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episode 01|将来の夢

「将来の夢?そりゃ二刀流を習得することさ!たぁっ!!そんで最強の剣士になる!」



「二刀流を習得する」それが最近のレイの口癖だ。何に影響されたのか知らないが、ある日突然「俺、二刀流使いになる!」と言い出したのだ。その日からは二刀流の修行漬けの日々。今もその真っ最中だ。


 本来両手で持つような重さの剣を片手で扱っているため、デタラメな動きになっている。しかしそれが却って予測することのできない動きになっていて、これはこれでアリなのでは?と思ってしまう。



「相変わらずだなレイ。くっ!ふッ!!僕も負けていられない。」



 そう言いながらレイの剣を迎え撃つのはレオンだ。彼の太刀筋はレイとは対照的で、型に忠実、丁寧といったイメージがある。剣を振るたびに揺れる、白く長い髪もレイとは対照的だ。


 この光景も見慣れたもので、毎日欠かさず、隙あらば2人で修行をしている。



「レオンは、っ、、、騎士になりたいんだっけ?」



「ああ。王国で1番の、ぐっ、、、騎士になりたいと思っている。」



「今更だけど、なんで?」



「…愚問だな。」



「なにおーぅ!」



 馬鹿にされて苛立ったのか、レオンの懐へ一気に詰め寄ろうとするレイ。



「…格好いいからだよ。」



 照れくさそうに、顔を背けながら呟くようにレオンが言う。



「なんだ、俺と一緒か!!」



 お互いの間合いに入る一歩手前で急ブレーキをかけるレイ。そしていつの間にかレオンと肩を組んでいる。



「そうなるな。」



 肩を組まれ、されるがままになっているレオン。ただ、振りほどこうしないところを見るに、悪い気分ではないのだろう。



「ま、二刀流のほうが格好いいけどな!」



「この場合比べるなら剣士と騎士だろう。二刀流と騎士を比べてどうする。」



「うるせー、相変わらず細かい男だなー。」



「なっ。」

   


 また始まった。私はやれやれと肩をすくめる。まぁ、これも見慣れた光景だけど。



「なーフィリア。どっちのほうが格好いいと思う?」



 レイは背後にいる私に対して、首だけ動かして私の方を見る。



「んー?どっちも格好いいと思うよ?」



 こういう時は当たり障りのないことを言う。触らぬ神に祟りなしとはよく言ったものだ。



「相変わらずフィリアは適当だなぁ。」



 普段あんまり考えてなさそうに見えるけど、レイは意外とこういうところが鋭い。



「本心だってば!」



「そういや、フィリアは将来何になりたいんだ?」



 取り繕ってもレイにはバレているだろう。特にそれ以上つっこまずに私の夢について聞いてくる。



「…私?私は――」


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

  

「――私は……」



「フィリア?」



 HPが減ってきたため、フィリアにヒールを頼んだが反応がない。大丈夫だろうか。



「あっ、うん。なに?」



 ふと我に返った様子のフィリア。彼女がこちらに振り向くと、連動してその長い髪の毛が揺れる。



「いや、ボーっとしてたから大丈夫かなって。」



「うん、大丈夫。考え事してただけだから。」



 …嘘ではないだろうが、フィリアに限って戦闘中に考え事をするだろうか。ここは大事をとって休憩を取った方がいいだろう。



「ならいいけど…。一旦休憩するかぁ。」



 そういいながら俺は、近場の岩の上に腰を下ろす。



「私ならホントに大丈夫だよ?」



 気を使われたと思ったのだろうか。胸の前で両手をぶんぶん振る。昔からそうだ。フィリアは自分のせいで物事が変化することを極端に嫌がる。悪い癖だ。



「違う違う、俺が疲れたの。まさか、休憩なんてしてないで修行しなさいー、なんて言わないよな?」



 バレバレだろうけど一応取り繕う。あくまで俺が疲れたんだ、と。



「言わないよ。フフ。レイがそう言うならお言葉に甘えて私も休憩しよっかな。」



「おう。」



 昔なら絶対に折れていなかった。自分でも今日の私はおかしいと自覚しているのだろう。こういうところは成長を感じる。


 ほかに成長したところと言えば……意外と出るところは出てるし、髪も伸ばしてサラサラになったし……って俺は何を考えてんだっ!


 ブンっブンっと頭を横に振る。



「…レイ?」



「何でもない!気にしないでくれ。」



 明らかに不審に映っただろう。気にしないでというほうが無理な話だ。



「ふーん、まぁいっか。」



 何かを察したのか、それ以上は深入りはしてこなかった。こういう優しさはありがたい。



「紅茶でいいよね?」



「ああ。」



 フィリアは手慣れた様子で、持参してきているティーセットを広げている。修行の休憩中にティータイムを嗜む。いつもの光景だ。


 いつもと違うことがあるとすれば、フィリアが浮かない表情をしていることだろう。



「…」



「…」



 沈黙が続く。


 俺はこのティータイムが好きだ。たとえ会話がなくとも心地よい。時には会話すら煩わしいと思うことさえある。


 そんな至福の時間だが、今は重苦しい、居心地の悪い空間となっている。このいつまでも続くように思われた静寂を切り裂いたのはフィリアだった。



「…ねぇ、13年前のこと覚えてる?」



 13年前…覚えてるけど、なんのことだ?全く見当がつかない。



「13年前?うーん、なんかあったっけ?」



「ほら、3人で将来の夢について語り合ったじゃない?」



 どれだ!?心当たりがありすぎる!正直、将来の夢なんて隙あらば語ってたからなぁ俺。



「心当たりがありすぎてどれのことか分からん。」



「あはは。レイってばいつも「二刀流を習得するんだー」って言ってたもんね。」



 ようやく笑顔を見せたフィリア。とりあえず一安心だ。けど結局質問の意図がわからないままだ。



「で、結局13年前がどうしたんだ?」



 痺れを切らして聞いてみる。



「んー?レイってあの頃から全然変わってないなーって」



 そんなことないだろ。結構変わったと思うが…身長だって伸びたし、声変わりもした。好き嫌いだってほとんどなくなったんだ。変わってないことと言えば…二刀流のことくらいじゃないか?



「そうかー?結構変わったと思うぞ?」



「変わってないよ。そりゃ細かいところは変わったかもしれないけど、大事なところは変わってない。芯が通ってて、本当の意味での強さをもってる。」



…アレ?なんかめっちゃベタ褒めされてないか?



「どうしたよ急に。褒めてもなんも出ないぞ。」



「本心だってば!」



 でた。「本心だってば!」、これはフィリアの口癖だ。いや、厳密には俺がフィリアの発言を疑うことが多いから(フィリアはたまに適当な発言をするため)自ずと言わされている、という感じだ。

 さーて、今回はどっちかな。



「仮に本心だとして、お前が不調なこととなにか関係があるのか?」



 結局フィリアが集中できていなかった理由が分からない。このままでは埒が明かないので踏み込んでみる。



「……レイはさ、私の将来の夢のこと覚えてる??」



 質問の答えになってないが……まぁいいか。フィリアの夢?……やべえ覚えてないぞ。そもそも聞いたことあったか??



「えーと……。」



「……」



 フィリアはじっと俺の目を見つめている。どーすっかなこれ。いや、覚えてないからどうすることもできないんだけど。正直に言うしかないか。



「あー…ごめん。覚えてない。」



 はい。どやされますこれ。



「そっか…」



 まぁ、覚えていなかった俺が悪いからな。反省します。



「まぁ、13年も前だしね。覚えてないのも無理ないよ。」



 そういってフィリアはティーカップに口をつける。

 …えっ、それだけ?めっちゃ怒られる覚悟してたんだけど。



「えっ、あの。怒ってないんですか?」



 恐る恐る聞いてみる。



「あはは。怒んないよそんなことで。それとも、怒ってほしかったの?」



 先ほどの表情とは打って変わって無邪気な笑顔を見せるフィリア。吹っ切れたようにも見える。

 そうなると不調の原因と、質問の意図が分からないぞ?



「いや、そういう訳じゃないけど…」



「じゃあいいじゃん!レイは怒られたくなかった。私も怒るつもりがなかった。winwinってやつでしょ?」



「いやちょっと何言ってるかわかんねーぞ…」



 なんか完全に調子取り戻したっぽいな。なんでだ?この数分間で俺が関与したことって、俺がフィリアの夢を覚えてなかったことくらいだぞ?むしろ事態を悪化させかねない要素だろ。それなのに……

 何か隠してるのか?



「よし!休憩終わり!!行くよ、レイ。」



 逃げるようにして休憩を終わらせるフィリア。間違いない。フィリアは何かを隠している。そしてそれは、フィリアの夢と関係がある。



「えっ、将来の夢教えてくれないのか??」



 一応粘ってみる。これくらいの踏み込みは自然だろう。なんならこの流れで夢を教えないほうが不自然だ。



「えー、秘密♡」



 人差し指を口につけて首を傾げる。いや、今そういうの求めてないんだよ。…かわいいけど。



「そこをなんとか!!」



 これで最後だな。これで無理だったら諦めよう。めっちゃ気になるけど、言いたくないことを無理に言わせるのは良くない。



「えー、だって私はレイの夢覚えてたのにそれはなんか不公平じゃない?」



 そう言って悪戯っぽい笑みを浮かべるフィリア。やっぱちょっと根に持ってるじゃねーか。いやそもそも夢のことを話してる回数が全然違うし!俺は毎日のように言ってた訳で…フィリアの場合は言ってたとしても1,2回だろ!それを引き合いに出されてもなぁ。


 ま、フィリアの夢についてはまた別の機会に聞くとしよう。



「ヘイヘイ、俺が悪うござんした。」



 そう言って俺は腰を上げる。さぁ、修行の続きだ。



 

 





  




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