0096神の聖騎士01(1928字)
(13)神の聖騎士
「ラグネーっ!」
「ラグネ、この野郎! 心配させやがって!」
背後から飛びついてきたのは武闘家コロコと魔物使いボンボだ。ラグネは髪の毛をぐしゃぐしゃにかき回されながら、あまりの嬉しい再会に涙腺がゆるんだ。
「お久しぶりです! よかった、あの後大丈夫だったんですね……!」
「大丈夫じゃなかったよ! 2日間取り調べを受けたんだから!」
「そうだそうだ! 祝勝会じゃお前がおごれよ、ラグネ! 何せ1億カネーの持ち主になるんだからな!」
デモントとケゲンシーが噴き出した。
「お前ら、仲がいいな。ラグネのパーティー仲間か?」
コロコが今気がついたとばかりにデモントとケゲンシーを見やる。少し赤面した。
「ありがとうございます、ふたりとも。私はコロコ、こっちはボンボといいます」
デモントは34歳ぐらい、ケゲンシーは20歳ぐらいの年恰好だ。コロコに応じて自己紹介した後、ふたりはラグネたちと握手した。デモントが白い歯を見せる。
「ラグネが『昇竜祭』武闘大会の授賞式で、お尋ね者アーサーを助けたんだってな。そのとき黄金の翼を使ったって話に、俺さまもケゲンシーもピンときたんだ。これは『神の聖騎士』に間違いない、ってな」
ラグネは目尻の涙をぬぐいながら、デモントとケゲンシーに尋ねた。
「おふたりとも、聞きたいことは山ほどあります。ともあれまずは、ザーブラ新皇帝のもとへまいりましょう。勝利を報告しに行くんです」
そこへ嫌なだみ声が飛んでくる。
「おい、ラグネ!」
5人が振り向いた先に、あの勇者ファーミと腰ぎんちゃくのコダインが、馬に乗って現れていた。彼らが逃げかけたおかげで冒険者たちの陣は崩れかかったのだ。てっきりそのことを謝りにきたのかと思いきや、ファーミはこう言った。
「おい、そこのほうき頭! それから黒縁眼鏡! 何で俺の転進を邪魔したんだ?」
あからさまな逃亡を転進って……。ラグネは呆れた。勇者は怒りながら話を続ける。
「だいたいラグネが失敗したから魔物たちは攻勢に出たし、お前らふたりが遅かったから無意味な戦死者が出たんだ! 恥を知れ! この能なしが!」
デモントがラグネに小声で質問した。
「なああいつ、殺してもいいか?」
ラグネは急いで首を振る。デモントの声に心からの殺意がこもっていたからだ。彼は舌打ちすると、三叉戟をファーミに向けて掲げた。
「おいてめえ! 俺さまとケゲンシーはたまたまラグネを助けられたんだ。戦争の最前線に戦力として加入しようと志したら、『ゾイサー』で虜にされたラグネを偶然発見した。だから救出した。それで聞くが――お前はなぜラグネを助けられなかったんだ?」
ファーミは真っ赤な顔をして怒鳴る。
「あんな高空に囚われたラグネを、俺がどうやって救い出せるっていうんだ。できるわけないだろ」
「だからさぁ……」
デモントの憤激が危険水位まで高まりつつあった。
「俺さまたちがいなけりゃ、この戦争は負けてたし、お前の命もなかったっていってるんだよ。どのツラ下げて今さらのこのこやってきやがったんだ。お前こそ恥知らずの能なしだろうが……!」
「何だと……!?」
ラグネはデモントの袖を引っ張る。ふたりの目が交錯した。
「お願いです、怒らないでください、デモントさん。ファーミさんはああいう人なんです」
その言葉はデモントのマグマを冷やす効果があった。三叉戟を下ろす。
「……はぁ、まあいいや。取りあえずラグネに免じて許してやるか」
ケゲンシーがほっと安堵した。分厚い魔法事典を閉じると、それは急にかき消える。デモントも三叉戟を一瞬で消してみせた。いったいどういう仕組みなんだろう?
ケゲンシーがうながす。
「デモント、ラグネ、コロコ、ボンボ。ザーブラ陛下のもとへ向かいましょう」
5人はぞろぞろと皇帝軍の本陣に出発した。無視された格好のファーミたちは、立ち去るラグネたちの背中に怒声を叩きつける。
「ふん、逃げるのか! 真実を突かれて反論できなくなったんだろう! バーカバーカ!」
ケゲンシーはデモントの表情を見て、彼の背中をなだめるようにさすった。
「ラグネか、話は聞いているぞ」
ザンゼイン大公にしてロプシア帝国第26代皇帝のザーブラが、ラグネの元気な姿に、まず安堵する。
夕暮れの本陣はメタコイン王国との緒戦を制したためだろう、笑顔と喜びに包まれていた。大勢がひっきりなしに出入りしているそのなかで、ザーブラは軽く酒をたしなんでいた。そして、側近が告げた来訪者たちを迎え入れたのだ。
「ザーブラ陛下もご無事で何よりです」
ラグネはひざまずいてぺこりと頭を下げる。コロコとボンボとケゲンシーも同様にしたが、デモントは立ったまま腕を組んだ。
「へえ、これが噂の皇帝ザーブラか。なかなか聡明そうだな。いけてるおじさんって感じだ」