第6話 謎の少女
森を抜ける風は生ぬるく、湿った匂いを帯びていた。
モンスターたちの群れが同じ方向へ流れていく。
吠えることもなく、牙をむくこともない。
(……おかしい。こんなの、今までなかった)
少女は木陰に身を潜め、目を細める。
空気が張り詰め、時の流れがわずかに軋んでいる。
その歪みの源が、近くにある――そう感じた。
気配を消し、枝葉を踏まぬように進む。
そして、木々の隙間から覗き込んだ瞬間、心臓が一度だけ強く跳ねた。
闇と雷が入り乱れる戦場。
そこに立つ五つの影――黒髪の少年、鋭い眼差しの女性、羽根を持つ戦士、雷をまとう神獣、そして淡い光をまとう少女。
そのうちの三人――少年と、二人の女性に視線が吸い寄せられる。
(……血は繋がっていない。でも……)
父は違う。けれど、母は同じ。
初めて感じる奇妙な確信。
義理の弟、そして義理の妹たち――そんな言葉が胸の奥で形を成す。
不意に、心の奥がざわめいた。
この感覚は、ただの偶然ではない。
流れが変わった――そう告げている。
少女は瞼を閉じ、意識を深く沈める。
白い虚空の精神世界が広がる。
足元には光の水面が揺れ、無限の未来が泡のように浮かんでは消えていく。
その中には、さっき見た五人の姿もあった。
ひとつの泡に触れる。
そこには、彼らが穏やかな陽だまりの中で談笑する未来――血も涙もない、安らぎの景色が映っていた。
(……こんな未来も、あるんだ)
無数の流れの中の、ほんのひとつ。
偶然触れた“良い未来”を、少女は胸の奥に刻む。
目を開けば、再び戦場の音が耳を打つ。
彼らはまだ立ち、闘志を絶やしていない。
(……流れは、変えられるかもしれない)
少女の姿は木陰からふっと消え、風だけがその場に残った。
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