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夜の学校

作者: コツメ

 私が小学校に通っていた時、母は役員をしていたためにたまに学校に来ていた。

 ある雨の日、夢の国のランドで買ったお気に入りの傘をさして役員会に出て、帰ろうとしたら傘がなかった。傘立てには似たような赤い傘があったので、おそらく誰かが間違えて持ち帰ってしまったんだろうという話になり、とても強い雨だったこともあり、仕方なくその傘を持ち帰ってきた。夢の国のシーの傘だった。

 間違いなく他人の傘であることだし、間違えたことに気づいて返しに来てくれたりすることもあろうと私の担任に次の日、シーの傘を持っていき、事の次第を話して帰ってきた。

 その傘の持ち主は現れなかった。そのまま学校の置き傘になっている。らしい。

 このように傘を間違って持って帰られたり、コンビニ等で購入するなどした白い傘、あるいは透明な傘に限って盗まれやすいことが私にはよくあります。

 そんな傘にまつわるお話で思い出したのが傘を忘れたために真っ暗な校内に一人で取りに行かされた出来事でした。とても怖かったです。 

 君たちは夜に学校へ行ったことがあるだろうか?

少しだけ、想像してみて欲しい。

 真っ暗な校舎に自分以外誰もいない。ということがどれほどの恐怖なのか。

昼間はあれほど騒がしい教室からは物音一つ聞こえやしない。

 いや、聞こえてきたらきたで、恐ろしく感じるのだろうけれど。


 その日はあわただしい朝だったと記憶している。

 玄関先で学校に行こうと靴を履いていた僕は、母に傘を持っていくようにと呼び止められた。

 台風が近づいてきていることもあり、大雨になるかもしれないからと、心配性の母がわざわざ傘を持ってきたのだった。

 なので、僕は傘を鞄に入れて学校に行った。

 ところがだ。

 授業中には雨がちらついたものの授業が終わるころには雨はすっかりやんでいたので僕は傘を机の中に入れていたことをすっかり忘れてそのまま帰宅したのだった。


 帰宅した折、鞄だけを玄関に投げ捨ててそのまま遊びに出かけてしまった僕が家に戻るとすっかり日が暮れてしまっていた。

 しかもその日の母の機嫌はかなり悪かった。

「あんた、学校に持って行った傘どうしたん?」

 玄関で仁王立ちだ。こんなときは言い訳をしたら余計に怒られるに決まっている。

「え?傘?」と僕は言う。

「そう、傘!!」

 そう言われたので僕は鞄の中をごそごそと探してみる。

「あ~~忘れてきたかもしれん」

「なんでなん?明日は朝から雨やで!どうすんのよ」

「どうしよ」

 その傘は買ってもらったばかりの新しい傘だったこともあって怒りに火をつけたらしい。

「いつも忘れてばっかりなんだからほんとにあんたはもう!!取りに行っておいで!!」

「え?今から?」嘘でしょ。っと思ったから聞き返した。

「そう!今から!!」


 僕は朝、雨が降っていても放課後晴れていると傘を忘れて帰ってくることが多かった。

そんなこともあって、朝は傘が必要ではないときは折り畳み傘なら鞄に入れっぱなしで持ち帰ってくるだろうと、折り畳み傘ジャンプ式を買ってもらったばかりだった。

 新しい傘だったこともあり、鞄から出して見せびらかせたりしてから机の中に放り込んだままにしていてすっかり忘れてしまっていたのだ。


 その傘には名前もまだ書いてないからという理由で僕は学校に傘を取りに戻らされたわけである。

 しかし、傘ごときで学校に、しかも日が暮れてから行くものではない。

 僕は今後二度と、同じようなことがあったとしても夜の学校には行きたくはない。


 あの日僕は何も考えることなく学校へと戻った。

学校に近づくにつれてどんどん暗くなっていく。

 到着したときにはすっかり暗くなっていた。


 僕は学校に着いたものの、さてどうしようかと考える。

まずはうっすら灯のついていた場所を覗いてみた。用務員室である。


「失礼します」声をかけて扉を引き開ける。

 当たり前なのだが、そこには用務員さんがいた。

ほっとして僕は傘を忘れたので教室に取りに行きたいと申し出た。

 すると用務員さんはこう言った。

「何年何組?」

「えっと5年3組です」

「5年3組ね」っと鍵を差し出して僕に手渡してくれた。

「これも渡しておこうか」と言って懐中電灯も持たせてくれた。

「ありがとうございます」礼を言って僕は扉を閉めた。


 ここに来て、改めて背筋がゾッとした。別にお化けがみえたわけではない。いるんじゃないかと思っただけだった。

 そして、真っ暗な廊下に絶望した。すこし考える。

 つまり、僕が1人で3階まで上がって教室の鍵を開けて中に入り、そして自分の机まで行って傘を探し出し、その後、教室の鍵を閉めてまたここの用務員室に戻ってきて鍵を返すってことなんだよな。これは一体、なんの罰なんだろうか。傘を忘れたことはそんなにいけないことだったのか。

 用務員さんも用務員さんではないか。ちょっとひどくはないか。僕がこうして怖いと思っているとは考えたりはしないのだろうか。


そっかぁ、ついて来てはくれないのか。そっか。嘘じゃん。


 そういえば用務員さんに話しかけても無視されたとか言ってた子もいたなぁ。と僕は思い出した。

突然、思いっ切り不安になった。

 やっぱりなにがなんでも学校にくるんじゃなかった。こっわっ!!

もう少しちゃんと頼めば怒られることもなく、しょうがないと言ってあきらめてくれたかもしれない。


 僕は将来、自分の子供ができたなら絶対に忘れ物があったとしても取りに戻りなさい。なんて言ったりしないぞ。そんなことを考えながら廊下を進み始めた。

 懐中電灯を照らして走るか。とも思ったが、すべってころんでもあの用務員さんは来てくれないような気がする。ここは慎重に、慎重にと自分に言い聞かせながらゆっくりと進むことにする。それでも怖さが勝って、どうしても早歩きにはなってしまう。


 懐中電灯が照らしだした窓の外にはヤモリが張り付いていた。

「こわっ!!」

 廊下を歩く音もすごく響く。

 ああ、怖いなぁ。いやだなぁと思いながらも進むのだけれど、こんなときの廊下は長く感じる。


「なんで懐中電灯だけなんだよ」

「どうして、ついてきてくんないんだよ。大人だろ!」

 僕はぶつぶつ言いながら真っ暗な階段を懐中電灯を照らしながら上る。

ようやく5年3組に辿り着いた。

預かった鍵で教室のドアを開けようと試みた。その音さえ響いて怖い。


 怖い怖いと思ってるせいか鍵がなかなか開かなかった。

しかも後ろになんだか気配を感じるのだ。

 恐る恐る顔を後ろに向ける。誰もいなかった。


 ホッとしたその時だった。


 懐中電灯が照らした先に大きな蜘蛛がいた。

「ぎゃあああああ!!」

 僕が叫ぶ。

「うぇぇぇぇぇ!!!」

 誰かが叫んだ。

声がした方に懐中電灯を向ける。

 腰を抜かした奴が大きな口を開いたままフリーズしていた。

「だっ、誰?!」

「あ、あの」

 この広い空間に二人で素っ頓狂な声を上げていた。

「心臓が口から飛び出るかと思った」と僕は呟いた。


「どうしたん?忘れ物?」

「肝試しです」

「え?肝試し?」

「今日、友達とゲームしてて負けたので罰ゲームで学校に行ってトイレのドアを全部開けて帰ってこいっていう」

「お、おお大変やな」


「うわぁ!!」その子が叫んだ。

「どうした?」驚いて僕は訊いた。

「蜘蛛が・・」あぁ、忘れていた。そうだった。

「あ、そういえば蜘蛛がおったな。どっか行ったな?」

 辺りを懐中電灯で照らしてみるが見当たらない。


「あ、あの・・その懐中電灯をお借りするわけには・・・」

「いや、これ借りてるから。用務員さんに」

「あ、もしよければトイレまでついてきてもらえないでしょうか?」


「とりあえずはちょっとそこで待ってて!!」

「あ、あの・・」

「あ、ごめん。ついてくる?怖いよな。蜘蛛おるかもやし」

「あ、ついていきます」

「そう?」

 僕はその子をなんだかほうっておけないと思った。


 僕は5年3組の教室のドアを引き開けた。ゆっくりと教室に入る。

その子はあとからそぉっと恐る恐るついてくる。

「あ~びっくりしたなぁ」

「はい」

「たまたまか知らんけど肝試ししに来ててしかも僕より怖がってくれてるおかげでちょっと落ち着いたわ。びっくりしたことにかわりはないけど、叫んでしもたけど」

 誰に言うともなく独り言のようにつぶやきながらも自分の机に向かう。


 傘を見つけた。僕はしっかりとその傘を握りしめて教室を出る。

先ほどの子を確認する。

「出よか」

そう言って一緒に教室を出てから教室の鍵を閉めた。


「よっしゃ、ほなトイレつきあうわ」

「はい。ありがとうございます」

「どこのトイレ?」

「あ、この先の階段の左側の」

「よっしゃ、ここやね」

「何年生?」

「3年2組です。吉田と言います」

「3年2組の吉田くんね」

「僕は5年3組の後藤」

「あ、後藤さん、あ、ありがとうございます」


「こんな夜に肝試しって、もしかしていじめられてるん?先生とかに相談すべきとちゃう?」

「やっぱり、いじめと思います?」

「そやね。一人で夜に学校行かされることになるとは思えへんかったけど、いざ来てみたらこれはやっぱりいじめなんとちゃうんかなと思うもん。それか君の度胸だめしなんかも知れんけど・・どう?」

 吉田くんからは返事がなかった。

「あ、ごめん、嫌な事って言いたくないよな。わざわざね。初対面やし、ちゃんと言葉にしなくても伝わるといいのにね。そやね」

 僕はちょっと考えてから独り言のように続けた。

「いじめって嫌な言葉やね。大人の人が言うんはハラスメントって言うんかな。自分がされたら嫌な事、それも言われたら嫌な相手だったりすると嫌な思いをしたことに対してそれはハラスメントだ。って怒ったりしてるやん。だから吉田くんも好きでやってるんじゃなくてやらされていたり、それが罰ゲームっていう遊びみたいな感じにしてるけど、嫌な事を強制されてるっていうのはハラスメントにあたるんと違うかな。そもそもそれってちゃんと友達なん?って思わへん?」

「そ、そうですよね」

「あと、1人対大勢やったりするからたちが悪いんよね。人数が多いほうが正しいと思い込むのも怖いよな」

「それは確かにそうですよね」

「いじめられてる子はいじめられてるとは思いたくないもんやもんね。大人になってからいじめられてたって告白する人はいるにはいるけど、僕らはいじめられてるって言うと、負けてる感じがするやん?いじめてる方がもっと嫌な思いをする言葉にした方がいいと思えへん?軽いやん?いじめてる側からするとさ、なんかさ」

「そう思います」

「それにこんな時間に家を抜け出してきたんやろ?なんか言ってきたん?」

「あ、いいえ」

「あかんなぁ。家の人、心配しはるやん」

「はい、すみません」

「まず、先生とか親に相談するといいと思うで。ここは大人の力を借りとくべきやし、こんな事は、ちくっていいやろ。なんなら僕が言うてもいいけど」

「あ、僕、ちゃんと相談します。ありがとうございます」

「じゃあトイレ行くのやめて帰ろうか」

「外で待ってる子がいるので・・」

「え?ほんま?誰も外にはおれへんかったで?!え?うそやろ?どっかに隠れてるん?」

「あ、たぶんそうだと思います」

「頭おかしい奴なんか?」

「何人?」

「おそらく1人」

「1人かぁ。待ってるのも怖そうやけどな」


「トイレのドア全部開けときたい?なんか他には?」

「トイレの水道の蛇口を少しひねって水を流しとけって」

「いやぁ、それはやめとこ。なにそれ?意味ないやろ、まあ、ドア全部開けとけっていうのも意味わからんねんけどな。ほんま誰?そんなん言うん?怖いやろ」

「そ、そうですね」

「なんか言われたら上級生にやめときって言われたって言っていいから」

「はい、ありがとうございます」

「トイレのドアだけでも全部開けとく?証人になってあげよか?」

「はい」吉田くんの返事があったが、声が震えている様子だった。

「震えてるやん、大丈夫か?」

「大丈夫です」

「あ、ごめん、大丈夫かって聞かれたら大丈夫っていうしかないよな」


 その時まで気がつかなかったのだが、その時、トイレから水が蛇口からぴちょんぴちょんと滴り落ちている音がしていた。

「え?どういうこと?コレ?今まで水の音なんか聞こえんかったよな?こわっ!!」

別に蛇口をひねってもいなかったはずなのに。

「これはこれで蛇口開けたことになるんちゃう?そしてトイレのドアも開けたことにしといたらええわ。できたって言ったらその通りやでってちゃんと僕が証人になってあげるし、うまいこと話し合わせるって、約束するから、な、やっぱりこのまま帰ろうぜ」

 僕は言った。

 吉田くんは頷いて黙ってついてきた。

「ごめんな。でも怖いやん?無理やん?」

「あ、はい、すみません。怖いです」

 玄関先で「気をつけて帰るんだよ」と大人ぶって吉田くんに言った。

すると「ありがとうございました」と吉田くんが頭を下げた。

 僕は少し笑って「いいえ、どういたしまして」と応えた。

吉田くんは人懐っこい微笑みを返してくれた。

「やっぱりちょっと待ってて。よく考えたら外で待ってる奴おるかも知れんのやったな。一緒に帰ろ」

「はい、ここで待ってます」

「じゃあ、すぐに戻るからな。動かんとってや」


 用務員室で鍵を返却しようと思っていたら、迎えにきていた父と姉に出くわしたので、2人と一緒に用務員室に行く。

 父が鍵を用務員さんに渡して「夜分にご迷惑をおかけしました」と挨拶をした。

「怖い思いをさせてしまったかな」用務員さんが応えて言った。

 僕は謝ってくれたのかと思っていたのだが、そうではなかった。

「このようなことは2度とないようにしてもらいたいな」

まるで今回の出来事を咎めるような言い方だった。

 父は「申し訳ありませんでした」と謝った。

僕はやっぱりこの用務員さんは苦手だと思った。

 そんなことがあったせいだろうか、それともほっとしたせいだろうか。

すっかり忘れてしまっていたのだ。ごめんな。


 そう、あの吉田くんの存在を。あの時、どうして忘れるなんてことができたのだろう。

その時の事をなんども考えるがわからない。吉田くんがいてくれたおかげで僕は怖さをうっすら忘れていた。二人ってことが心強かった。だからすぐに迎えに行くつもりだったし、絶対に一緒に帰ろうと思っていた。なのに・・ほんとごめんね。


 取りに戻れと言った後、なかなか帰ってこない僕の事を心配した母は外に出てみると思った以上に真っ暗だったので、さすがに不安になったらしい、父が仕事から帰宅した時に、僕がまだ帰ってきていないという話をすると、待っていても仕方ないからいっそのこと学校まで迎えに行こうということになったらしい。当初、姉が家で待っていて父と母で迎えにくる予定だったらしいが、詳しい事情を知らない姉が家にいるより母が留守番する方がいいだろうと父が言ったそうだ。

 こんな時、父は頼りになる。僕と父たちが入れ違いになっていたり、学校まで移動している間に家に連絡が入ったりする可能性を考えて、母は残ることになったのだった。


 けれど1人で家で待っているとどんどん心配で仕方なくなったらしいのと、傘を取りに行かせたことを今更ながら後悔しはじめていた母は今にも泣きそうな様子で夕食作りも手につかず、家の中でうろうろしていたという。

 僕を迎えにきた父と姉と1度は自宅に戻ったのだがその日は外食にしようということになった。

 車でちょっと離れたところにあるレストランに連れて行ってもらった。


 たまに家族で出かけたらよく連れて行ってくれるレストランに到着した。

車から降りて、席までゆったりと歩いた。

 身体は汗ばんでいたし、手も汚れていたのでトイレに行く。

用を足して鏡を見て、手を洗っていたら、ふいに吉田くんのことを思い出したのだった。

 こういう時、どうしたらいいのだろう。僕はとにかくありのまま話すしかないと思った。


 席に戻って僕は言った。

「大事なこと忘れてた」

「傘を取りに行くときついてきてくれた吉田くんに一緒に帰ろうって言ってたんやった」

「どうしよう、もう一回、戻ってもらっても・・」僕は父にお願いする。

「それはいいけど俺たちが帰るときそんな人影なかったなぁ」父が言う。

 待ってるかどうかわからないし、注文もしてしまったし、とりあえずは腹ごしらえをして、その後で帰りにもう一度、学校に寄ってから帰ろうか?とそんな話になった。

 そもそも忘れてたっていうことは、それぐらいでいいってことじゃないかな。と

それはそれで僕はなんだかとても申し訳ない気持ちになったのだった。


 レストランではハンバーグ定食を注文したものの僕は食欲がなかった。

すっかり忘れていた吉田くんの話を家族にした。

「偶然に?」と姉が訊いた。

「そう、偶然に」僕は言った。

「そんなことある?」

「あった」

「いや、そうじゃなくてさ」

「え?」

「偶然に会ったとしてさ、私さ、学校の門のとこからずっと見てたけど、誰も出てこんかったし、あんたにあったときも誰もおらんかったしな。あんたが作ったイマジナリーフレンドっちゅーやつなんちゃう?」

「え?」

「怖い怖いと思ったから、もっと怖がってる子がいると思い込んだら安心するやん。だからあんたの脳が暴走したんとちゃうんかっちゅうねん」

「なんやそれは」

「あんな。脳っていうのはバグることがあるからな」

「やめてや。怖いな」

「あんたが怖いっていう話なんやけどな。もしかしたらおりもせんかった吉田くんっていう子を迎えに行くのもさ、そもそも一緒に行動してたことを忘れてたってことがさ、おかしすぎるんよ」

「いや、ちゃんと吉田くんはおったよ」

「じゃあ、うちらが迎えに行ったときになんで言わんの?」

「なんでやろ」

「ほらな」


 するとハンバーグ定食が運ばれてきた。

「しかも食欲ないって言ってたやつが食べるもんとちゃうやろ。ハンバーグ定食」

「あ、そうか」

「変えてあげようか、私のグラタンと」

「いや、そんな気分ではない」

「ほらな」


 この時にはもう、どうしてだかわからないがお腹がペコペコだった。

残さずに全部食べたことに姉が驚いて、「あんた、食欲ないとか言ってたくせに」

と後から何度も嫌味を言った。


 父は僕たちのやり取りを笑ってみていた。

母は時折、泣き顔になったり僕の話に頷いたり、少しだけ笑ったりした。

 僕は姉が言っていたことを自分なりに考えていた。


 いろんな可能性がありそうだ。と思ったが僕の頭では処理しきれなかった。

そういえばあの蜘蛛はどこに行ったのか?

あんなに大きかったのに、懐中電灯で結構あちこちを照らして探したが見つからなかった。

 そしてあの時、吉田くんがかなり側まで近づいていたのに僕は全く気が付かなかったのは何故だろう。

たしか、吉田くんは尻もちをついて口を大きく開けて怖がっていたなぁ。もっと前から気配を感じそうなもんだよな。でも、教室の鍵がなかなか開かなくてもたもたしていたからそっちに気を取られていたせいかもしれないな。

 よくよく考えてみるとそもそも懐中電灯を持っていても怖くてあんなに真っ暗だった校舎に一人で懐中電灯すら持たずに3階まで上ってこれるだろうか?あの階段、めちゃめちゃ怖かったよなぁ。

真っ暗な学校怖いって気持ちより肝試しに行ってこいっていう連中に逆らう方がもっと怖かったんかな。


 そうやとしたら、めっちゃ頑張ったなぁ。吉田くん。


 レストランの帰りに学校に寄ってもらったのだが誰の姿も見えなかった。しかも用務員室までも真っ暗で裏門も閉められていた。

 なぜ、昼間、賑やかであればあるほど夜って怖いんだろうね。遊園地とかショッピングモールとか学校とかってね。と家族で話しながら家に帰った。


 翌日は台風がやってきたので僕と姉は休校になったので家にいた。

父は出かけなければならない仕事があった。母は台風に備えて、できるかぎりの準備をしていた。

休校になった僕と姉は二人で部屋で特に何もすることがなくてのんびりしていた。


「昨日話してた吉田くんっていう子やけど、どの辺まで一緒におったん?

迎えに行ったから私ずっと校舎の方も運動場も見てたけどそんな子見てへんねんな」

「やっぱりイマジナリーフレンドってやつなんかな?」

「あ、でも怖くはない方のイマジナリーフレンドっぽいからきっと大丈夫やわ。明日、学校で先生や友達に聞いてみたら?ひょっとしたら実在してる可能性だってまだあるからな」

「そうするわ」


 次の日、休み明けの放課後に僕は先生に傘を取りに戻った話をしておこうと僕は職員室に行った。

 担任の早瀬先生を呼んでもらうと、「こっちにおいで!」と促されたので先生の机に向かう。隣の椅子に座るように言われ、従った。

「なんだい?」先生が聞いてきたので、僕は「わざわざ話すようなことかどうかわからないんですけど」と付け加えてから休み前の傘を取りに学校に戻ったこと、そこで3年生の吉田くんに会ったことなどを話した。

「吉田くんねぇ。えっと何組かわかる?」

「確か、3年2組です」

 先生が3年2組の先生に吉田くんって今日学校来てる?と聞いてくれる。

「え?吉田くん?いませんけど」3年2組の担任が答える。

「えっとそれはどういう?」

「あ、うちのクラスに吉田っていう生徒はいません」

「ほ~、だって」と早瀬先生が言う。

「え?」

「どんな子か覚えてる?」

「はい、でも嘘をついてるような感じはなかったように思うんですけど」

 しばらく考え込んでいた先生は

「で、用務員さんは教室までついてきてくれなかったのかい?」

「はい、鍵を渡されて、懐中電灯を貸してもらいました」

「で?ついてきてはくれなかった?」

「はい」

「吉田くんを見たのは君だけ?」

「はい、そう思います」

「まあ、親御さんも迎えに来られたってことだし、う~ん」

 先生は首をかしげた。

「なんか用務員さんの対応に納得いかないよね」先生が言った。

「ごめんね」


 どういう事だろう?これは・・・やっぱり吉田くんは存在していなかったのだろうか?


「大変な目にあったんだね。ちょっと用務員さんにも話を聞いてみるし、吉田くんだっけ?会ったらわかる?」

「わかると思います」

「そう、じゃあ見つけられたら先生が話を聞きたいって言ってたって伝えてもらえる」

「わかりました」

「悪いね。こっちでも何かわかったらまた声かけるから」

「お願いします」


 家に帰ってぼーっとしていたら姉が部屋から出てきてこう言った。

「ここんとこ、ぼんやりしてんな」

「あ」

「吉田くんやけど、今日ちょっと学校で友達に聞いてみたんやけどな」

「うん」

「興味深い話を耳にしたんよ」

「へ?」

「いるにはいたみたいや。3年2組やったっけ」

「そうそう」

「ちょっとは落ち着いてるか?」

「うん、ちょっとは」

「そっか、じゃあ言うで、あんたが通ってる小学校でな。今から27年前に事件があったらしい」

「え?」

「その事件で亡くなった子がいるんよ。しかもおそらく犯人は不明」

「学校で事件で?」

「事件っぽいねんけど事故にされたっぽい」

「え?どういう事?」

「27年前にはな、あの学校の運動場のすみっこにもトイレが設置されててんて」

「トイレ・・」

「そう、ほら公園にある公衆トイレみたいな感じのさ、運動場にもあったんやろな。校舎まで戻るん大変な子もおったかもやしやけど、古くなってて汚れてたし、ほとんど誰も使ってなかったから取り壊されることになってた」

「ふんふん、それで?」

「けど台風の前の日にな」

「うん」

「どうしよ。聞きたい?」

「そらな」

「吉田くんがおらんくなって」

「へ?」

「一度家に帰ってきたもののどこかへ出かけてしまったらしい」

「え?」

「暗くなっても帰ってこない吉田くんを心配したご両親が警察にも届出て、皆で行方を捜した」

「おお」

「台風のせいもあってか見つからんくて」

「うん」

「いよいよトイレが解体されるってなったとき、異臭がするってなって・・」

「え?」

「吉田くんは発見された」

「うそ・・」

「ほんま」


「しかもな、そのトイレは使用禁止の張り紙がされてて外から入られへんように南京錠もかかってた」

「え?」

「だから誰もトイレにいるとは思わなかった。まぁ、犯人がおったら知っとったやろな」

「ええ~」

「トイレに取り付けられていた南京錠を壊して扉を開けたら、そこには」

「え?」

「そう、腐敗した遺体があった。吉田くんやった」

「うそ」

「ほんま」


 姉が話を続ける。

「それはつまり」

「つまり」

「閉じ込められたんじゃないかと」

 僕は驚きのあまりポカンと口を開けていた。

「そこで疑われたのが張り紙をしたという用務員さんというわけ」

「うん」

「でも用務員さんは張り紙を張った覚えはあるけれど、南京錠は知らないって言ってたらしい」

「おお」

「それでもいろんな人から変な目で見られたり、嫌がらせをうけたりしたみたいだし」

「うん」

「第一発見者は用務員さんやったしな。精神を病んでしまったんよ。とんでもないことが起きたというその光景と状況ともしかしたら本当になにかできたんじゃないかと、自分のせいなのかもしれないという思いがあったのか、精神的に参ってしまったんやろな。精神と体調を崩してしまった。働くこともできなくなって入院することになった」

「うん」

「結果、不幸な事故としてその時の事件には誰も触れることがなくなった」

「え?なんか納得いかない」

「そやね、吉田くんも納得いかんかったんとちゃうかな」

「どゆこと?」

「だから幽霊になってあんたに」

「なにかしてほしいってことなんかな」


「そこらへんのことはわからんけど、まあ、友達が事件を知ってる人にな、もう少し詳しく話を聞いてくれることになってるから、明日にでも他に、新しいことがわかるかもしれんしな、私ももうちょっといろいろ聞いたり調べたりしてみるわ」

「お、ありがとう」

「あんまり期待はせんと待っといて」

「おう」


「そ、そっかぁ、じゃあ、僕が会ったあの・・吉田くんはその・・・」

「そうなんちゃうかな?」

「しかも肝試しがまさにトイレのドア開けて!!やったんやろ?」

「水道の蛇口を少しひねって、っていうのも・・」

「水も一滴も飲まれへんかったやろからな。なんせトイレが使い物になってなかったみたいやし」

「ええ?」


 なんということだろう・・・・じゃあ、あの時の吉田くんは幽霊ってことなのだろうか?

ぞっとするっていうよりは、なんだか僕は悲しかった。

 吉田くんが僕の前に現れた理由は正直言ってわからない。僕は帰るときにはすっかり吉田くんのことを忘れてたくらいポンコツなのになぁ。吉田くんが僕に何かを期待していたなら申し訳ないなと思った。

 あの日本当はトイレのドアを開けたり水道の蛇口をひねってあげたりした方がよかったのだろうか?

諦めさせて怖がって逃げ帰るという選択肢は最悪だったのかもしれないなぁ。


 台風が去り、学校が始まってから5日目だった。僕は先生から話があると呼び出された。

「用務員さんに話を聞いてみたんだけどな。鍵を渡してついていかなかったのは、君が怖がってるようには見えなかったし、大丈夫そうだと思ったらしいんだ。でもついていくべきだったよね」

先生はため息をついてこう付け加えた。

「それでな。突然なんだけどな。今月末で退職されるらしい」

「え?」

「いや、後藤くんが気にすることはないよ。俺だって別に怒らせた覚えもないし、詰問したつもりもないんだけどな。あることないこと言われたくないとかなんとか突然、喧嘩腰でつっかかってきてな。詳しい話は全く聞かせてもらえなかったんだよね。これからはご家族に連絡するなり、ついて行っていただくなりして欲しいとお願いしただけなんだけどね。俺の印象だけどな、片岡さんはなんか隠してるかやましいことがあるんじゃないかなっと思ったな。急に辞めるとか言い出す理由もわからないしなぁ」

「はぁ」


 先生は頭を抱えてこう続けた。

「でもまあ後藤くんも無事だったことだしな。こちらも特にこれといって責められないというか、これ以上のことは警察でもないのでそんな詳しく話を聞く事もできなくて、なんか悪いね」

「あ、はい」


「ところで後藤くんは何か気が付いたりしたことはなかったかな?用務員さんの様子でその時変わったこととかはなかったかな?」

「ちょっと夜の学校が怖すぎて、そんなもんなのかなとしか思わなかったので」

「そうか、そうだよな」


 その日、僕は家に帰って夕食を済ませてお風呂に入った後だった。姉が言った。

「吉田くんの話の続きをしようか」

 僕はちょっと椅子から腰を浮かしてたのを座り直してから言った。

「あ、頼みます」

 タオルを頭に巻いた姉が隣に座る。

「新しい情報なんやけど・・」

 その話もまた衝撃的だった。

「吉田くんが小学校3年の時にはな、すでにいじめの標的になってたみたいや」

「やっぱりかぁ。そっかぁ、いじめかぁ」

「それもな、なんか巧妙でな。親とか先生にはバレてなかったっぽい」

「それで?」

「それでな、生徒たちの間では、いじめてた子らが吉田くんを閉じ込めたんじゃないかって噂話がどこからともなく囁かれてた。よほど巧妙やったんかわからんけど親とか先生方にはその噂は届いてはいない」

「うん」

「主犯の子は5年生でな。最初は吉田くんの面倒を見てる優しい近所のお兄ちゃんって感じやったらしいねんけどな」

「うん」

「お金とか要求するようになってな」

「うん」

「吉田くんから奪ったお金でな、吉田くんのクラスの自分の言う事を聞く子にな、なんか欲しいもんを買ってあげたりしてたらしい」

「え?」

「自分の味方につけるためにな」

「うん」

「そのうち、吉田くんは同じクラスの子からもいじめの標的になったみたいで」

「へ?」

「吉田のうすらハゲとか他にもいろんな悪口言われたり、教室の隅で小突かれたり、蹴られたりしている姿を実際に見たり、馬鹿にしたような言葉を口にしているのを聞いていた子が何人もおったりする」

「え?」

「すごいストレスやったんやろな。うっすら禿げるくらいには」

「ああ、そっか」

「子どもってどこまでも残酷やからな。手加減知らんしな。自分の言う事をなんでも聞いてくれる子ってな。自分の存在価値を高めるというか、見下せるからどんどん要求してくるっていうかな」

「うん」

「でも止めてくれる子もおったらしいし、陰で先生に告げ口してくれてる子もおったらしいけど」

「うん」

「吉田くんにはわからなかったというか、届かなかったというか」

「ああ」

「先生もしっかりしたケアをしなかったし、もしかしたら調べもせんかったんかも」

「へ~」

「痣とかもあったみたいやねんけどな。相手はふざけてただけって言ってたみたいや」

「うん」

「そんなことがあったからな。トイレに南京錠つけたんは片岡って小学5年の子とちゃうかって話になっててんて。生徒たちだけの噂やったからほとんど知られてはいない感じで」

「え?片岡?」

「そう、片岡、なんでも小さい頃は悪さしたら家の物置に閉じ込められたことがあるって言ってたらしいねん。しかも南京錠をつけられて、親の怒りが収まるまで開けてもらえなかったらしい」

「え?」

「ほんで、片岡と吉田くんは近所の友達やったらしくてな。学校に行くときも片岡が吉田くんとこ迎えに行ってたらしいねんな」

「なるほど」

「そ、だからたぶん、なんとなく休みづらいし、休ませづらかったやろうな。近所の手前っちゅうやつなんかな」

「うん、そだね」

「吉田くんは学校でのことを家で話すのも難しければ、先生に訴えることも難しい」

「うん」

「でもお金だってなくなってるし、限界はくるよね。気持ちも体もお金も」

「うん」

「もしかしたらやけど、我慢できんくなって親にとうとう話したのかもしれん」

「おお」

「引っ越ししようかってことになってたらしい」

「うん」

「それがちょうど、吉田くんの事件が起こる頃やった。あとちょっとでこの地獄が終わると思ったら呼び出されても学校に行けた可能性もあるよね」

「うん」

「吉田くんは安心したと思う。これで終わると思ったと思う。でも相手は違うやん」

「ああ、そっか」

「引っ越しとなると、いつか必ず、今までしてきた吉田くんへのいじめの全貌がバレてしまうかもしらん。自分が主犯だってこともバレてしまう。悪いことをしてるっていう自覚はちゃんとあったんとちゃうかな。どうしたらバレずにすむか考えたやろな。子どもってほんまどこまでも容赦がないからな」

「なるほど」

「な?」姉が覗き込む。

「え?」僕は反応する。

「なんとかするしかないと思うんとちゃう?引っ越す前にな。絶対にしゃべるなとかさ?」

「なるほど」


「閉じ込めてお仕置きって考えた可能性だってあるやん」

「さっきからちょっと思ってたんやけど、片岡って確か、用務員さんが同じ名前だったような・・・」

「もしも本人やったら怖すぎやな。まあそんな珍しい名前でもないから同一人物ではない可能性も高いけど調べてみる価値はあるな」

「うん」

「27年前やったら今、40歳手前くらいか?」

「お、おお」

「ありえんくはないな」

「先生に聞いたらわかるかな。卒業生かどうか?とか?」

「ああ、わかるかもやね」

「聞いてみたら?」

「おぉ、そうする」


 それにしても、と僕は思う。

台風が近づいてきた日にトイレに閉じ込められるなんて、誰にも気づかれないままなんて、怖すぎるな。

きったないトイレで水も飲めない。声も届かない。暗い、怖い、辛い。ひどすぎるな。

 せっかく引っ越しも決まってこれからやったやろうにな。やっといじめの話もできて前にすすめそうやったのにな・・・そりゃ、幽霊にもなるか・・・


 僕は時々さ、幽霊になったならさ、法律は存在しないしさ、どんな残虐な方法でも恨みを晴らすことができたりしないのかなって思う事がある。吉田くんは優しそうだったけど幽霊になったなら成仏できていないわけなんだし、自分をひどい目に遭わせた奴を同じくらいかそれ以上に怖い目に遭わすことはできないもんなんかなって。

 幽霊っていっても元は人だったわけだしさ、思いとか無念とか恨みみたいなものが幽霊っていう形をとって現れるんだったらさ、誰かれ構わず脅かしたり、怖がらすんじゃなくてさ、ちゃんとさ、恨んでる奴とかに向けて何かできないもんかって思うんだ。

 そうでないといつまで経っても報われない気がするんだよな。だってずっと傷つけられたままでさ。

 片岡達はきっと悪い奴だったんだよ。僕の超勝手で一方的な感情だけどさ、そっちだってただじゃすまないんだからなって、思う。

 違うよ。僕は吉田くんに脅かされたわけじゃないからね、むしろ心強かったから、ありがとうと思うよ。


 次の週の月曜日、先生から呼び止められたので丁度いい機会だと思って、先日姉から聞かされた話を伝えた。

「ちょっと調べてみるから待ってて」

 先生は少しの間、席を離れて校長室へ行った。

僕は窓の外を眺めていた。ぼぉ~っと。

「同一人物やったら怖くない?なぁ、吉田くん」と独り言を呟いていた。


 しばらくしてから先生は戻ってきた。そしてこう言った。

「履歴書を見たら、どうやら卒業生みたいやね。・・・片岡久志。ん~~えっと事件があった年は小学5年生だね。ってことはいじめの首謀者ってことか。こんなこと言ったらなんやけどなんかあの人さぁ、薄気味悪かったんだよね。でも、この学校で用務員をしていたってことは何か理由があるのかな。怖いね。辞めてしまわれるしな。悪いけど、そんな話聞いちゃった後だからかな。ちょっとホッとするなぁ。でも気をつけておくに越したことはないよね。貴重な情報をありがとうね」

「あ、はい。気になったので調べていただいてありがとうございました」僕はペコっと頭を下げた。


 それからは特に変わったこともなく、僕は卒業する年になった。

5年6年と担任だった早瀬先生のところに挨拶に行った。

「いろいろお世話になりました」

「おお」

 笑って手招きされた。

「知ってるかな?噂レベルだけれど、片田舎で起こってる行方不明の・・・」

「聞いた事があります」

「どうやら学校に忘れ物をして取りに戻った子どもがいなくなってるらしいね」

「え?」

「本格的に捜査され始めてるけど・・どうなんかな」

「あ、そうですね」

「傘を取りにきたことで、後藤くんもいろいろと巻き込まれて、ちょっとした事件みたいになったな」

「はい」

「あれから身の回りで変わったこととか起こってたりする?」

「いえ」

「そっか、よかった。変な話しちゃったけど、卒業おめでとう。中学になっても頑張れ」

「はい、ありがとうございました」


「まあ、とにもかくにも、片岡さん辞めてもらっててここは安心かな」

そう言って、先生が薄く笑ったのを僕は見逃さなかった。

 私が卒業した中学校には今でも運動場のすみっこにトイレが設置されている。

中学時代にはそのトイレでタバコを吸っていた生徒が先生に注意されているところを何度か目撃した。

そんなトイレがなぜ、今でもそのままの状態なんだろうと不思議に思っていた。

もう誰も使わなくなって不気味な姿でそこにある。

 おそらく、運動場側に新しい校舎ができるときに取り壊されるのだろうな。と思っているのだが、今でもずっと残っているということは・・・取り壊すことのできない理由があったりするのだろうか?とか思っています。

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