0084魔物使いボンボ06(2194字)
おいらはまずは師匠の魔法陣を使って魔物を呼び出す訓練をした。10歳で始めるには遅すぎるらしく、がむしゃらになって特訓漬けの日々を送った。そして2ヶ月で最初の魔物――妖精ピクシーを召喚できたんだ。このときは嬉しかったな。
「ほっほっほ、ついにやったな、ンボボボよ」
「ボンボです」
そして自分で魔法陣を描く方法や規則などを教わった。これは難しくて、習得するのにまる1年かかったよ。けど、コンボーイはそれでも早いほうだとほめてくれたっけ。
10歳から始めて3年、おいらはとうとう自在に魔物を召喚できるようになった。鎧武者やスパイダー、コボルドやノームとかを自在に操れるようになったんだ。
そういうわけで、ついに師匠から一人前と認められた。
「よくやった。もう『魔物使い』としての実力は十分に備わった。冒険者ギルドに登録し、これからは他人のパーティーに加入して金を稼ぐのだ。なに、疲れたらわてのもとに戻ってこい。ペットたちとともに待っておるぞ。ただし、美味しい手土産は忘れるなよ。わかったな」
そして、彼は言った。
「ほっほっほ、お前はわての一番弟子だ、ボンボ」
「ボンボで……あれ?」
おいらは目をぱちぱち開閉した後、急に涙があふれて止まらなくなった。長いようで短い3年間だった。親父が死んでからこっち、おいらはどこか気を張り詰めて生活していたように思う。
その糸がぷつんと切れて、訪れたのは安堵と寂寥と感謝だった。おいらはコンボーイに頭を撫でられながら、おいおいと泣いた。それでも歯を食いしばって、何とか言葉をしぼり出した。
「師匠、ありがとうございました……!」
そしておいらは戦士テレマ、僧侶ネンセイと組んで、冒険者ギルドを拠点に活躍するようになった。初めて盗賊団の拠点を壊滅するという大仕事に取り掛かったときは、正直凄く怖かった。けれど、召喚した紅翼竜のおかげで傷ひとつ負わなかったんだ。これでやっていける自信がついたといっていい。
おいらは大小さまざまな事件に取り組みながら、日々を送った。コロコと出会ったのはその1年後だった……
グーンはしみじみ聞いていた。酒を舐めるように飲むと、うなりながら腕を組む。
「お前さんもいろいろ大変だったんだな。そのコンボーイとやらは今も健在か?」
「残念、今はもうドレンブンの街から出て、行方知れずさ。もう60歳だからね、死んでなきゃいいけど」
「ふむ……」
グーンはあぐらをかくと、急に声を細めた。その瞳にいたずらっぽい輝きが表れる。
「ところでボンボくん、話は変わるけど……。ひょっとしてコロコに恋心があったりとか?」
そのからかう調子に、ボンボは思わず苦笑した。
「はは、まったくないね」
「というと、同じパーティー仲間という意識はあるけれど……」
「それ以上のものは全然。むしろラグネとかのほうじゃないの? コロコが好きだったりするのは」
そのときだった。凄まじい破砕音がとどろいたのは。
「きゃあああっ!」
女性陣であろう、複数折り重なる悲鳴。ボンボもグーンも一気に酔いが吹っ飛び、扉の外へと転がり出た。そのままコロコ、スノーカ、ガラシャの3人が寝ている部屋へ駆け寄って、扉を叩く。
「どうした!? 開けろっ!」
かんぬきが引き抜かれる。ボンボとグーンがなかに入ると、そこには……
「カーシズ!」
ボンボは叫んだ。あの『昇竜祭』武闘大会に出場していた『怪物』カーシズ、それにそっくりな大男が、壁を壊して内部に侵入してきていたのだ。巨大な斧を携行している。そのそばには黒い裾長胴衣を着た、まるでドブネズミのような老人がいた。
彼は大男の主人なのか、わめき散らすように命令する。
「カーシズ2号! その黄金色の瞳の女を殺せ! 大切なのは強者の脳みそなのだ!」
グーンがその言葉に反応し、険しく眉間にしわを寄せた。
「そうか、貴様が魔物使いイオンか! 『昇竜祭』武闘大会の優勝者を追ってきたんだな!」
ガラシャとスノーカを避難させ、コロコは篭手をはめた拳をかち合わせて立ち向かう。ボンボは鎧武者を召喚準備し、グーンは剣で身構えた。
2号は目を血走らせながら、岩のような筋肉で大斧を握り締める。
「俺さまにかなうと思うなよ!」
「それはこっちの台詞だよ!」
コロコは勇壮に怒声を放った。
「グーンさんの家を壊した罪、今つぐなわせてあげる!」
コロコは華麗なステップを刻んで的を絞らせず、カーシズ2号のどてっぱらに正拳を打ち込んだ。巨躯は一瞬ひるんだが、しかしすぐに斧を振る。これはコロコが背後に跳躍して空振りさせた。
そこへグーンが剣を振り上げて突っ込む。一気に振り下ろした。
だが……
「何っ!?」
2号の腕目がけた一撃は、猛烈な反応速度で引き戻された斧で、いとも簡単に粉砕される。グーンは吹っ飛び、折れた刀身はくるくると回転して、壁沿いの戸棚に突き刺さった。
「『召喚』の魔法! 大男を倒せ、『鎧武者』っ!」
ボンボに召喚された鎧武者は、剣を構えてカーシズ2号へと放たれる。だが直線的な動きはカーシズ2号の動体視力にとらえられた。大斧がまるで羽のように軽々と振り下ろされ、鎧武者は脳天から真っ二つに斬り捨てられる。
強い……! ボンボは戦慄した。武闘大会に出ていたカーシズよりも、今目の前にいる『それ』は数段階上の実力を誇っている。
いっぽうコロコはくじけなかった。狭い寝室で相手の斧の有効範囲が広くないことに気づいたか、今度は飛び蹴りを見舞おうとする。




