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0081魔物使いボンボ03(2192字)

 コロコはまずさっき終えたばかりの仕事の処理を頼んだ。グーンは羊皮紙のサインを魔法で鑑定する。


「うむ、問題ない。じゃあ一割もらおうか」


 3万カネーをグーンに渡した。さあ、ここからだ。コロコは笑顔でスールドにささやいた。


「スールドって、旅芸人リブゴー一座でかつて働き、ミルクとも夫婦同然だった上、本名はサイダなんでしょ?」


 スールドの顔色の変化は見ものだった。まず目を丸くし、やがて蒼白になり、最後に真っ赤になったのだ。


「な、なななな、何でそのことを?」


 スールドは仰天して脂汗を大量にかいた。コロコとボンボはそれがおかしくて、大笑いしてしまう。


「どうやらいろいろ知られたらしいな」


 グーンが苦笑して肩をすくめた。同僚の上腕を軽く叩く。


「今日はぼちぼち終わりだし、スールド、ここはひとつ早上がりしてこいつらと飲みにでも行け。後は俺がやっておく」


 グーンなりの計らいだった。




 スールドとコロコ、ボンボは、冒険者ギルドを出て酒場に入った。大衆酒場というやつで、酒もつまみも安い。まずはお互いエールから始まった。酒杯をかち合わせる。


 スールドは酒で興奮を抑えると、早速切り出した。


「何で私のことをああまで知ってたんだ? まさか、ミルクに会ったとか?」


「ご名答」


 コロコはニコニコと上機嫌だ。


「ラグネとアンドの街まで行って、そこで旅芸人一座と遭遇したの。もちろんミルクさんともね。そこであれこれ聞いちゃった。スールドさんと付き合うと、毎日が刺激的になるんでしょう?」


 スールドはまた耳まで朱色に染まった。


「そんなことまで教えたのか……あのおしゃべりめ」


 ボンボが追い討ちをかける。


「全力でサポートしてもらえるらしいぞ」


 コロコとボンボは爆笑した。スールドはひとり恥辱に耐えている。


「そ、そんな話はどうでもいいだろう。ミルクは元気だったのか?」


 コロコは目尻の涙を払いながら、大きくうなずいた。


「うん。元気にしてた。ラグネが人間だったことに抵抗あったみたいだけど、ふたりとも和解したよ」


「そうか」


 スールドはほっと安堵しているようだった。


 その後、話は移り変わった。ラグネの人間化に90歳の魔女フォーティが関わっていたこと、ラグネのマジック・ミサイル・ランチャーが強力な武器となったことなどに、スールドは深く興味を示した。


「お前ら、私が言わないから黙ってようったってそうはいかんぞ。コロコ、『昇竜祭』武闘大会優勝、おめでとう」


「えっ、もうここまで話が聞こえてるの?」


 スールドは豪快に笑った。


「お前らは冒険者ギルドの情報伝達の速さを見くびってるな。それだけじゃないぞ」


 少し前屈みになり、周囲に注意を払う。小声で述べた。


「準優勝のハルド――アーサーが皇帝ヤッキュを殺害した。そしてラグネが黄金の翼を生やして、アーサーとともに飛んでいったんだろ?」


 ボンボが驚いてうなった。


「ふーん、確かに速くて正確だな」


「そして、そのことについて思い当たることがあるんだ」


 スールドは元の体勢に戻り、酒をあおった。


「まだ私がサイダを名乗り、旅芸人一座にいた頃だ。ミルクとともに『生きた人形』のラグネに言葉を教え込んでいたときの話になる。ラグネが私を『パパ』、ミルクを『ママ』と呼ぶようになり、本当にいとおしかった、あの幸せな時期に――とある夢を見たんだ」


 コロコもボンボも釣り込まれる。スールドは内緒話を続けた。


「それは奇妙なものだった。光の中、といえばいいか。純白の空間に私は浮かんでいた。遠くに人形のラグネが、同じように浮かんでいる。まるで見えない海に身を浸しているかのようだった。だが呼吸は楽にできる。私は、このままではラグネと離れ離れになると危惧(きぐ)し、空間を泳ごうとした。だがまったく前に進まない。少し焦りだしたときだった」


 声を低めた。


「まるで天使のような、黄金色の翼を広げた乙女が現れ、ラグネのそばに降りてきたのだ。乙女は人形のラグネを抱きしめ、『いと清き魂よ。神の名において、そなたを真なる御使い「神の聖騎士」に迎える。幸あらんことを』と告げた。すると乙女の胸の中で、ラグネが輝き出した。これ以上ないくらいまぶしく、私は目をつぶった。次の瞬間には、もう夢から覚めて、汗びっしょりでベッドの中にいる自分に気がついたんだ。幕舎の中で、まだ真夜中だった」


 コロコは思わず確認するようにつぶやく。


「天使が――ラグネを――『神の聖騎士』に迎える?」


 スールドは酒杯を空けた。飲めば話しやすくなる、と言いたげに。


「私は小箱の上にあるラグネを手に取った。『どうしたの、パパ?』『何でもない』。実際ラグネには何も変わったところはなかった。だが、それにしては今の夢は現実的過ぎる。何だったんだろう? 結局そのことはミルクにも言わず、単なる夢だとして自分をあざむいた……」


 コロコはスールドの話を頭のなかで咀嚼(そしゃく)した。酒をひとくちすすってからしゃべる。


「ラグネが人形時代に天使に力をもらったのを、スールドが夢で目撃したのよ。そう(かい)する以外にないよ」


 ボンボもその説に乗っかる。


「その力が、人間に生まれ変わったラグネのなかに残ったんだ。で、結果として僧侶としての資質とマジック・ミサイルという強大な武器、それから黄金の翼として発現したんだろうな。うん、そうとしか考えられねえぜ」


 スールドはしかし、首を振った。


「コロコ、ラグネが黄金の翼を使ったのは、武闘大会の皇帝殺しが最初か?」

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