0009ゴブリン討伐01(1958字)
(3)ゴブリン討伐
翌朝、再び冒険者ギルドへ立ち寄った3人は、依頼の紙の貼られた掲示板とにらめっこした。まだ早い時間帯ともあって、ほかの冒険者たちはごくわずかだ。
コロコが『ゴブリン討伐』や『アーサー捕縛』、『赤眼のオーク退治』に『隊商護衛』、『骸骨島の宝探し』に『60階建ての塔攻略』などなど、数え切れないほどの依頼を精査していった。
「この『ゴブリン討伐』、簡単そうな割には報酬が高額なのね」
ギルドマスターのグーンが答えた。
「ああ、中級の冒険者たちが挑んでいるが、なかなか成功しないんだ。そろそろ上級冒険者に薦めようかと考えていたところだ」
ゴブリンは初級冒険者でも倒せる小鬼だ。群れをなすとなかなか厳しいが、それでも中級冒険者が苦戦するとは考えられない。どういうことだろう。
ボンボが顎を撫でた。興味が湧いたときの癖だと、ラグネは最近ようやく覚えたところだ。
「やってみようぜ、コロコ、ラグネ。おいらたちパーティーの初仕事として、なかなかやりがいがありそうじゃねえか」
「そうね。どんな依頼も絶対に安全なものはないし、腕をなまらせないためにもいいかもね」
ふたりは同時にラグネを見た。ラグネはドキリとしたが、特に反対する意見も持ち合わせていない。首を縦に振った。
「よし、決まり! グーンさん、これは私たちが引き受けるわ」
その間、スールドは黙々と書類仕事に没頭していた。ラグネはその様子を眺めていたが、ひょっとすると失礼に当たるかもしれないと思い、すぐに目をそらした。
依頼書を複写したものを手に、コロコは馬を走らせる。それを二人乗りのラグネとボンボが追いかけていた。空は青く澄み渡り、メガド山麓の流麗な稜線が目に優しい。草原はときおり、苔むした岩石や常緑樹の林などを備えていた。起伏はそれほど酷くなく、馬も快適に足を繰り出している。
「えーっと、ハラハ村ハラハ村……。あっ、あれがそうかな?」
コロコが前方を指差した。三圃制の畑が複数横たわるなか、石造りの建物が密集している。馬が重量有輪犂をひいており、畑をパワフルに耕していた。村の後背には巨大な森が翼を広げており、餌を食わせた帰りか、牧畜家が養豚とともに出てくるところだ。
コロコが村人のひとりをつかまえる。あちこち継ぎはぎのあるチュニックを着込んで、クワを肩にかついでいた。
「すみません、ここはハラハ村ですか?」
「そうだよ」
「ドキド村長にお会いしたいのですが」
村民は遠くを指差した。しわだらけの手だ。
「あの大きな家がそうだよ」
無愛想だったが、質問には的確に答えてくれた。コロコは感謝の意を伝えて、ラグネとボンボを引き連れて先へと進む。ラグネは通過の際、村民がにやりと笑ったのを視界の端にとらえた。
何が面白かったんだろう? でも気のせいかな。ラグネは特に問題にしなかった。
「ようこそいらっしゃいました、冒険者のみなさま方。わしがハラハ村の村長のドキドです」
3人を出迎えた50歳ぐらいの男は、だらしなく垂れた頬肉、中身は何かと聞きたくなるぐらいでっぷりと肥えた腹をしていた。動くだけでも難儀なのか、早くも額に汗を浮かべている。
コロコは特に気にせず挨拶した。
「こんにちは。私は武闘家のコロコ。こっちは魔物使いのボンボ、僧侶のラグネです。よろしくお願いします」
「では早速用件についてお話しましょう。お座りください」
3人は椅子に座った。相対して村長とその奥さんが腰を下ろす。
「みなさまは『ゴブリン討伐』の張り紙を見ていらしたのですよね?」
「はい、そうです。簡単な依頼のはずなのに、なぜか誰も解決できないそうで……」
「魔物たちの集団戦法に絡め取られるようなんです。……小鬼たちは洞窟のなかに棲んでいます。ときおりそこから出てきては、村の畑から野菜を奪ったり、村の娘をさらったり……とにかく迷惑しております。早く誰かに倒してほしいと、心より願っております」
その後、村長は村から離れた場所にある、ゴブリンの洞窟の位置について教えてくれた。そして、報酬は40万カネーとし、貨幣入りの皮袋を机の上に置いた。硬貨同士がぶつかる金属音が、コロコたちの金銭欲を刺激する。
「成功したらお支払いいたします。どうか、どうかゴブリンどもめを滅ぼしてください」
ラグネはその言葉に込められた意志が、じゃっかん薄いような気がした。この依頼には何か裏がある。そんなきな臭さを感じていた。これはやめとくべきじゃ……
が、コロコはラグネが進言する前に、あっさりオーケーしてしまった。自信満々で胸を叩く。
「任せてください。私たちがハラハ村を覆う影を追い払ってみせましょう!」
大丈夫かな……。ラグネは不安に思いながら、でもとんとん拍子で進んだ話をぶち壊すのも気が引けた。結局口をつぐむ。
こうして3人は、馬に乗って一路洞窟へと向かった。