0008新しいパーティー02(1642字)
「ラグネと知り合いなんですか?」
「えっ」
スールドは硬直した。そして自分の狼狽を恥じ入ったかのように、咳をしてごまかす。
「まあ、勇者一行にラグネを紹介したのは私だからな。その責任感があったんだ」
「そうですか」
コロコは別にそれ以上詮索しようとも思わず、もう一度頼んだ。
「寝床を用意していただけますか?」
グーンが苦笑し、スールドに代わって対応した。
「ああ、すでに話のついている宿屋がある。この前の通りを右へ歩いてだな……」
道順を頭に叩き込み、もらった鍵を握り締める。コロコは笑顔できっちり頭を下げた。
「ありがとうございました!」
ギルドには多くの冒険者がたむろしており、壁に貼られた依頼一覧を眺めている。次はどの依頼を受けようか、賞金と自分たちの実力などを勘案し、ああでもないこうでもないと話し合っていた。
それをよそに、コロコたち3人は外へ出た。日はようやく暮れようとしていた。
「うーん……」
ラグネは目覚めた。頭蓋骨を内側から叩くような痛みが走る。そういえば酒を飲んでたんだっけ……
あれ? ここはどこだろう? 感触からするに、ベッドの上みたいだけど。
ラグネはまぶたを開いた。目の前にコロコの寝顔がある。鼻が触れ合うほどのあまりの近さに、ラグネは仰天した。飛び起きようとしてベッドから転がり落ちる。
「あいたっ!」
その悲鳴はラグネとボンボの共作となった。転落した先に、ボンボが寝転がっていたのだ。ラグネはあわてて彼から離れる。コロコとボンボがどちらも起き上がった。
「何? どうしたの?」
「ひでえよラグネ。ボディプレスなんて……」
ラグネは何を言うべきか迷い、すぐさま謝罪一択だと決めて土下座する。
「すみませんでした! ふたりとも!」
「あはははは」
コロコが腹を抱えて笑っている。ボンボも肩を揺らして笑声を吐き出していた。何なら途中でむせるほどだ。ラグネは居心地が悪い。
「そこまで笑わなくても……」
話は簡単だった。いつも女性陣はベッドで、男どもは床で寝るのが、彼女らのパーティーの決まりごとだった。そのラグネをベッドに寝かせたのは、単純にこのしきたりを知らないだろうから、泥酔しているから特別に、ということらしい。ふたりで占拠すれば、ベッドはすぐに満杯になってしまう。それが近い距離での就寝に繋がったわけだ。
「私にドキドキしたの? ラ・グ・ネ・くん」
ちょっとはしたけど……認めるのは何だか悔しい。ボンボがひとしきり笑った後、立ち上がって尋ねてきた。
「ラグネ、喉が渇いてねえか? もしそうなら水をもらってくるけど」
「大丈夫です。お構いなく」
その声がしゃがれていたので説得力は皆無だ。ボンボは笑いながらラグネの肩を軽く叩き、部屋を出て行った。
コロコとふたり、部屋に残される。彼女はそういえば、と切り出した。
「ギルドマスターのスールドさん、ラグネと知り合いじゃないの? 何だか妙にきみのことを心配してたけど」
そうなのか。ラグネは押し黙った。一週間前、冒険者ギルドで勇者ファーミ一行と引き合わされたとき、スールドは偉く自分のことを気にかけていた。そう、まるで父親のように……
ラグネはこの街を拠点に冒険者として働く間、ずっとスールドに見守られてきた気がする。いったい彼は何者なんだろう?
「水持ってきたぜ」
ボンボが室内の沈黙を破り、ドアからなかへと入ってきた。ラグネは水の入った杯をありがたくいただく。清流を喉に注ぎ込むと、生き返ったような心地がした。
「僕も床で寝ます」
空になった杯を置き、ラグネは床に横になる。コロコは一笑すると、ベッドを独占して寝息を立て始めた。ボンボもラグネと足を向き合わせるように寝転がる。
そこで彼が言った。
「ラグネは、いいね」
後はいびきをかくだけだった。何がいいのかよく分からなかったけど、褒められたと思って構わないだろう。
ラグネは目を閉じて、不慣れな硬い木の感触に心地悪さを感じながら、どうにか就寝しようとする。
このふたり、本当にいい人たちだな……
そんなことを考えて、睡魔に抱きしめられるのを待った。




