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Event File-00 昨秋の転校生

高校生が色にまつわる伝説を解決していく。

内容としておおまかにまとめると、このような感じです。


この話は、もともとゲームを作るつもりでした。

(というか、現在も作る気はあります)

ちょっと忙しくてなかなかできないと言うか何と言うか。

そんな感じですので、小説をかいております。


キャラなど気に入っているのに、日の目を見ないなんてなー、と思いましたので。

分岐シナリオのルートの一つを書いてみることにしました。

というわけで、できてもいないゲームのある意味でネタばれ作品ですが。

趣味で選んだ分岐ですので、どのエンディングに向かうかとかは秘密で。


それでは、少しでも気に入って頂ければと思います。

「次は終点、相賀谷(そうがや)。お忘れ物など御座いませんよう、今一度ご確認ください……」

夕暮れの街中を走る電車の車内で、次の駅を告げるアナウンスが流れる。

車内に人はまばらで、横に置いていた荷物から携帯を取り出す。

受信メールが一件。

父親からだった。

『世人へ

 書類が届いてると思う、寮についたら取りに行ってくれ。

 学校の方も、頑張るように。』

簡単な返信をして、鞄を肩に担ぐ。


両親の離婚に巻き込まれて、一年の秋頃という中途半端な時期に転校した。

それまで付き合いのある程度あった友人とは、結局妙な切れ方が原因で今回の帰省でも会うことがなかった。

『所詮、その程度か』

期待していたわけではないが、帰省したところで生活に変化はない。

夏休みの帰省は見送ろうか、と外の景色を見ながらぼんやりと考える。

突然の転校だというのに受け入れてくれたのは、昌慶(しょうけい)学園だった。

中高一貫の私立校で、進学率も良い。

おまけに寮まであって、仕事で忙しい父にはうってつけだったのだろう。

そんな父に対する何の気持ちも生まれてこないあたり、自分は慣れてしまったのだ。

家にはいつも、人がいないこと。

両親のどちらも、自分を気にしていないこと。

心細いだとか、寂しいだとか口にしてはいけないことに。


「あら、ありがとうね」

ただ立っていた自分にお辞儀をしてお婆さんが前を通ったことで、意識が現実に戻ってくる。

どうやら知らないうちに乗客のほとんどは降りていて、自分は道を譲ったように見えたらしい。

『……なんだか、酷く申し訳ない』

思いながら鞄を担ぎなおして、歩きだす。

相賀谷市は、春らしさにいつも通りののどかさが相まって、吹く風も優しく感じられる。

『ここは、落ち着く』

このまま最低でも四年くらいは過ごし続けるだろう場所に、伏木は懐かしささえ覚えて歩いた。



新入生やクラス替え発表を見終わった生徒が、忙しく行きかう廊下。

最初縫うようにして進んだ伏木の格好を見やって、次々と生徒が道を開けていく。

新入生らしい二人組の一人が、「耳、凄い……」と呟いた。

言っているのは、世人の左耳についているカフのことだろう。

いつものことと気にもせず、歩みを進める。

2年B組の教室のドアを開くと、生徒はほとんど揃っていた。

空いている席のところへ進もうとすると、黒板に書かれている文字が伏木の目に入った。

着た順番で名簿に名前を書くように、と簡潔な言葉のそれを見て顔をしかめる。

見る限り、教卓の上に筆記用具は置かれていない。

書くものをわざわざ取り出すなんて面倒な、と思いながら鞄を開けようとすると、不意に声をかけられた。

「よ、俺のペン使う?」

いつの間にか伏木の横には、次に来たらしい生徒が立っていた。

声をかけてきたのは人懐っこそうな顔つきの男子生徒で、ボールペンを差し出している。

柔らかそうな茶髪で、左目の方に泣き黒子がある。

記憶では数年前に流行していたはずであろうスポーツブランドの、エナメルバッグを肩にさげていた。

「サンキュ」

『……こいつなんで、ゴーグルしてんだ』

何より、印象深いのが実際はしないだろう大きめのゴーグルだ。

頭上で存在を大きく主張するそれが気になりながら、伏木はペンを受け取る。

「あれだろ、去年の秋に転校してきた伏木世人(ふしきとしひと)君!」

「え?」

片眉をあげて問い返すと、その男子生徒は肩をすくませて笑いながら。

「ま、そう凄むなよ。本人にその気がなくても、その目つきだとそう見えっから!」

その言葉に引っ掛かりを感じながら、伏木は眉根を寄せた。

すれ違ったことこそあるかもしれないが、交流どころか目があった記憶もない相手。

もしあったとするなら、ゴーグルで思い出せるはずだ。

表情そのままで見つめる伏木に、男子生徒は「とりあえず座ろうぜ」と言った。

特殊とも言えよう三人がけの自由席で、隣同士に座った後男子生徒が口を開く。

「俺、圓藤晃一(えんどうこういち)。中学からバイト三昧で、人の名前とか覚えんの得意だからさ!」

気分悪くしないでな、と見てくる瞳が何かに似ている。

そういえば、と思い出したのは実家の近所に住む老夫婦が飼っている大型犬だった。

思わず頬が緩みそうになるのを、伏木はこらえる。

「でも、大体みんな知ってると思うぜ? 転校生だし」

「妙な時期に、転校してきたからな」

感慨もなく呟くと、圓藤がそれに首を振りながら答える。

「それもあるけどさ、かっこいいから女子が反応しまくってたの、知らないか?」

「……かっこ、いい?」

呆けた顔で聞き返すと、そう。と短い相槌をして圓藤が頷く。

生まれてこのかた、そんな言葉とは縁がないためかなんと反応すべきか困る。

怖いだとか、目つきが悪いだとかはよく言われるが。

考え込んで黙ったままの伏木を見ながら、圓藤が肩を叩きながら笑って。

「モテる男はつらいな!」

そんなことを言うものだから、ますます反応に困った。

伏木が横を向きながら溜息をついていると、圓藤が誰かを見つけたらしく手を振っていた。


「桃千ちゃーん、ここ来なよ!」

ふと教卓の方を見ると、小柄な女生徒が手を振りかえしている。

席までゆっくりと歩いてくる女生徒を、クラスの男子が何人か振り返った。

「おはよう、圓藤君」

「おはよ、隣どーぞー」

親しげに挨拶を交わす圓藤に、彼らの視線が突き刺さるのが嫌というほどわかる。

関係ない、という顔をしている伏木が少し顔を戻すと、目が合う。

小首を傾げながら、挨拶をされる。

「おはよう、……えっと」

「桃千ちゃん、こいつ伏木世人!」

名前がわからず困っているのに、すかさず圓藤がフォローをいれた。

すると、輝かんばかりの笑顔になって女生徒が頷く。

「伏木君、去年の秋に転校してきたよね?」

「あぁ……、そうだけど」

よかった、ちゃんと覚えてた。と笑う女生徒の笑顔はまぶしい。

仲条桃千(なかじょうももち)です、よろしくね」

控えめに右手を差し出されて、断る奴なんているのだろうか。

幸い男子生徒の視線が向いていないことから、伏木は迷うことなく手を差し出し返す。


「二人、仲良しなんだね」

席に着いた桃千が笑顔で言うのに対して、笑顔の圓藤とは違い伏木は眉根を寄せる。

「仲良いぜー、な?」

同意を求めようと振り返った圓藤に、伏木が苦笑する。

「お前、今『マジ勘弁』とか思ってんだろ……」

「いや?」

詰め寄る圓藤を軽くあしらう伏木。

そんな二人を見て、桃千が笑う。

「ふふ、羨ましいくらい仲良しだね」

どういう認識でそうなるのかわからないが、と言おうとする前に圓藤が振り返って。

「ちょ、桃千ちゃん、これのどこが!」

そう訴えた。

少しずれた感性なのか、訴えも全く気にせず笑顔で桃千が言う。

「照れてるだけだよ、大丈夫」

「こいつに照れるなんて可愛らしい感性、あると思ってるの!?」

失礼な奴め、と伏木が軽く足を小突くと圓藤がほらー、と訴えるも桃千は全く気付かない。

「本当に嫌なら、隣に座らせないよ?」

そこまで俺は好き嫌いが激しく態度に表れるタイプか、と伏木が思っていると。

圓藤が確かに、そうだけどー。と机に突っ伏す。

落ち込んでしまったのか、とあせったのか桃千が励まそうと背中を軽く叩いて一言。


「大丈夫だよ、圓藤君。伏木君ね、圓藤君のこと大好きだよ!」


よくとおる声で発された言葉に、教室が一瞬静かになる。

伏木が片手で頭を抱え、圓藤は突っ伏したまま。

本人が思っているより凄いことを言った自覚のない桃千が首を傾げて、少し困り顔で。

女生徒が、ひそひそとこちらを向いて何か言っていたり。

男子生徒の一人が青ざめた表情をしているのは、おそらく桃千が圓藤に告白したのだと勘違いしているのだったり。

廊下から、静かな教室を訝しんで違う組の生徒が覗いていたり。

とにかく妙な雰囲気の教室に、勢いよくドアが開く音が響く。

「おはよう、担任の上野永登(こうずけひさと)だ。連絡事項を言うぞ……」

生徒が席についたのを軽く視線で確認した後、よどみなく次々と連絡事項が伝えられる。

そして、配布プリントを見るように、と言ったかと思うと隣の組の担任に呼ばれ出て行った。


「……いろんな意味で、助かったけど」

プリントに視線があるものの、中身なんかは一切入っていないだろう圓藤が呟く。

「あ、伏木君って寮生?」

自分が原因だとわかっていないからか、明るい表情で桃千が問いかける。

「そうだけど」

「お、そうなん?」

一緒の寮かもな、と元気を取り戻したのか圓藤が鞄から資料らしいものを取り出す。

言葉に引っ掛かりを感じて、伏木が首を傾げると、気付いたのか圓藤は一枚の紙を見せる。

「ほら、今年から別寮が増えたんだよ」

「私、別寮のほうだったんだ」

「へぇ……」

自分がどっちだったか、というのを思い出そうと伏木は記憶をたどるも、思い出せる気配はない。

資料も父親に記入してもらうために実家に置いてきて、今日届くはずだった。

その寮も、どちらだかわかっていない。

「お前は?」

問いかける圓藤と桃千に対して、伏木が現状を伝える。

「おっまえ、しょうがねぇ奴だなー」

言葉とは裏腹に、溜息をつくわけでもなく笑う圓藤。

「別寮もそんなに遠くないはずだから、一緒に見に行こう?」

桃千が相変わらずマイペースに提案したことに、伏木が頷く。



新学期の始まりの日。

それは授業時間も少なく終わり、早く帰ることができる日である。

「あーっ! 終わった終わった!」

嬉しそうに伸びをする圓藤が少し前を歩いて、桃千が横に並びゆっくりと歩く。

学生街らしい光景で、あちこちに小学生やら中学生がいる。



――― 良い日だねぇ…… ―――


――― のどかで、心地いいよ ―――


「……ん?」

思わず顔を横に向けて、自分より低い位置にある桃千と目が合う。

「どうしたの?」

「おーい。二人でいちゃつくなよー」

振り返って声をかける圓藤の声、でもない。

勿論横にいる桃千のような声でもない。


『……なんの声だ?』


「いや、空耳だったみたいだ」

そう言ってとりあえず二人を安心させるものの、伏木の心の中には妙な感覚がただ募る。

頭の中に響くような、謎の声。

気のせいでない。

それだけは、確実にわかっていることだった。

同時に伏木の中に、なんで今更、という思いが生まれる。


幼い日、人間以外のものが話すこと動くことを不思議と思わなかった時。

歳をとるにつれて徐々に薄れていく、その力。

いつしか声も聞こえなくなった自分に、今更どうしてそれが戻ってきたのか。


そこで深く考えることは、しなかった。

『……でも、なにかある』

勘、と言ってしまえば終わりだが、予感はする。

伏木は心に一種の決意のようなものを抱いて、歩みを止めずに進んだ。


伏木世人 高校二年生

相賀谷市にある私立昌慶学園の高等部に

昨秋転校してきた男子生徒である

新学期開始のその日、彼は再びかつての不可思議な力を取り戻す。

そして、そこから相賀谷市を取り巻く謎に、直面していくのだった。


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