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0070『昇竜祭』武闘大会29(2175字)

「え? 私は背中百叩きで重傷を負っていたけど、ハルドさんは兜かぶって鎧着て篭手はめて、武器も持ってたじゃない」


「その兜だ。あれは細い穴により視界が限定されていて、とてもじゃないが全力で戦えなかったんだ」


 コロコは腰に手を当てて口角を上げる。納得いったのだ。


「じゃ、今回はお互いホントの実力ってことね。頑張ろう!」


「おう。どっちが『最強』か、はっきり白黒つけるとしよう!」


 主審が間に入り、両者を東西にわける。十分距離ができた。


 そこでこのラアラの街のサラム町長が姿を現し、広場中央でかしこまって立つ。


「これより第18回『昇竜祭』武闘大会、決勝戦を行ないます!」




 サラム町長が観光客から「さっさと試合を始めろ」とブーイングされていた。それを気の毒だなぁと眺めながら、僧侶ラグネは皇帝のかたわらで、昨夜から今日にかけての出来事を回想していた――




「ブラボー……」


 闇夜の裏路地に現れたのは、片手半剣を携えた『技巧派剣士』シトカだった。彼のランタンの光が近づいてくる。


 ラグネはごくりと唾を飲み込んだ。まさか、『喧嘩無敗』ゴックさんや、『究極武闘家』ルルンさんを惨殺し、その脳みそを持ち去ったのは、シトカさんだったのか?


 だが、彼は陽気に笑った。


「ブラボー! きみたちも犯人を捕まえようとしていたのかい?」


「えっ?」


 コロコとラグネがハモった。意外な台詞だったからだ。コロコが問いかける。


「シトカが犯人じゃないの?」


 シトカはまばたきし、ついで理解して苦笑した。


「ブラボー。誤解されちゃ困る。僕は犯人じゃないよ。犯人のように、何かの刃物で人体を真っ二つなんて、ちょっと無理だよ、いくら何でもね」


 ラグネとコロコは大きくため息をつく。安堵と気の緩みで、その場に溶けてしまいそうだった。そのようすに、シトカは愉快そうに失笑する。


「僕もきみたち同様、ふたりの選手を殺害した犯人に怒りを覚えてるんだ。できるならこの手で罰したい。きみたちもそうだろう?」


「うん」


 コロコはランタンを手にした。


「シトカも一緒に見回りする? 3人のほうが心強いし」


 シトカは白髪の混じった黒い髭をいじる。


「いや、やめておこう。それでは犯人が恐れをなして、姿を現さないかもしれない」


「それもそうね……」


「ふたりとも気をつけて。それじゃ僕はもう行くよ。ブラボー」


 シトカはラグネたちのかたわらを通り過ぎていった。その後姿を見送ってから、コロコがラグネに声をかける。


「私たちも行こうか」


「はい」


 と、そのときだった。


 グチャリ。


 それは硬いものと柔らかいものとが、一気に潰れるような音だった。シトカが去ってからまだほんの少ししか経過していない。音源は彼の方向からだ。


 まさか――


「行ってみよう!」


 コロコがランタンを持ってラグネとともに走る。建物の角を曲がったそこには――


「うわっ!」


 コロコが悲鳴を上げた。ラグネも眼前の光景が信じられない。


『技巧派剣士』シトカが、脳天から真っ二つにされて死んでいたのだ。巨大な斧から血をしたたらせ、地面にかがんでいる巨漢は紛れもない――『怪物』カーシズ!


 彼は今しがた作り上げた死体から、脳みそを手ですくい取って食べていた。その目がこちらへ向けられる。


「見たな……!」


 コロコもラグネも、その陰惨な現場に震え上がった。カーシズが立ち上がる。見上げるような巨躯(きょく)だった。


「お前らも死ぬがいい!」


 大斧をかつぐように構え、疾風(はやて)のようにコロコへ飛びかかる。その凶器が、あまりのことに身動きできない彼女へと迫った。


 だが――


「なっ!?」


 ラアラの街の一角が、真昼のような光に満ちあふれる。ラグネの背後に光球が出現したのだ。そこから放たれた光の矢が一閃し、カーシズの斧を腕ごと消滅させていた。


「ぎゃああっ!」


 もちろんそれで終わるわけもない。ラグネとしては、この犯人――『怪物』を滅し去ろうと、矢継ぎ早にマジック・ミサイルを叩き込む。


「頭は撃たないで!」


 コロコが妙な命令を出した。ラグネはそれを念頭において、カーシズの肩といわず足といわず、頭以外の全身を滅ぼした。目的を果たしたので、背後の光球を消しておく。


 後にはシトカの死体と、カーシズの生首だけが残った。コロコはまぶしい光からいきなり解放され、暗闇に目が慣れるまで時間がかかる。


「相変わらず滅茶苦茶強いね、ラグネ……」


 と、そのときだった。


「お前ら、何をしている!」


 ラグネの光球が発した輝きに、異変を感じ取ったのだろう、憲兵隊が集まってきた。その目の前には、死体と首。


「お前らが犯人だったのか!?」


 しかし兵のひとりが気づいた。


「隊長、この女は『昇竜祭』武闘大会の準決勝進出者、コロコです!」


「何だと?」


 コロコは毅然(きぜん)と対応する。


「私たちは犯人のカーシズを倒しただけよ。シトカはカーシズに殺されたの、間違えないで」


 憲兵隊はざわついた。確かに死体は『技巧派剣士』シトカ、生首は『怪物』カーシズ。そして生きているのは『夢幻流武闘家』コロコと――誰だ?


「おい、お前の名前は何だ?」


 ラグネは急に矛先(ほこさき)が自分に向いたので、おどおどしながら答えた。


「僕はラグネといいます。冒険者ギルドに僧侶として登録されてます」


「さっきの光は何だ。どうやってカーシズを首だけにしたんだ。カーシズの体はどこへ行ったんだ?」


「そ、それは……」


「答えなくていいよ、ラグネ」


 コロコが耳打ちしてきた。ラグネは押し黙る。

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