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0076アーサーの復讐01(1758字)

(9)アーサーの復讐




 空は綺羅星(きらぼし)が存在感を発揮している。どこかも分からない森のなかでも、それは見るものの胸に公平な暖かさをもたらしていた。狼の遠吠えが聞こえ、こずえが風に揺れる。それ以外はむしろ静かな、ありきたりな夜だった。


 ラグネは苦労して火を起こし、焚き火を作り上げた。周りから拾ってきた焚き木を炎に投じつつ、ついさっき回復魔法で治癒した相手――『傭兵戦士』ハルドを見やる。彼は両膝を抱え、そこに顔をうずめていた。


「あの、木の実食べますか? 元気出ますよ」


 ハルドは一向動かない。返事もない。仕方なく、ラグネはぽりぽりと木の実をひとつ噛み砕いた。苦くて味がしない。それはこの気まずい状況のせいなのか、それともただ単に木の実が不味いせいなのか、判断がつかなかった。


「……あのまま……」


 ラグネは耳をぴんとそばだてる。あの『昇竜祭』武闘大会コロシアムから逃れてきて、初めてハルドが口を利いたのだ。


「あのまま、見捨ててくれればよかったのに」


 ハルドはその端正な顔を持ち上げた。命の恩人を前にしても、その表情は暗い。


 ラグネはやっとハルドの声が聞けて、あまりの嬉しさにもう一度問いかけた。


「あの、木の実食べます?」


「いや、腹は減ってない」


 ハルドは苦笑しつつやんわり断って、焚き火に手をかざす。


「それよりきみの黄金の翼は何なんだ? 今は引っ込んでいるようだが」


 やっと話す気になってくれた。ラグネは彼の機嫌を損ねないように、質問に嬉々として答える。


「いやあ、自分でも無我夢中だったんです。あのとき、大勢の兵士から逃れる術はないのか、と考えて……気がついたら飛び出てました。服の背中側を透過して、こんな風に」


 ラグネは光球を出現させると、それを背中に吸い込んだ。と同時に、黄金色の翼が生え出てきて、左右に広がる。


「何が何やら分からないまま、この羽で飛ぶことができました。どうも光球のままならマジック・ミサイル・ランチャーとして、背中に吸い込めば翼として機能するみたいです。使ってみて初めてそうだと分かりました。ただ、低空飛行しかできないみたいですが――風の関係でしょうか」


 ハルドは肩をすくめた。手に負えない、といいたげだ。


「まったく、きみはいったい何者なんだろうな」


 ラグネは翼をしまって、ハルドに尋ね返す。


「それを言いたいのは僕のほうですよ。ハルドさん、いったいあなたは何者なんですか? なぜヤッキュ皇帝を殺害してしまったんですか?」


 ハルドはラグネが差し出した水筒を受け取り、その水をひと口あおる。


「ありがとう。……きみは俺を助けてくれた。ならばその恩に応えるべきだろう。少し長くなるが聞いてくれ」


 そうしてハルドは語り始めた……




 俺の本名はハルドではない。アーサーという。ロプシア帝国ホカリ皇帝の長男、第一王子セイローの息子だ。驚いたかな? そう、俺はロプシア王国のボンボンだったのさ。


 2年前のことだ。


 ロプシア帝国は常に6名の選帝侯(せんていこう)を有し、そのなかから次の皇帝が選ばれる仕組みになっている。その選帝侯は以下のとおりだ。




ロプシア国第一王子セイロー(47)


コルシーン国国王ヤッキュ(51)


マルブン宮中伯ギシネ(46)


ザンゼイン大公ザーブラ(36)


マリキン国国王イヒコ(35)


ドレンブン辺境伯トータ(51)




 錚々(そうそう)たるメンバーだろう? ロプシア帝国の4つの国――ロプシア国、コルシーン国、ザンゼイン大公領、マリキン国。そのすべてからメンバーが選出されているわけだ。


 俺の祖父、ホカリ皇帝が67歳で病没し、帝国は大きく揺れた。この騒ぎはきみも知っているよな? ロプシア帝国ではただちに選帝侯6名が帝城に招集され、一堂に会した。次期皇帝を決めるべく討議するためだ。ものものしい雰囲気だったことを覚えている。


 ただ、この会議の前からすでに、皇帝の座は俺の父――ロプシア国第一王子セイローが継ぐべきものだと半ば決まっていた。誰もがそう感じていたんだ。なぜなら父はすでに多くの選帝侯や帝国貴族、臣民たちから、その卓越した才覚と英知を認められていたからだ。


「やはりセイロー殿に務めていただくのがよろしいかと……」


「知見、識見、セイロー侯に勝るものなし」


「セイロー侯が頂点に立つというなら、誰もがその忠誠を捧げるだろう」


 投票を行なうまでもなく、会議はセイローを推挙する声であふれた。

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