第7話クレアナの裏の心
「……妙に静かです」
口にした瞬間、自分でも驚いた。
私は“武人”である。
余計な感情を口にすべきではない。
計算の結果だけを伝えれば、それでいいはずなのに――。
(……ノクシアの気配がない)
それが、どうしても胸をざわつかせた。
危険因子が消えたのなら、本来は喜ばしいことのはず。
だが、今は違った。
彼女がいないことで、カゲナの中にぽっかりと空洞ができてしまっている。
それがどれほど脆いものか、私は理解していた。
だからこそ、食卓でも努めて冷静に振る舞った。
「鉄分も多いですし、消化にもいいですよ」
――わざと理屈を並べたのだ。
感情を口にすれば揺らいでしまう。
武人としての均衡を失ってしまう。
それを恐れて、私は“先生のような口調”で場を保った。
(……でも)
リアの「クレアナ、食事中でも先生みたい」という冗談に、私はほんの一瞬、救われていた。
あの明るさがなければ、私はきっと冷静を保ちきれなかっただろう。
表情は変えずに返した。
「知識は力です。軽んじてはいけません」
だが、内心では――(ありがとう)と、確かに思っていた。
雷の神獣ライゼンの言葉が頭に響く。
“絆で封じるのだ”
あれは暴走の話だけではない。
カゲナがこれから進む未来を守るには、絆こそが必要。
(ならば、私もその絆の一つでありたい)
武人としての使命。
家族としての願い。
その狭間で揺れながらも――私は心の奥で、初めて自分の役割を「ただの護衛」ではなく、「共に歩む者」だと思い始めていた。