第3話 姿を偽り、試される日 後編
〜前回のあらすじ〜
皇立マーラプア学園の入学試験が始まった。
前回は筆記試験で、難しいがなんとか解けた。
次は剣術試験だ。どんなことが起こるのか、皇子様とはなんかあるかな?
キーンコーンカーンコーン♪
試験官である、学園長が教室に来た。
途端にみんな気を張って、姿勢を正す。
学園長は言う。
「それでは、これから剣術試験の会場に移動します。試験番号順に、私の後ろについてきてください」
「はい」
みんな立ち上がり、試験番号順に並ぶ。
学校が貸す剣を持ち、教室を出た。
マナは誰にも見られていないうちに、そっとペンダントを外してポケットに入れた。
少し移動し、学校の訓練場に着く。
ここでは、普段生徒たちが剣術の訓練をするらしい。
他のクラスで筆記試験をしていた受験生も集まるため、とても大人数。
今年の受験生は、合計1000人だとか。
たくさんの受験生の前には、多くの騎士団員が。
今日、相手をしてくれる人たちだ。
「皆さん、こちらは今日、剣術試験の相手をしてくださるラニアケア皇立騎士団の皆様です。よろしくお願いします」
「「「よろしくお願いします!」」」
みんな一斉に挨拶する。
すると、1人の騎士団の人が前に出て、言う。
「ようよう、ひよっこども!俺はラニアケア皇立騎士団の団長イノア・アルジェント!よろしくな!」
「「「よろしくお願いします!」」」
みんな声を揃えて答えた。
少し心の中では笑っているかもしれない。
なぜなら、イノアは古語で「名前」だから。
騎士団長イノアが言う。
「ちょいと緊張しているみてえだな!俺の犬を紹介してやるよ!ほら!名前はイリオだ!うちの娘に、めっちゃ懐いててよ!」
騎士団長がケレポナに犬の写真を映す。
前列に並ぶマナには、それが見えた。
映っていたのは、騎士団長の見た目からは想像できないような、かっわいい犬。
もっふもっふの真っ白なポメラニアンだ。
けど、名前は相変わらず。イリオは古語で「犬」。
「じゃあ始めるぞ!自分の班は覚えてるな!?こいつらが班の札を掲げるから、そこに行け!」
「「「はい!」」」
騎士団長が言い、受験生が返す。
100人の騎士団が10人ずつ、相手をする。
マナは一班だ。
移動したら、座って待つ。名前を呼ばれたら、前に出て戦う。
「それでは、剣術試験を始めます。騎士団の方と対戦していただき、点数をつけます。『星の祝福』は使用禁止です。不正のないよう、教師が見守っておりますので、ご安心ください」
「「「はい!」」」
学園長の言葉に、生徒が返した。
(「星の祝福」・・・星が一部の人にのみ授ける、超能力。確かこの国の皇子様も持ってるんだったな)
マナの悩みを他所に、剣術試験が始まった。
ここからは、マナたちの班だけ見よう。
一班担当の騎士さんが言う。
「初めまして、受験生の皆さん。僕は一班の相手を担当する、リヒト・シュペールです。よろしくお願いします」
「「「よろしくお願いします」」」
「はい。では、まず1番。ソフィ・クレシェンテ」
「はい」
ラベンダー色で、香りのする綺麗な髪。
そして、アメジストのような紫の瞳。
美人という言葉がしっくり来るような、容姿。
クレシェンテ公爵家の1人娘だ。
ソフィは少し変わり者だと言う噂も・・・。
「では、行きます!」
「はい!」
リヒトが言い、ソフィが答えた。
ソフィが斬りかかるのを、リヒトが防ぐ。
ソフィの剣には、冷たい空気が纏われていた。
小さな氷のような軌跡が残り、消えてゆく。
ソフィは間髪入れず、美しい剣筋で斬りかかる。
さすがは公爵家の娘。
長い髪を靡かせ、リヒトの攻撃を回避した。
けれどリヒトに受け流されてしまい、剣が弾かれた。
ソフィは落ち着いた声で言う。
「負けました」
「はい。ですが、とてもお上手でしたよ」
「ありがとうございます」
ソフィは完璧な礼をして、元の位置に戻る。
「では次、10番のラルム・セメンテリオ」
「はい」
その人が戦う。
力のこもった強い剣技で斬りかかっている。
だがやはり、リヒトの方が優勢なようだ。
少しして、会場がどよめく。
「うっ・・・いってぇ・・・」
「だ、大丈夫か!?」
マナたちの相手のリヒトが怪我をしてしまったらしい。すぐに騎士団長と学園長が駆けつけた。
「これ、手首は打撲してるな・・・。これやったの誰だ?」
「10番の受験生です」
リヒトがその人を示し、騎士団長がそちらを見る。そして、言う。
「なぜこうなった?」
騎士団長は軽く威圧しながら、問う。
けれど10番のラルムは、あまり焦っていない様子。
「わざとじゃありません。俺の『星の祝福』である念力は、自己防衛のために勝手に発動してしまうことがあります。そのせいで浮かせてしまい、落としてしまいました」
「悪気がなかろうと、お前が制御できていないせいだから、減点する。だが『星の祝福』の制御はとても難しいと聞く。そこは考慮してもらおう。お前も制御できるようになれ」
「はい。すみません」
騎士団長の言葉に、マナは少し思うところがあった。
怪我を負ったリヒトは、学園長と歩いて医務室へ行く。そして、騎士団長が言う。
「悪いが、ここからは俺が相手する。まぁ俺は強いが、運が悪かったとでも思っておいてくれ。ちゃんと採点はするからよ」
「「「はい!」」」
みんな元気に答えているが、一部の人(戦闘狂)を除いて、心の中では運悪いと思っているだろう。
そしてこの強い騎士団長に1番に挑むことになるのは、マナだ。
「あー、20番、マナ・セレスティア」
「はい」
マナに憐れみの視線を向ける生徒たち。
祈るかのように、手を組む生徒までいた。
マナは騎士団長の正面に、立つ。
「じゃあやるぞ!」
「はい」
マナは木剣を持ち、構える。
その瞬間、目にも止まらぬ速さで、間を詰めた。
マナにとっては、ただ斬りかかっただけの攻撃。
けれど、騎士団長にとってそれは、12歳とは信じ難いものだっただろう。
「速っ・・・!?」
騎士団長はほんの少し、後退した。
マナの剣が、まるで花びらのように交差する。
見守る生徒の1人が、つぶやいた。
「あの子、誰・・・?」
マナは剣の重さを感じさせない、俊敏な立ち回り。
冬の冷たい空気を斬り、騎士団長を追い詰める。
マナは正面から斬りかかる。
騎士団長は剣を横に持ち、防ごうとした。
だがその瞬間ーー
微かな星の光が、空を裂いた。
そして騎士団長の剣は、宙に舞い、地面に刺さる。
「ま、負けた・・・!」
「・・・!あ、ありがとうございました・・・」
マナは思わずそう言ったけど、内心とても驚いていた。だって、騎士団長が勝つと思っていたから。
マナ自身、なぜ自分の体がこんなに動くのか分からなかった。
ただ、直感で感じた。次に来る斬撃の軌道、回避のタイミング、立ち回り・・・。
まるで戦いに慣れているかのようだった。
1人の生徒が、つぶやいた。
「騎士団長が負けたのなんて、初めてだ・・・」
マナは思わず、剣を強く握った。
星姫は世界を救うため、魔神を倒す。
それには強くなければならない。
そのせいで、周りから畏怖されるとしても。
実はマナは剣を握ったのは、これが初めて。練習も特にせず、動画で学んでいただけだった。
しかも今日はとても寒い日。
マナは寒くて、体が鈍っていた。これでも。
マナは元いた位置に戻った。そして座って待つ。
たくさんの人がマナに注目している。マナは感情を表に出さないため、平然として見えるが、内心は大変なことになっていた。
(どうしよどうしよ。え、勝った?私が?騎士団長さんに?国で1番強いはずの???)
こんな感じでパニックになってしまう。
マナは必死に、策を練る。
(と、とりあえず・・・たってなぁ・・・)
どうしようもないことは、わかっていた。
すでに勝ってしまったのだし、たくさんの人が見ている。証拠隠滅など、しようもない。
だけど、マナが焦る理由はもう1つある。
「あー、えーっと、次、30番、サフィール・レヴァ・ラニアケア皇太子殿下」
「はい」
黄金のような金髪に、サファイアのような碧眼。
見た目通りの、正真正銘の皇子様。ラニアケア皇国が誇る「天の力」持ちの皇子様。
サフィールはちらっとマナの方を見た。
しかしマナと目が合うと、一瞬目を見開き、すぐ目を逸らした。マナも、すぐに下を向く。
(どうしよ、やっぱこっち見てる。避けようと思ってたのに・・・!)
マナは心の中で焦る。マナが焦る理由の二つ目は、この皇子様だ。星姫を捜している第一人者。
聡明な皇子様なら、すぐ見抜かれるかもしれない。もしそうなれば、お母さんやお父さんと引き離されるかも知れない。それは断固として、お断りだ。
マナはすぐに対応策を考える。
「では、行きます。殿下」
「はい」
サフィールと騎士団長が構える。
さっきから騎士団長さん、落ち込み気味な声。
無理もないだろう。
何せ12歳の、それも女の子に、自分が最も得意とする剣術で負けたのだから。
もはや自尊心ボロボロだけど、闘争心はメラメラ。
さぁ、戦闘が始まった。
まず、サフィールは下から斬り込む。
鍛えられたであろう腕で、力強い斬撃を繰り出す。
何度も斬りつけるけど、騎士団長さんはほぼ動かずに受け止めている。直立不動とはいかないが。
(さすが皇子様、剣は得意みたい)
サフィールは一瞬悩み、攻撃を放つ。
だがフェイクだったようだ。
カウンターに引っかからない攻撃を振るう。
けれど回避され、剣を弾き飛ばされてしまった。
「俺の勝ちですね」
「はい。さすが、騎士団長です」
「光栄です」
騎士団長を呼び捨てにし、騎士団長に敬語を使われるのは、皇子だからこそ。
周りの人は、皇子ですら勝てないのにと思っているのか、マナに視線を向けた。
マナは平静を保つ。
その後、一班の人はみんな戦ったが、全員負けた。これで終わり。
騎士団長が、褒め言葉を綴る。
「これにて終わりだな。さすが、星姫様の生まれた代のやつらなだけあって、普段より強かったぜ。特に俺に勝ったやつ。俺もまだまだだと思い知らされた。とりあえず今日はお疲れ様。皆の努力が実り、合格できることを星に祈る」
「「「ありがとうございました!」」」
騎士団長は手を振った。その目は闘争心に満ち溢れている。
他の班だった人たちは、騎士団長に勝った!?と驚いている。
マナは内心、滝汗状態。
「それでは教室に戻って配布物を配ります」
学園長がそう言い、みんなで教室に戻る。
冬の日が落ちるのは早く、もう夕暮れ時だ。
「では、答えと解答を配ります」
先ほど解いた問題の解答用紙と、答えが配られた。
みんなすぐにでも答え合わせをしたいだろうが、己を律する。
「それでは、これにて皇立マーラプア学園入学試験を終了といたします。皆さん、お疲れ様でした。皆さんが合格できることを星に祈ります」
「「「ありがとうございました!」」」
そして学園長が教室を出ると、みんな帰り支度を始める。みんなもうヘトヘトだ。
剣術試験で一班だった人たちは、マナのことが気になっているが、話しかける気力ももう起きない。
だが、そんな気力が起きてしまう人が。
麗しき皇子様が、マナに話しかける。
「セレスティアさん、お疲れ様でした」
「!殿下、こちらこそお疲れ様でした」
「はい。セレスティアさん、少しだけ時間もらえますか?ちょっと話したいことがありまして」
「えっと・・・す、少しなら。人のいない場所で・・・」
「はい、じゃあこちらへどうぞ」
「はい」
マナはサフィールの言う通り、人の来ない教室に来た。サフィールは言う。
「なぜ、人のいないところを?」
マナはさっき考えた対策を振り返る。
(まず、1番有効な手段は、殿下に好意があるように見せること。殿下は女の子が苦手だとどっかで聞いた。言い寄られるとさらに困るんだとか・・・。なら今、1番の答えは・・・!)
マナは“いつもの笑顔”で、サフィールに答える。
「他の人には会話を聴かれたくなくて・・・殿下と2人きりになりたかったんです」
「・・・そうですか?」
マナは声の調子を変えて、言う。
「今日、初めて見た時からかっこいいな〜と思ってまして。勝手してすみません」
「嬉しいです。貴女とは仲良くなれそうですね」
マナの、どうだ!という心中を打ち破るように、サフィールからそんな回答が返ってきた。
マナは驚く。顔には出していないつもりだが、目が見開いている。
なにせ、その言葉に偽りはないように聞こえたから。
「こ、光栄です。ですが、なぜ・・・?」
「別に、誰に対してもこう返しますよ」
サフィールはにこっと笑顔で、そう返した。
けれど、マナには後ろに立っている護衛が、怪訝そうな顔をしているのが見えた。
(嘘なのかな・・・?)
マナは少しそう思ったが、嬉しいと言ったのが嘘なのか、別にと言ったのが嘘なのか分からなかった。
「えっと、あ、明日にしてもいいですか・・・?その、少し疲れてしまって・・・」
「ふふ。いいですよ。騎士団長に勝ったんですから、疲れて当然ですね。また明日」
「!あ、ありがとうございます。また明日、お会いしましょう」
「はい」
マナはそそっと教室を出た。
騎士団長に勝った、というその言葉だけで、何かを見破られたような気がした。
そして、鞄などを持ち、すぐ家に帰った。
「た、ただいま・・・」
「あら、おかえりマナ。何かあったの?」
「いろいろあった・・・」
マナはリビングに来て、ソファに座る。
お母さんも横にいる。
マナは髪飾りを外す。すると、髪は銀河のような色に、目は星を宿した煌めく瞳に戻った。
マナは試験であったこと、その後サフィールと話したことを、曖昧に話した。
特に「嬉しいです」などと言われたことは、隠して話した。なんだか気恥ずかしかったから。
「あらら〜。まさか騎士団長に勝っちゃうなんて。さすが私の娘ね!」
「もー。困ったよ〜」
「たぶん殿下も、マナの戦力が欲しいのでしょうね。ふふ。どうせならそのまま玉の輿に乗ったら?お金には困らないわよ」
「お金に困らなくても自由に困るよ」
「なら、対応策を考えましょ」
「そうだね。頑張るぞ。おー」
「おー」
適当にガッツポーズしたら、夕飯を食べる。
もし受からなかったら、明後日、ハーラウ学園を受験する予定なので、勉強しておく。
とりあえずご飯を食べ、風呂を出た。そして、お父さんに電話をかける。
プルルルル〜♪
「お、マナ。どうかしたか?受験はうまく行きそうか?」
「うまくいかなかったらびっくりだよ」
「お、自信満々だな。簡単だったのか?」
「いや、筆記試験はめちゃむずかった。それよりね、私剣術試験で、騎士団長さんと戦ったの」
「騎士団長と!?なんで!?」
「なんか前の人が、担当の騎士さんを怪我させちゃったから」
「ほぇー。それで?」
「そしたらね、勝っちゃったの!」
「マジで!?マナ強いなっ!」
「でしょー」
マナは勝ち誇った顔をしてみせる。
「しかし、そこには殿下もいたんだろ?平気だったのか?」
「平気じゃなーい。あの後話しかけられて、ちょっと話したの」
「マジか。そりゃ危ないな。なんでも聡明らしいしな」
「うん。どしよっかな〜」
「まぁ、なんかあったら俺に相談しろな!」
「うん。とりあえず合格してますよーに」
「ああ。星に祈ろう。じゃあ、そろそろ寝るか。おやすみ、マナ、マヒナ」
「おやすみ、お父さん」
「おやすみ、レオン」
そうして電話を切った。
その後、部屋に戻り少し勉強して、寝る。
明日は合格発表だ。
マナは対応策を考えつつ、合格を祈って、寝た。
今回は騎士団長イノアについて書きます。
イノアはごく普通の村で生まれた少年でした。
けれど昔から活発で、強いものにはなんとしても勝ちたくなる子でした。
たまに村に現れる狼に挑んでみたり、それがダメならお父さんと格闘したり。
楽しい日々を過ごしていました。
けれど、そんな日々も長くは続きません。
ある日、村になんと、魔族が現れました。
魔族は村の人々を次々に襲っていきます。
イノアのお母さんは、イノアを家の高いところに隠し、囮になるために出ていきました。
お父さんは、魔族と勇敢に戦いましたが、敗北してしまいました。
イノアはしばらく隠れていましたが、とうとう魔族に見つかりました。お母さんが必死に盾になろうとしますが、魔族はそれを楽しんでいるように、イノアに攻撃しようとしました。
すると、突然後ろから、魔族を切り裂いた者が。
当時の騎士団長です。
当時の騎士団長が連れてきた騎士団が、魔族と総出で戦い、なんとか勝ちました。
イノアはなんとか保護され、助かりました。
けれど、お母さんは傷が深すぎて、助かりませんでした。
イノアはお母さんを助けられなかったことを悔やみ、当時の騎士団長に、頼み込みました。
「弟子にしてください!!」
当時の騎士団長は困惑しましたが、イノアの強い瞳に押され、弟子にすることに。
それからイノアは才能を開花させ、国で最強の騎士に成り上がりました。
ある日初めて、イノアは1人で魔族を倒して見せました。
その功績を讃えられ、公爵家の爵位を得ました。
正直要らないなと思いましたが、自分も、あの2人のような立派な親になりたいと思い、受けました。
そして、祝祭パーティが終わった後、イノアは1人、お父さんとお母さんのお墓にいました。
そして、誓いました。
「絶対に、幸せな家族を作ってみせる。そしていつか、魔族に怯えなくて済む世界にするから。例えそれが俺じゃなかろうと。見ていてくれ」
星への願いが、叶いますように。




