・・はい。あの時、いろいろあってお母さんが怪我してしまいました」
マナは俯き気味で話す。
思い出したくない、悲しい記憶。
『お母さん、かわいそう・・・』
あの一言が、今も胸に突き刺さっている。
ソフィは黙って、頷くだけで聞いてくれる。
「そう言えば、そんなこともありましたね。その前にも彼につけられたりしたと聞きました。すみません、気にかけられなくて。怖かったでしょう」
「いえ、大丈夫です。でも、さっき私に気づいたみたいだったので・・・また何かされないか不安ではあります。自意識過剰ならいいですが・・・」
「そんなこともなさそうですね・・・。まぁでも、前に話したように、セレスティアさんは皇宮の監視下ということになっていますので、そうそう手出しはできないはずです」
「はい。ありがとうございます」
すると、さっきまで無言だったソフィが、我慢の限界というように声を上げた。
「許せない!マナにこんな恐怖を植え付けるなんて!」
「え、そ、そんなに気にしないで」
「でも、マナは怖かったでしょ?」
「・・・うん」
「あーあ、あの時フィルに1発殴ってもらえばよかった!」
フィルとはソフィの専属護衛にして専属侍女の、フィルミナ・ランドールのことだ。
さっきもソフィのことを護衛していた。
剣も持っているが、そうすぐ抜剣することはできなかった。フィル自身の身分も高くないからだ。
「大丈夫だよ、ソフィ」
「安心して!私が殿下よりさらに近くで守ってあげるから!だって私たち、親友だもん!」
「え、あ、うん。ありがとう」
サフィールは笑いながら言う。
「ふふふ。さっき友達になったばかりじゃないですか。もう親友なんですね」
「いいんですよ。私たちの心は通じ合っていますから!」
「ふふふ。いいですね」
「殿下にはあげません!」
「あ、あげるって何を・・・」
ソフィはマナを抱きしめ、サフィールは笑いが止まらない様子だった。
マナは少し戸惑ったが、2人を見て少しホッとした。
するとソフィがマナに質問する。
「マナ、今何してたの?」
「あ、今からマーラプアの制服を受け取るの」
「マジで!?見せて見せて!いい!?ついて行きたい!」
「え、わ、わかった」
「いいですよね、殿下!」
「ソフィさんは言い出したら止まりませんからね」
「ありがとうございます!」
そしてソフィと一緒に歩き始めた。
ソフィはマナの手を握りながら一緒に歩く。
サフィールはそれを見て言う。
「ソフィさん・・・ずっとその調子だと、セレスティアさんが疲れちゃいますよ」
「あ、確かに。ごめん、マナ」
「いや、大丈夫だよ。でももう少し言葉数を減らして欲しいかな」
「うん、わかった。可愛い子見るとついつい興奮しちゃうんだよね。さ、早く行こう」
そしてみんなで歩き、エトランジェに到着。
着くと、店長が出て来た。
「殿下、制服は無事完成いたしました。お連れ様の分も出来ております。過去最高の仕上がりだと思いますよ」
「ありがとうございます」
「では、試着をお願いします」
「はい」
すると、ソフィがマナに言う。
「マナ、着替え終わったら言って!私写真撮る!」
「え、写真?それは・・・」
「大丈夫!前にルティアナ姫も撮らせていただいたから!安全とかの対策はばっちりだよ!」
「ルティアナ姫も・・・ならいいか。じゃあ着替え終わったら言うね」
「よっしゃ!」
マナは少し恥ずかしそうにしている。
そこもまた、ソフィが可愛いと言うポイント。
そしてソフィ以外、それぞれ試着室に入り、試しに着てみた。
夏服は、青と白が基調の、可愛いセーラー。
冬服は、紺がほとんどの、暖かいセーラー。
左胸には校章をつける。星のような校章。
着替えたら、ソフィを呼ぶ。
すぐにソフィが来た。
「か〜わ〜い〜い〜!」
「大袈裟だよ〜」
「写真撮る!私と一緒に映ろ!」
「うん」
ソフィと一緒に写真を撮った。
ソフィはただただ可愛いを連呼していた。
試着が終わったら、試着室を出る。
サフィールは先ほどのソフィの声が聞こえていたようで、少し笑っていた。
そして制服を梱包してもらい、受け渡し。
ここはさすがにそれぞれでお金を払った。
そして店を出る。
マナは言う。
「私はそろそろ帰りますね」
「はい。家までの道は分かりますか?」
「分かります〜。たぶん・・・」
「ふふ。どうせなら送りましょう。制服も割と重いですし」
「さすがに大丈夫です。そこまで迷惑をかけるわけにはいかないので」
マナは遠慮するが、サフィールは気にしない。
「気にしないでください。ソフィさんはどうします?」
「マナは私が送りたいです〜。殿下は城、遠いんですしすぐ帰るといいですよ」
「ソフィさんの家も似たような遠さでしょう。今日は僕、時間ありますし」
「皇子に時間なんてないでしょ〜。どうせ、今日も政務をほっぽり出して来たんでしょうし」
「む〜。確かに政務は溜まってますね・・・。わかりました。今日は譲ります」
「ふふん、私の勝ち!よし、帰ろ!マナ」
ソフィはとても嬉しそう。
サフィールはちょっと不満気。
「えっと、ありがとう」
「うん!」
「では、さようなら。殿下」
「さようなら!」
サフィールも手を振って挨拶する。
「さようなら、セレスティアさん、ソフィさん」
「はい。ノエルさんもさようなら」
「さようなら」
サフィールとノエルは迎えに来た車に乗って、帰った。
そして、そのすぐ後に、ソフィの家の車も迎えに来たので、マナとソフィはそれに乗る。
「マナ、家まで送るから道案内よろしく!運転は大丈夫だから!」
「ありがと、ソフィ」
マナは道案内をし、送ってもらった。
そして、家に到着。
お母さんはまだ帰っていない。
「じゃあね、ソフィ」
「うん。あ、マナ、ケレポナ持ってる?」
「うん持ってる」
「じゃあさ『LANI』交換しよ!」
「いいよ」
「LANI」とは、サフィアスで人気の通信アプリ。
メッセージや写真を送ったり、電話したりできる。
マナ達はケレポナを取り出し「LANI」を開く。
そして、それぞれの連絡先を交換した。
マナのアイコンは星空。ソフィのアイコンは、ソフィが大切にしている飼い犬の写真だ。
「犬可愛いね」
「でしょ!名前はラナだよ!」
「いいね。じゃあ、また今度会おうね」
「うん。バイバイ、マナ!」
「バイバイ、ソフィ。また学校で」
マナは家に入った。
ソフィは車に乗り、家に帰った。
今回はソフィの護衛兼、専属侍女のフィルについて書きます。
ソフィの護衛兼、専属侍女、フィルミナ・ランドール。
フィルは元々貧しい家の生まれでした。
日々の食糧にさえ困るような家なのに、子供の分まで育てられるわけもありませんでした。
けれど、親は心からフィルのことを想っていました。
ある日、借金取りに追われ、フィルの両親は決意します。
自分たちはもうどうなってもいい。せめて、フィルだけは生きて、幸せになって欲しい。
そう思った両親は、フィルをクレシェンテ公爵家の、門の前に置いて、去りました。
当時からクレシェンテ家は評判がよく、優しいと噂でした。
だから2人は、この家からきっとフィルを引き取ってくれると信じて、置き去りにしました。
まだ幼かったフィルは、なぜ置き去りにされたのか理解できず、泣きました。
しばらくして泣きつかれ、眠ってしまいました。
すると雨が降り、フィルの体を冷やしてしまいます。
寒くて、何も考えられず、ただ泣くこともできず震えていると、中から人が出て来ました。
自分と同じくらいの年の女の子。
その子はフィルに語りかけました。
「大丈夫?寒い?一緒に行こう」
その子は侍女に言い、フィルを家に入れました。
そして体を洗わせ、ご飯を食べさせました。
初めての、暖かい食事。
フィルは泣き出しました。
その子は、優しく問いかけます。
「泣かないで。貴女の名前は?どうしてあんなところにいたの?」
フィルは、泣きながら名乗りました。
そして、自分の知る限りの事の経緯を話しました。
その子は、優しく宥め、ソフィと名乗りました。
ソフィはその子を優しく抱きしめ、一緒に住もうと提案してくれました。
それから、フィルはソフィの侍女から、様々なことを学びました。
その上、ソフィの護衛からも、剣術を学びました。
フィルは元々才能があったようで、すぐに上達し、公爵からも認められ、晴れてソフィの専属に。
ちなみに、後にフィルの両親の遺体が見つかり、お母さんのリボンだけがフィルに届きました。
それ以来フィルはそのリボンを身につけ、ソフィに仕えています。
絶対に、両親が護ってくれたこの命を、無駄にしないために。
星への願いが、叶いますように。




