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0093ラグネと魔王04(2209字)

「スカッシャーさんも……! 変わりなく……」


 そうだ、とコロコはいったんキンクイと離れ、ふたりに頭を下げる。


「ご結婚おめでとうございます!」


 以前ラグネが話していた。スカッシャーとキンクイは、田舎に戻って結婚し、冒険者をやめて別の職業についたと。ふたりはかしこまった祝福に、ついついかしこまって返した。


「ありがとうございます!」


 そうして3人で爆笑する。にこやかな雰囲気がが発生した。だが、それはすぐに消え去る。


「でもおふたりは、何でここに? ひょっとして冒険者たちを激励しに来たんですか?」


 キンクイは手を振って否定した。


「違うよ。あたしたちも戦争に参加するのさ」


「ええっ!? 本当ですか?」


「がははは、なぁに、それがしも妻も腕はなまっておらんぞ」


 コロコは心配になってキンクイの手を両手で握る。せっかく結婚して幸せになったのに、命を落とす可能性がある今回のいくさに参加するなんて、馬鹿げていると思ったのだ。


 その心を読んだかのように、キンクイがコロコの頭を撫でた。


「大丈夫、あたしたちはそんな簡単にやられたりしないわ。違う?」


「それはそうですが……」


 スカッシャーとキンクイの強さはコロコも知っている。それでも、万が一ということもあるだろう。


 そこで大きなドラ声がとどろく。タルの上に乗った40男の叫びだった。


「よくぞ集まった冒険者たちよ! たった今、先陣を切ったものが敗れたとの報が届いた! 気を引き締めて、隊列を崩さず前進開始せよ!」


 ボンボが首をかしげる。


「『先陣を切ったもの』……。妙な言い方だな。まるでひとりで魔物たちと対したかのような……」


 コロコはピンときた。興奮してまくし立てる。


「ラグネよ。たったひとりで魔物相手に先陣を切るなんて、ラグネ以外の誰にもできないよ!」


 スカッシャーとキンクイも目を丸くする。彼らもかつてラグネとパーティーを組んでいた。


「あのものすごい光の矢の雨……。あれを使ったっていうのか?」


 コロコは「えっ、でも待って」とさえぎった。


「『敗れた』って……。ラグネが、死ん……」


「おっと、それ以上言うなよコロコ」


 ボンボが厳しい顔つきでさえぎる。


「まだ何も分かっちゃいないんだぜ。とにかく今は前進あるのみだ。どう戦い、いかにして生き残るか。それだけを考えろ。大丈夫、きっとラグネは無事さ」


「ボンボ……。そうね、そのとおりだね」


 コロコは自分の両頬を平手でぴしゃりと叩くと、気を取り直して歩き出した。周りの冒険者たちとともに……




 こうして冒険者たち5000と大公の軍勢2万5000が、2万の魔物たちと激突したのは、その日の午後だった。


 まず弓矢部隊が矢の一斉射を行ない、続いて魔法使いたちが風や氷、水や火の攻撃魔法を叩きつける。いずれも無差別に魔物たちを襲ったが、倒した数は耐え切った数の10分の1にも満たない。


 やはり肉弾戦か。コロコは緊張と恐怖をやわらげるため、篭手に包まれた手を握ったり開いたりした。


 勇者ファーミが勇者の剣を頭上で振り回す。大声を発した。


「かかれーっ!!」


 (とき)の声が上がり、戦士や剣士、武闘家、レンジャー、魔法剣士たちが魔王軍に突っ込んでいく。立ちふさがる異形の生物たちに、もはや恐れやうろたえを捨て去って、彼らは獰猛(どうもう)にかかっていった。


『魔法防御』の魔法に関しては、かけてもらったものとそうでないものとがいる。僧侶や賢者が用いるこの魔法は、結界を張って敵からの魔法攻撃を無力化するものだ。ただし、回復魔法もよほど近づかない限り無効化してしまうため、()()しがあった。


 半人半馬、翼竜、巨人、骸骨剣士、大狼、コボルド、ホブゴブリン、オーク、大蛇、ゴブリン、魔人、リザードマン、ハーピー……。さまざまな魔物たちがいたが、そのうち人間と似た種類は、人類が使うような武器や防具を装備していた。小国家メタコインのモグモ国王が提供したのだろう。


「冒険者たちに続けっ! 皇帝軍の意地を見せつけてやるのだっ!」


 大公の軍2万5000が、騎馬の突進力を武器に、怪物たちへ槍を繰り出した。こちらも自棄気味(やけぎみ)に声を張り上げて、敵軍に鋭いくさびを打ち込んでいく。


 戦局は一進一退の攻防となった。コロコ、スカッシャー、キンクイ、ゴルらの物理攻撃組と、ヨコラ、チャムらの魔法攻撃組、ボンボらの魔物召喚組がそれぞれ自分たちの役割を果たす。


 人間の赤い血、魔物の青い血が飛び交った。気合い、悲鳴、絶叫、断末魔など、各種叫びが立ち昇る。剣戟(けんげき)のぶつかり合う金属音、牙が人間を噛み砕く咀嚼(そしゃく)音、氷や炎が吹き荒れる風切り音、鎖帷子が砕け散る破砕音などがそれに重なった。


 血煙(ちけむり)が土ぼこりに紛れ、その下で生者が奈落へと突き落とされる。何十、何百、何千という命が、人間魔物問わず、戦争という名の怪物にむさぼり食われた。


 戦いはいよいよ激化し、死神の仕事量をひたすら増やし続けるのだった。




「ぬう……」


 魔王アンソーは脂汗をかいていた。我が精鋭たちが、魔物たちが押されている。その事実が彼の胸に焦燥(しょうそう)をもたらしていたのだ。


 馬鹿な。ここまで人間がやるとは思わなかった。さっきの玉ねぎ頭の少年は、『神の聖騎士』ゆえ大量に戦力を削がれた。それは仕方ない。こちらのミスだ。


 だが、今相手に『神の聖騎士』はいない。いればもっと極端な攻撃を見せてくるだろう。そうではない、ただの非力な人間どもが、こうまで頑強に抵抗してくるとは想像の外にあった。


 このままでは押し切られてしまう。何とかせねば……

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