第6話カゲナ視点
カゲナ視点
足元に、そっと風が吹いた。
……ただの風じゃない。
昔、誰かに優しく髪を撫でられた時のような、胸の奥をくすぐる温かさがあった。
(……守りたい、もの……?)
頭に浮かんだのは、戦場でも武器でもない、ありふれた日常。
笑っているミレイナとクレアナ。
むすっとしながら魚をつつくリア。
肉だけを狙うノクシア。
何も言わず背を押してくれた母と父。
……思い出したのは、力じゃない。温もりだった。
拳を握りしめる。胸の奥で小さな光が灯る。
怒りや憎しみじゃない、「守る」ための火。
「……僕は、僕の手で……あいつらを守りたいんだ!」
足元の闇が震え、色を変えた。
かつての暴走とは違う――制御され、意思を宿した力。
背中から伸びる闇と光の“牙”。それは僕の願いそのもの。
(これが……僕の武器……?)
「目覚めたか……“願いの牙”」遠くでライゼンの声がする。
魔獣たちの咆哮。僕を試すような音。
一歩踏み出し、牙を構えた。
「……来いよ」
結界を破って巨体が迫る。雷をまとい、迫力は壁のようだ。
――でも、退く気はない。
空間の歪みと牙を正面からぶつける。
ミレイナの声が聞こえた。「カゲナ!! 下が――!」
……間に合わない。雷光と爆風が一気に視界をさらった。
立っていた。足はふらついても、手には温かな“願いの牙”がある。
「“心牙”――守りたいという意志の形」ライゼンが名を告げた。
ミレイナと向き合う。
「あんたが牙を持ったってんなら、こっちも本気出すしかないでしょ」
その時――身体が重くなった。
(……少し、休むよ。あとは――任せた)
影が溢れ、笑い声が広がる。ノクシアだ。
僕の感覚を真似して戦い、笑って、最後は満足そうに戻ってきた。
交代したミレイナと戦おうとするが――牙はもう出ない。
心の余力が残っていなかった。
……そして、底の底からそれは来た。
ノクでも、僕でもない。意思も形もない原初の悪魔の力。
瞳が赤く染まり、黒い紋様が走る。
空間が裂け、大地が悲鳴を上げた。
(やばい……これは僕じゃ止められない……!)
ミレイナ、クレアナ、ライゼンが力を合わせて僕を封じようとする。
その中で――かすかに、声がこぼれた。
「……まも、りたい……」
嵐のような暴走が、一瞬だけ緩む。
そこを雷と武具が貫き、世界が静かになった。
倒れた僕の体は傷だらけ。
でも――心は、まだ壊れていない。
(……まだ、終わってない。僕は、もう一度……)